60年余りの長きにわたって政治家も国民も目をそらしてきた、この国の暗部。国葬が終わったからといって、再び蓋をすることはもうできない。
戦後政界の裏も表も知るふたりが、癒着の淵源を明かす。
深谷隆司(ふかや・たかし)/1935年東京都生まれ。
都議を経て1972年衆院選で初当選し、郵政大臣、自治大臣、通産大臣などを歴任。
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笹川堯(ささがわ・たかし)/1935年東京都生まれ。
1986年衆院選で初当選し、科学技術政策担当大臣、自民党総務会長などを歴任
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笹川 堯(ささがわ たかし、1935年10月5日 - 87歳)は、日本の政治家。
衆議院議員(7期)、国務大臣(総合科学技術会議担当)、科学技術政策担当大臣、自由民主党総務会長(第47代)、衆議院議院運営委員長(第68代)などを歴任した。
父は元衆議院議員で日本船舶振興会創設者の笹川良一。弟は日本財団会長の笹川陽平。三男に衆議院議員の笹川博義。
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〇岸田総理で乗り切れるのか
深谷 安倍さんの国葬に出たんだけど、やっぱり菅(義偉・前総理)さんはさすが、庶民派の宰相と思いましたよ。
あの弔辞には涙が出た。
笹川 再登板を説得するために、焼き鳥屋で何時間も話したというところね。
あれは間違いなく自分で書いていますね。
深谷 菅さんの後だけ拍手が起きていた。
でも、岸田さんの弔辞は……。
笹川 お役人よろしく、紙を読んでいるだけという感じでした。
あまり悪口を言いたくはないが、岸田さんらしかったな。
世間の皆さんは反対が多かったかもしれないけれど、私はやっぱり国葬はやるべきだったと思うんです。
でも、やり方がよくなかったですよ。
深谷 亡くなってから80日も経ってようやくやるなんて、そりゃ叩かれるに決まってます。
笹川 それに、根回しがヘタだった。
安倍さんが亡くなってすぐ、岸田さんに言ったんです。「国葬にするなら、衆参の議長にちゃんと頭を下げておいたほうがいいですよ」と。
でも、聞かないんだ。
〇前回・吉田茂の国葬で、当時の総理は…
深谷 岸田さんは「閣議決定さえすれば何でも決められる」と思っている節があるみたいですが、そうじゃない。
1967年の吉田茂元総理の国葬のときは、当時の佐藤栄作総理が自ら根回しに奔走したらしいですね。
笹川 僕は吉田さんの国葬にも出席したけれど、佐藤総理が(元陸軍大佐の)町野武馬さんに90度まで深々と頭を下げるのを、間近で見ましたから。
現職の総理がここまで平身低頭するのかとビックリしましたよ。
深谷 総理が自分でできないなら腹心がそれをやればいいんだけど、岸田さんには、安倍政権の菅官房長官のような女房役が見当たらないね。
中曽根(康弘)総理には後藤田正晴さん、小渕(恵三)総理には野中広務さんと、しっかりした官房長官がついていた。
特に後藤田さんは、内務省から陸軍、警察と来ている人だから、政治家にも役人にもビシッと目を光らせていた。
僕が中堅で政務次官だった頃、大臣の代わりに記者会見をやることがあったんですが、余計なことを言うと必ず後藤田さんから電話が来て「深谷くん、あれはなんだ」と叱られる。本当によく見ているなと敬服したものです。
〇笹川良一氏と統一教会の「真相」
笹川 国葬の話に戻ると、岸田さんは何度も「丁寧に説明する」と言っていましたが、政治家の説明というのは「説得」でなければいけないんです。
今回、岸田さんの説明で納得した国民は全然いなかったでしょう。
深谷 ただ終わってみれば、一般の人たちの献花も大変な人出で、岸田さんがブレずに国葬をやり切ったことはよかったと思う。
一方で、旧統一教会の問題はこの国会でも燻るでしょうね。
マスコミには、笹川さんの父上の笹川良一さんが統一教会を日本に招いた、と書くところも多いですが、本当はどうだったんですか。
笹川 親父とは直接この件について話したことはないけれど、文鮮明氏はどうも親父ではなくて、先に岸(信介・元総理)先生のところを頼ってきたらしい。
むしろ岸先生が親父に「笹川くん、彼らを応援してやってくれないか」と持ちかけたんですよ。
深谷 当初、統一教会は宗教色を隠して「国際勝共連合」、つまり反共産主義団体として岸先生や良一さんに接触してきた。
今の若い人は実感がわかないかもしれないけれど、'60年代には本当に共産主義が世界を支配するんじゃないか、という空気がありました。
'70年には日米安保の自動延長が迫っていたし、左翼過激派の暴力や学生運動も激しく、当時の自民党や保守勢力が抱いていた危機感は、現在の尺度では測れません。
〇「反日思想」と保守派の矛盾
笹川 でも親父は勝共連合の名誉会長までやっていたのに、いつの間にか関係を断ったんですよね。ある時からスパッと付き合わなくなった。
深谷 これは推測ですが、良一さんは統一教会の思想の根幹に「反日」があることに途中で気づいたんじゃないでしょうか。
日本は朝鮮半島を占領し、人々を弾圧した国だ。
だからその贖罪をするのが日本の役目であり、日本人からはいくら搾取してもいいのだ――。
それが文鮮明氏の主張だったし、教団には、天皇陛下に扮した日本人が文氏にひざまずく秘密の儀式があったとも言われています。
笹川 政界では、清和会(現在の安倍派)との関係が特に追及されていますね。
しかし(清和会初代会長の)福田赳夫先生が1974年に統一教会のイベントでスピーチをしたから、福田先生もズブズブだったんだと言う人がいますが、そうは思えない。
先生の慎重な性格からいって、宗教団体に頼るなんて絶対やらない。
深谷 今回、お孫さん(福田達夫・前自民党総務会長)は気の毒でしたね。「何が問題かよくわからない」と言ってしまって、叩かれて。
笹川 あれは良くなかったけれど、まあ仕方ないですよ。
なんせ本人は選挙で困ったことがないんだから、本当によく知らないんでしょう。
安倍晋三元総理の父・晋太郎氏と統一教会のかかわりは? なぜ彼らは自民党に浸透することができたのか? そして岸田政権は本当に「関係を断つ」ことができるのか? 政界最後のフィクサーふたりの対談は【岸田総理に自民党の「脱・統一教会」は可能なのか?「政界最後のフィクサー」はこう見ている】へと続く。
「週刊現代」2022年10月8日号より
〇統一教会が自民党に入り込むまで
深谷 福田先生の跡を継いで清和会の会長になった、安倍晋太郎先生はどうだったんですか?
笹川 実は福田先生と晋太郎先生は、あまり仲がいいようには見えませんでした。
派閥内の基盤が弱い晋太郎先生が、統一教会につけ込まれた部分も、もしかするとあったのかもしれない。
深谷 整理すると、統一教会というのは当初は「反共の同志」と言って岸先生や良一さんに取り入り、自民党の選挙マシーンとして食い込んだ。
自民党が政策面で影響を受けているんじゃないかと邪推する人もいるけれど、逆に統一教会が自民党を利用するために政策に乗っかり、似たような主張をするようになったんだと思いますよ。
笹川 僕も深谷さんも大臣をやったけれど、少なくとも統一教会が陳情にやって来たとか、政策をすり合わせたなんてことは一度もないよね。
〇選挙ポスターを剥がされて
深谷 つまるところ、選挙の便利屋なんです。
僕は'72年の総選挙に無所属で初出馬し、当選後に自民党の追加公認をもらった非主流派でした。
その次の'76年の選挙で、同じ東京8区に「田中角栄の秘蔵っ子」と言われていた28歳の鳩山邦夫さんをぶつけられた。
実はこのとき鳩山陣営に勝共連合のスタッフが入り、有権者に猛烈な電話攻勢をかけ、あっという間に僕のポスターをほとんど剥がしてしまったんです。
そして、僅差で僕が敗れた。
だから僕にとって統一教会は宿敵なんですが、あれだけ狂信的に活動してくれるなら、コロッといく政治家が次々と出てもおかしくないですよ。
笹川 ただ難しいのは、ポスターを貼ったり、電話をかけたりして選挙運動を手伝っている宗教団体は統一教会だけではないということです。
それこそ創価学会なんて、公然と公明党を支えているわけだから。
深谷 間違えてはいけないのは、公職選挙法に抵触しない限り、宗教団体が政治活動を支援するのも、政治家が宗教団体に支援を求めるのも自由にできるということ。
そして教義の内容を取り締まることはできない。
あくまでも、その宗教団体が法に触れることをしているか否かで判断しなければならないわけです。
今回調べてみて驚いたんですが、日本には18万以上の宗教法人があって、信者の総数は1億8000万人と総人口よりも多い。
そして政治家は、応援してくれる人を選ぶことも、スタッフひとりひとりの思想信条を確認することもできない。
つまり、政治家が宗教との関わりを一切断つのは不可能ということです。
笹川 日本は法治国家ですから、仮に宗教規制をするとしても「教義がけしからん「高額の献金をさせているからけしからん」ではなく
「ここが法律に違反しているから、法に則って処分する」という形でなければできません。
逆に言えば、日本人ひとりひとりが良識を強く持たなければ、いくらでも反社会的な宗教団体に食い物にされてしまう。
精神の問題なんですよ。
まして議員は宗教に利用されないように、細心の注意を払うしかない。
自民党の議員を応援することで統一教会がカネを集めやすくなったのは事実なんだから。
韓国の統一教会本部の巨大な建物が、日本人が送ったカネでできていると思うとガックリきます。
〇「関係を断つ」は可能なのか
深谷 一方で、10年以上前に電報を送っていた程度の麻生(太郎・自民党副総裁)さんのような人まで槍玉に上がるのは、ちょっと行き過ぎだとも思う。
少しでも接点があれば真っ黒だというのではなくて、どこに病巣があるのかを切り分けて考えないと。
笹川 それが一筋縄でいかないのが、まさに統一教会が「ウイルス」のように厄介な所以でもありますけどね。
岸田さんも、今はとにかく「関係を断ちます」としか言えないわな。
深谷 国葬が終わって、これからますます政局は流動的になりますしね。
安倍派も、とうぶんは集団指導体制と言っているけれど……。
笹川 萩生田(光一・自民党政調会長)さんや下村(博文・元文科相)さんが槍玉に上がっているが、後継の会長候補でケチがつかないのは、おとなしく座っているだけの塩谷(立・安倍派会長代理)さんだけだ。
深谷 残念ながら、安倍さんは後継者を育てる前に逝ってしまったね。
確たる後継者がいないのは安倍派内に限らず、自民党全体を見渡しても言えることです。
昔は派閥の長が資金を差配し、子分の面倒を見てくれたから、若手も目の前の選挙に汲々とするだけでなく、勉強したり人脈を広げたりする余裕もあったし、その中で次の世代が鍛えられた。
でも今は派閥が弱くなり、ヒラ議員も自分でカネと票を集めないと公認してもらえないから、選挙となると怪しい勢力につけ込まれる。
岸田さんはこれからの人なんだから、頑張って立て直してもらいたいですね。
笹川 岸田さんも官僚とばかり相談するんじゃなくて、菅さんや石破(茂・元自民党幹事長)さんのようなベテランにも教えを乞い、最後は自分で決断すればいい。
せっかく自民党には右から左まで揃っているんだから、もっと人を頼らないとこの難局は乗り切れませんよ。
「週刊現代」2022年10月8日号より