業界4位「どろんこ保育園」の“不都合な真実”
東洋経済オンライン 3/28(火) 5:00配信
業界4位「どろんこ保育園」の“不都合な真実”
この認可園では、児童にあざができて虐待が疑われるなど複数の問題が発生しているが、本部は問題を握り潰そうとした(編集部撮影)
「保育園落ちた日本死ね!! !」のブログが象徴するように、保育園不足は今や深刻な社会問題だ。共働き家庭は、死にものぐるいで「保活」をし、自治体は保育園の増設に追われている。
「偽装工作」を裏付けるメール
保育の受け皿が拡大していく中で進むのが、保育園の「ブラック化」だ。補助金の不正受給、劣悪な保育、そして保育士たちの過酷な労働環境。姫路の認定こども園のケースでは、行政が積極的に指導を行った結果、全国初の「認定取り消し」となり、園長が4月以降の運営を取りやめる意向を示した。
その一方、「待機児ゼロ」をうたう首都圏では自治体が保育園増設を優先し、こうした園にも目をつぶることがあるようだ。今回取り上げる社会福祉法人どろんこ会はその1例。特色ある保育理念を掲げて人気を博し、規模拡大を続ける中で多くの問題が生じている。その実態をリポートする。
田植えや稲刈り、ヤギや鶏の世話を通して、自然にふれあい生命の大切さに気づく。食育活動では子どもたち自身がおだんごやケチャップなどを作っている――。ホームページを見ると、保護者が「わが子に経験させてやりたい」と思いながらも、都会生活ではなかなか味わえない活動の数々が、写真入りで紹介されている。
社会福祉法人どろんこ会(東京・渋谷区)。「にんげん力を育てる」を理念としてかかげ、東日本を中心に展開する50以上の保育施設をはじめ、関連法人を含めれば100近い事業所を運営している。従業員数は1515人(2017年3月1日現在)にのぼる、業界第4位の大手だ。2015年度ごろから事業規模を急拡大させ、最近では年間で10園近く新規開園する年もある。
自身の子育て経験をもとに1998年に保育園を開設し2007年にどろんこ会を立ち上げた女性理事長は、カリスマ経営者としても知られている。メディアへの露出や講演などにも積極的だ。その効果もあってか、わが子を入園させようとする保護者、そして保育士たちからの人気も高い。まさに、”理想的な保育園”といえるかもしれない。
しかし、規模拡大を優先させているためか、看過できない問題も生じている。認可を得るために「偽装工作」さえ行っているのだ。
■「抱いていたイメージと違う」
偽装工作について明らかにする前に、まずはその特徴的な運営ゆえに生じているゆがみについて触れる。
同園の日々の活動の一環として、9時から屋外で行われる「体験活動」「散歩」がある。悪天候の際に「風邪を引いてしまうのではないか」と現場保育士が訴えても、本部職員は無視。活動を強要するような指示が常態的に出されているという。
元職員は憤る。「機会を排除せずに自然体験をさせることが教育方針とはいえ、はき違えも甚だしい」。法人の教育理念に共感して就職した保育士たちの中には、「自分が抱いていたイメージと違う」と入社後数週間で退職した人も少なくない。
報復人事がなされることも
さらに、本部の方針と異なる判断をすれば、高圧的な指示を受けたり、場合によっては報復人事がなされることもある。
法人本部の方針に異を唱えていたある職員は、体調不良で2日間園を休んだ。すると、「あなたは適応障害だから、病院に行って診断書をもらってきなさい」と命じられたという。この職員の場合はこの命令に従うことを拒否したが、別の職員が指示どおり受診して、「勤務先から病院に行って診断書をもらえと言われた」と伝えると、医師はその言葉どおり、適応障害の診断書を発行。職員が管理担当者に提出すると、診断書をもとに「自己都合での退職」を求められたそうだ。
新規開園と、離職率の高さによって、現場の保育士の数は足りていない。積極的に採用広告を打ち、「1日に少なくとも数人は、中途採用をしている」(ある職員)ものの採用が追いつかず、現場では過重労働が常態化。体を壊した職員もいる。
■「偽装工作」を裏付ける書類を入手
雇用を巡るトラブルは、当事者の職員にとっては切実だろう。しかし、経営側にも言い分はあるはずであり、一方的に経営側を責めるのはフェアとはいえない。
が、経営側の責任を追及せざるをえない問題がある。新規園を開設するうえで必要となる備品の整備にあたり、極めてずさんな対応が取られていることが判明したのだ。
どろんこ会が2016年4月に開設した「武蔵野どろんこ保育園」では、開園の際に都から設備の不備を指導されており、是正が求められていた。たとえば、事務所に薬品箱が設置されていない、2階の廊下に転落防止のためのさくが取り付けられていない、外階段への侵入防止のためのチェーンがかけられていないなど、指摘は全10項目にも及ぶ。
不備が指摘されても、すみやかに是正すればそれでいい。しかし、本部の対応はその場しのぎに終始している。
「お疲れ様です。武蔵野どろんこの指摘事項対応ですが、清瀬などの周辺保育室から医務室関連物品、及び稼動間仕切り(原文ママ、可動間仕切りの間違いと思われる)を借りて、武蔵野どろんこに運び、写真をとり、(個人名)さんからの是正報告書に追記しておいてください」
偽装工作の末に、認可を得て開園
これは、筆者が入手した法人幹部から本部職員向けに送られた業務命令メール(2016年2月16日付)の一部である。同日に送られた別の職員からのメールには、「是正を行った修正後の写真は22日(月)が東京都への最終期限となるようです。ここに間に合わなければ認可が受けられないとの事、宜しくお願い致します」ともある。こうした指示を受けた職員が写真を撮り、報告書が作成されたあと、物品類はもともとあった「周辺の保育室」に返却された。
さらに驚かされたのは、実際にこの虚偽報告書を作ったのが、どろんこ会の職員ではなく、保育施設の設置工事を担当した業者であったということだ。複数施設の施工を請け負い、その見返りに虚偽報告書の作成に加担したということのようだ。
どろんこ会本部がつじつま合わせだけの報告書を提出した結果、この保育施設は認可を受けた。2016年4月には開園し、すでに園児も通っている。しかし、翌2017年1月に消防庁が抜き打ちで監査を行った際に、現場の備品不備の状況が確認されている。同園に通うのはゼロ~就学前の園児たち。保育士が少し目を離したすきに、2階から落下してしまうことも十分ありうる。現実に大きな事故が起きたとき、どのように責任を取るつもりなのだろうか。
一部の現場職員は法人幹部らに「ウソをつけと命令するのか」と問いただしたというが、法人側からの明確な説明はなかったという。
事故発生時の対応は?
実際に事故が起きたときの対応も不誠実だった。ある認可園では、ここ1年以内に園児の見失い2件、園児の体にあざが確認された。職員による虐待が疑われる案件であり慎重な対応が必要だが、本部はこの問題を握り潰そうとした。
本部の対応に不信感を覚えた保護者が、理事長に直接説明を要求。一部には署名運動を行った保護者もいた。これを受けて法人側は2017年2月、3月に事件のあった園で保護者会を実施し、掲示板でのお知らせを行った。しかし、法人内の園でこの情報が共有されることはなかった。さらに、社会福祉法人である以上、自治体への報告義務があるが、虐待疑惑に関して園からの報告はなされていない。
■誠実な説明と迅速な問題改善に期待
保育の人材はどの法人でも不足している。保育士は「売り手市場」なのだ。そのため、以上のような保育の現状に疑問を抱いた保育士たちがどろんこ会を退職しても、受け皿は無数にある。こうして、どろんこ会の数々の問題は、これまで表ざたにならずに来た。
法人側は、こうした問題をどう認識し、改善していこうと考えているのだろうか。筆者は、2日にわたって計4回電話で問い合わせたが、いずれも「広報担当者は席を外している」と取材には応じてもらえなかった。法人幹部からは、職員への一斉メールで、外部や保護者からの問い合わせに原則対応しないよう、指示が出ている。万全の体制で「取材拒否」を貫こうとしているようだ。
どろんこ会が掲げている理念に魅力を感じている保護者、そして日々を楽しく過ごしている園児たちが数多くいることも間違いない事実だ。その期待を裏切ることがないよう、誠実な説明と迅速な問題改善を期待したい。
東洋経済オンライン 3/28(火) 5:00配信
業界4位「どろんこ保育園」の“不都合な真実”
この認可園では、児童にあざができて虐待が疑われるなど複数の問題が発生しているが、本部は問題を握り潰そうとした(編集部撮影)
「保育園落ちた日本死ね!! !」のブログが象徴するように、保育園不足は今や深刻な社会問題だ。共働き家庭は、死にものぐるいで「保活」をし、自治体は保育園の増設に追われている。
「偽装工作」を裏付けるメール
保育の受け皿が拡大していく中で進むのが、保育園の「ブラック化」だ。補助金の不正受給、劣悪な保育、そして保育士たちの過酷な労働環境。姫路の認定こども園のケースでは、行政が積極的に指導を行った結果、全国初の「認定取り消し」となり、園長が4月以降の運営を取りやめる意向を示した。
その一方、「待機児ゼロ」をうたう首都圏では自治体が保育園増設を優先し、こうした園にも目をつぶることがあるようだ。今回取り上げる社会福祉法人どろんこ会はその1例。特色ある保育理念を掲げて人気を博し、規模拡大を続ける中で多くの問題が生じている。その実態をリポートする。
田植えや稲刈り、ヤギや鶏の世話を通して、自然にふれあい生命の大切さに気づく。食育活動では子どもたち自身がおだんごやケチャップなどを作っている――。ホームページを見ると、保護者が「わが子に経験させてやりたい」と思いながらも、都会生活ではなかなか味わえない活動の数々が、写真入りで紹介されている。
社会福祉法人どろんこ会(東京・渋谷区)。「にんげん力を育てる」を理念としてかかげ、東日本を中心に展開する50以上の保育施設をはじめ、関連法人を含めれば100近い事業所を運営している。従業員数は1515人(2017年3月1日現在)にのぼる、業界第4位の大手だ。2015年度ごろから事業規模を急拡大させ、最近では年間で10園近く新規開園する年もある。
自身の子育て経験をもとに1998年に保育園を開設し2007年にどろんこ会を立ち上げた女性理事長は、カリスマ経営者としても知られている。メディアへの露出や講演などにも積極的だ。その効果もあってか、わが子を入園させようとする保護者、そして保育士たちからの人気も高い。まさに、”理想的な保育園”といえるかもしれない。
しかし、規模拡大を優先させているためか、看過できない問題も生じている。認可を得るために「偽装工作」さえ行っているのだ。
■「抱いていたイメージと違う」
偽装工作について明らかにする前に、まずはその特徴的な運営ゆえに生じているゆがみについて触れる。
同園の日々の活動の一環として、9時から屋外で行われる「体験活動」「散歩」がある。悪天候の際に「風邪を引いてしまうのではないか」と現場保育士が訴えても、本部職員は無視。活動を強要するような指示が常態的に出されているという。
元職員は憤る。「機会を排除せずに自然体験をさせることが教育方針とはいえ、はき違えも甚だしい」。法人の教育理念に共感して就職した保育士たちの中には、「自分が抱いていたイメージと違う」と入社後数週間で退職した人も少なくない。
報復人事がなされることも
さらに、本部の方針と異なる判断をすれば、高圧的な指示を受けたり、場合によっては報復人事がなされることもある。
法人本部の方針に異を唱えていたある職員は、体調不良で2日間園を休んだ。すると、「あなたは適応障害だから、病院に行って診断書をもらってきなさい」と命じられたという。この職員の場合はこの命令に従うことを拒否したが、別の職員が指示どおり受診して、「勤務先から病院に行って診断書をもらえと言われた」と伝えると、医師はその言葉どおり、適応障害の診断書を発行。職員が管理担当者に提出すると、診断書をもとに「自己都合での退職」を求められたそうだ。
新規開園と、離職率の高さによって、現場の保育士の数は足りていない。積極的に採用広告を打ち、「1日に少なくとも数人は、中途採用をしている」(ある職員)ものの採用が追いつかず、現場では過重労働が常態化。体を壊した職員もいる。
■「偽装工作」を裏付ける書類を入手
雇用を巡るトラブルは、当事者の職員にとっては切実だろう。しかし、経営側にも言い分はあるはずであり、一方的に経営側を責めるのはフェアとはいえない。
が、経営側の責任を追及せざるをえない問題がある。新規園を開設するうえで必要となる備品の整備にあたり、極めてずさんな対応が取られていることが判明したのだ。
どろんこ会が2016年4月に開設した「武蔵野どろんこ保育園」では、開園の際に都から設備の不備を指導されており、是正が求められていた。たとえば、事務所に薬品箱が設置されていない、2階の廊下に転落防止のためのさくが取り付けられていない、外階段への侵入防止のためのチェーンがかけられていないなど、指摘は全10項目にも及ぶ。
不備が指摘されても、すみやかに是正すればそれでいい。しかし、本部の対応はその場しのぎに終始している。
「お疲れ様です。武蔵野どろんこの指摘事項対応ですが、清瀬などの周辺保育室から医務室関連物品、及び稼動間仕切り(原文ママ、可動間仕切りの間違いと思われる)を借りて、武蔵野どろんこに運び、写真をとり、(個人名)さんからの是正報告書に追記しておいてください」
偽装工作の末に、認可を得て開園
これは、筆者が入手した法人幹部から本部職員向けに送られた業務命令メール(2016年2月16日付)の一部である。同日に送られた別の職員からのメールには、「是正を行った修正後の写真は22日(月)が東京都への最終期限となるようです。ここに間に合わなければ認可が受けられないとの事、宜しくお願い致します」ともある。こうした指示を受けた職員が写真を撮り、報告書が作成されたあと、物品類はもともとあった「周辺の保育室」に返却された。
さらに驚かされたのは、実際にこの虚偽報告書を作ったのが、どろんこ会の職員ではなく、保育施設の設置工事を担当した業者であったということだ。複数施設の施工を請け負い、その見返りに虚偽報告書の作成に加担したということのようだ。
どろんこ会本部がつじつま合わせだけの報告書を提出した結果、この保育施設は認可を受けた。2016年4月には開園し、すでに園児も通っている。しかし、翌2017年1月に消防庁が抜き打ちで監査を行った際に、現場の備品不備の状況が確認されている。同園に通うのはゼロ~就学前の園児たち。保育士が少し目を離したすきに、2階から落下してしまうことも十分ありうる。現実に大きな事故が起きたとき、どのように責任を取るつもりなのだろうか。
一部の現場職員は法人幹部らに「ウソをつけと命令するのか」と問いただしたというが、法人側からの明確な説明はなかったという。
事故発生時の対応は?
実際に事故が起きたときの対応も不誠実だった。ある認可園では、ここ1年以内に園児の見失い2件、園児の体にあざが確認された。職員による虐待が疑われる案件であり慎重な対応が必要だが、本部はこの問題を握り潰そうとした。
本部の対応に不信感を覚えた保護者が、理事長に直接説明を要求。一部には署名運動を行った保護者もいた。これを受けて法人側は2017年2月、3月に事件のあった園で保護者会を実施し、掲示板でのお知らせを行った。しかし、法人内の園でこの情報が共有されることはなかった。さらに、社会福祉法人である以上、自治体への報告義務があるが、虐待疑惑に関して園からの報告はなされていない。
■誠実な説明と迅速な問題改善に期待
保育の人材はどの法人でも不足している。保育士は「売り手市場」なのだ。そのため、以上のような保育の現状に疑問を抱いた保育士たちがどろんこ会を退職しても、受け皿は無数にある。こうして、どろんこ会の数々の問題は、これまで表ざたにならずに来た。
法人側は、こうした問題をどう認識し、改善していこうと考えているのだろうか。筆者は、2日にわたって計4回電話で問い合わせたが、いずれも「広報担当者は席を外している」と取材には応じてもらえなかった。法人幹部からは、職員への一斉メールで、外部や保護者からの問い合わせに原則対応しないよう、指示が出ている。万全の体制で「取材拒否」を貫こうとしているようだ。
どろんこ会が掲げている理念に魅力を感じている保護者、そして日々を楽しく過ごしている園児たちが数多くいることも間違いない事実だ。その期待を裏切ることがないよう、誠実な説明と迅速な問題改善を期待したい。