田植えが終わったばかりの田んぼが「早苗田(さなえだ)」。
苗代で育てた稲の苗が「早苗(さなえ)」。
早苗を田に植え付ける田植えを行う女性を「五月女(さおとめ)」いいます。
かつて農村では何軒かで「結(ゆい)」を組み、農作業で最も重要で神聖な「田植え」を行ったそうです。特定の水田に祭場を設けて田の神を迎え、その前で作業を行うことで、ある種、神聖な祭儀に。そこに込められているのは、「植えた苗がすくすく健やかに育ち、秋にはたわわに実りますよに」という切実な願いだったのでしょう。
西日本には古くから、田植えの際に拍子にあわせ、大太鼓や小太鼓、笛や鉦(かね)を打ち鳴らし、早乙女が田植歌を歌いながら早苗を植えていくという風習があったとか。
そんないにしえからの習わしを今に伝えるのが、広島県山県郡北広島町壬生で、毎年6月の第1日曜日(今年は6月5日)に豊作を願って行われる伝統行事「壬生の花田植(みぶのはなたうえ)」です。これは、日本の重要無形民俗文化財に指定され、大事に伝承されているもの。ユネスコ無形文化遺産保護条約の「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」にも記載されています。この花田植では、牛たちはきらびやかな装具をつけた飾り牛となり、すげ笠をかぶった早乙女たちは絣(かすり)の着物に赤い帯や襷(たすき)、腰巻で着飾って、初夏の一大絵巻ともいえる稲作のハレの日を彩るのです。
また、伊勢神宮の別宮「伊雑宮(いざわのみや)」での「磯辺の御神田」、京都伏見稲荷大社での「御田舞(おんだまい)」、住吉大社の「御田植神事」など、全国の寺や神社、領田などでも豊作を祈念する行事「御田植祭」が各地で執り行われています。
芒種のころは、日本人と稲作の長く深いかかわりに思いを馳せる時期でもあるようですね。