小学5、6年生は2020年度から、正式な教科として英語を学ぶ。授業も週1時間分(1時間は45分)増えるのだが、時間割はすでにパンパン。さらに、ほかにも多様な教育が求められており、小学生は忙しい。

 読書、計算、漢字の書き取り……。埼玉県内のある公立小学校では、午前8時半からの15分間をこうした学習に充てている。学力向上が目的で、教職員の打ち合わせがある週2回は自習。この時間帯に英語の授業を入れると、「今やっている学習は続けられない」と校長(58)は言う。

 5、6年生の授業は、月~金曜のうち火、水、金曜が6時間授業で、木曜の6時間目は委員会やクラブ活動に使う。休憩時間もせわしなく、2、3時間目の間の20分休憩は週2回、体力向上のために、児童に縄跳びやマラソンなどをさせる。

 ログイン前の続き月曜だけは5時間だが、授業後は職員会議や外部講師を招いた研修などがある。この時間も授業にすると、「トイレに行く間もないほど」(30代教員)という教員の多忙さに拍車がかかりかねない状況だ。夏休みなどの長期休暇期間も、教委の課す研修などで「5日間の連続休暇も取りづらい」(校長)という。

 土、日曜は各学期に1日ずつ、運動会や授業参観などで活用している。「今の状態で英語を始めるなら、土曜の授業を増やすしか時間を確保できない。教員も児童も忙しくなり、避けたいのだが……」とこぼす。(岡雄一郎、前田育穂)

■増える「○○教育」

 小学生には、英語に限らず、多様な教育が求められている。

 「使えるお金が増えるから(税金は)ない方がいいと思う」「なかったら困ることが出てくるんじゃないかしら」。日本税理士会連合会は、少年と少女のやりとりを載せた小学生向けの講義資料をホームページで公開している。「税が歴史で学ぶ年貢のような否定的なイメージにならないよう、早くから理解してもらい、その後の授業に役立てるのが狙い」と担当者。

 納税者としての考え方を養ってもらおうと、1990年代から、消費税などを題材にした出前式の租税教室を各地の小学校で開いている。回数は年々増えて14年度は小学校だけで5005回に上った。

 金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)も金融教育の指導計画例を公表。「買い物名人になろう」「おこづかい帳を記録してみよう」などのテーマでワークシートを作り、社会や総合学習、授業外の特別活動の時間に教えることを想定している。

 東日本大震災を受け、文部科学相の諮問機関「中央教育審議会」が14年、総合学習や特別活動などで防災や防犯についての安全指導を提案。コンピューターの普及を踏まえ、文科省はプログラミング教育の実践ガイドを公表している。描いた絵をタブレット端末上で動かしたり、ロボットを動かしたりといった小学校での指導事例が盛り込まれる。

 経済産業省の調査では、小学校の約26%が、検討中も含めて起業家精神を養う教育を実践。総合学習の時間などで、経営者を招いたり、模擬店舗の出店体験をしたりしているという。

 こうした「○○教育」が増えることに、文科省の担当者は「集団に依拠していれば自分の人生を考えなくてもいいという時代ではない。自立のために必要な知識は増えている」と話す。