南海トラフ沿いの巨大地震対策の一環で、国の有識者検討会は17日、大地震の際に高さ60メートル(20階建て程度)超の高層ビルなどに見られる「長周期地震動」の揺れの予測を推計し、報告書にまとめた。最大級の地震が発生した場合、東京や大阪などの高層ビルでは、最大2~6メートルの幅の横揺れの可能性があると指摘した。内閣府は、建物の管理者らに必要な点検や措置を取るよう促す。

 内閣府に設置した「南海トラフ巨大地震モデル検討会」(座長=阿部勝征東大名誉教授)がまとめた。長周期地震動による高層ビルへの影響を推計したのは初めて。

 検討会は南海トラフ沿いで過去約300年間に発生した5回の巨大地震と、それを上回る最大級の地震の揺れを検証。関東~九州の太平洋側を中心に、揺れが1往復する「周期」が2~10秒の長周期地震動が、高層ビルや室内に及ぼす影響を推計した。

 ログイン前の続き制震などの対策が取られていない前提で、100~300メートルの超高層ビルの最上階の揺れを検証。大阪市住之江区埋め立て地のビルで最大約6メートル、東京23区では同約2~3メートルの揺れがあるとした。名古屋市中村区は100~200メートルのビル最上階で、最大約3メートルの揺れを推計した。

 地面の揺れが続く時間は、大阪市神戸市の沿岸部の一部で6分40秒以上、千葉、愛知、大阪など7府県の一部で5分以上。ただ、地震の周期と各建物の固有周期が重なり、大きく揺れる「共振」が起きたとしても、ビルの梁(はり)などが損傷する恐れはあるが、「倒壊までには強度的に一定の余裕がある」と結論づけた。

 内閣府は推計について、「最大級の地震でも建物がすぐに倒れることはない」としたうえで「制震対策などがない建物の場合、最長で10分以上も揺れが止まらない可能性はある。建物が立つ地盤や本体の構造で、実際の揺れや継続時間にはばらつきがあることに留意してほしい」と指摘し、住民に家具の転倒防止対策を取るよう呼びかけている。

 推計結果を受けて、国土交通省は高層ビルなどを新たに建設する際の指針作りに着手する方針。総務省消防庁でも、石油タンクの液面が地震の揺れで大きく波打つ「スロッシング現象」によって火災が誘発された例もあり、対策を進める。

 一方で検討会は、同時発表する予定だった「相模トラフ沿いの巨大地震」の影響は先送りした。現時点では影響を計算する方法が解明できないためだが、関東地方では、今回の推計よりも大きな影響をもたらす可能性もあるという。(鈴木逸弘)

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 〈長周期地震動〉 地震の揺れが1往復するのにかかる時間を「周期」という。小刻みに揺れる短周期に対し、ゆっくりと揺れる1往復2秒以上を「長周期」といい、震源が浅く、マグニチュード(M)7以上の規模の大きい地震で起きやすい。震源から遠い場所まで届き、地盤が緩い平野部の高層ビルなどでは、揺れが増幅されやすい。世界的に注目を浴びたのは1985年のメキシコ地震(M8・1)で、震源から400キロ離れたメキシコ市でビルが倒壊した。気象庁は現在運用中の緊急地震速報とは別に、長周期地震動の予報の発表も検討している。