(くらしの扉)大地震に備える:1 防災力は想像力 身の回り観察、柔軟に対策
2016年2月14日
再び大地震が起きるかもしれないと思っていても、備えは心もとないという人が少なくないのでは。東日本大震災から5年を迎えるのに合わせ、地震防災のポイントを5回にわたってお伝えします。初回は「命を守る防災」です。
東京都大田区の高梨輝美さん(47)は小学1年生のママ。震災後に防災に目覚め、いまは地域でワークショップも開く。「身の回りのできることから手を付けましょう」と提案する。
以前は非常用持ち出し袋を用意しているぐらいだった。「一般的に見聞きするノウハウが全てだと思い、それができない、やりたくないと感じたところで思考が停止していました」。例えば家具の固定。釘を打つのは嫌▽ちょうどいい所に柱や梁(はり)がない▽見た目が悪くなる――といった考えが先に立った。
「目的をちゃんと認識できていなかったことが根本的な問題だったと思います。しかし、寝ている家族の上に重い家具が倒れた場面を想像することで、対策が見えてきました」
高梨さんは、無防備な状態で1日の3分の1ほどを過ごす寝室の点検を最初に勧める。「寝転がって部屋を見渡しながら、『大地震が来たら?』と想像してみて下さい。気づくことが多いはずです」=イラスト参照。
見つかった危険を取り除く方法は一つではない。例えば、背の高い家具が心配ならすぐできるのはふとんの位置を変えること。模様替えで家具の位置を変えたり、費用はかかるが、家具を買い替えたり。状況に応じて柔軟に考えたい。
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危険を見つけ出すセンサーが働くようになると、様々なことに目が向くようになる。
停電時への備えとして推奨される懐中電灯。しかし高梨さんは、暗闇ですぐ手にとれない場面もあるのではないかと想像する。その代わり、地震の揺れを感知すると自動点灯する足元灯を寝室に備えた。ほかにも携帯用ヘッドランプなど、停電時の明かりを状況別にそろえる。
「衣服のセンスのように、防災のセンスも磨ける。小さなことの積み重ねで、安心・安全な環境を整えることができます」
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「地震の準備帖(ちょう) 時間軸でわかる心得と知恵」などの著書がある危機管理アドバイザーの国崎信江さん(46)も、防災で大切なのは想像力だと説く。講演でも木造家屋が倒壊する映像などを示して、被災した状況をとことんイメージするよう促す。
「例えば、30秒で家から外に出られるでしょうか。洋服を着なくちゃ、家族を呼ばなくちゃと言っている間に、家族が全員下敷きになりませんか」
最近は、部屋の中に設置する箱形の耐震シェルターの商品化が進む。耐震補強工事自体も自治体から助成が出る場合があるので、どうしたら身の安全を確保できるのか比較検討したい。国崎さんは「備えが想定に見合ったものなのか、見当違いな対策になっていないか、吟味する視点が大切です」と強調する。
(兼田徳幸)
<震度6強の揺れって?> 気象庁の震度階級関連解説表によると、震度6強の揺れだと、立っていることができず、はわないと動くことができない状態に。固定していない家具の大半が動き、倒れるものが多くなる。耐震性の低い木造の建物は傾いたり、倒壊したりする恐れが高まる。
防災科学技術研究所の兵庫耐震工学研究センター(E-ディフェンス、http://www.bosai.go.jp/hyogo/index.html)が公開している加震実験映像は、過去の大地震と同程度の揺れで建物や室内がどうなるのか映し出しており、参考になる。動画サイト「ユーチューブ」のチャンネル(https://www.youtube.com/user/C2010NIED)でも見ることができる。
<自宅の揺れの規模診断> 自宅付近は最大どの程度の揺れに見舞われる可能性があるのか。防災科学技術研究所の「地震ハザードカルテ」(http://www.j-shis.bosai.go.jp/labs/karte)は、住所を入力すると、どれくらいの規模の地震が起きる可能性があるかなどを診断できる。朝日新聞デジタルの特集ページ「揺れやすい地盤」(http://www.asahi.com/special/saigai_jiban/)にも同様の機能がある。