育ちの良さそうな男の子たちが
いつも2・3人顔を突き合わせて楽しそうに話していた
私はこの店に来ても周りを見渡すこともなく、
ただひとり俯いて本に没頭するのみだった
時々聞こえてくるマスターの
素敵な声に顔を上げることはあるが
どんな風景が見えるのか?
どんな人がいるのか?
などということには興味がなかった
それでも少し変化したことがあった
いつだったか彼が教えてくれた
“海が見える窓辺へ”と席を移動していたし
彼らの中で群を抜いて目立つ少年が、
このお店のマスターの甥っ子だということだけは
彼らの行動や話から漏れ伝わってきて知っていた
夏も終わり朝夕は少し過ごしやすくなりだした頃、
再び啓太に声をかけられた
「ねぇ、今度あの海へ一緒に行かない?
水族館があるんだけど・・・
もうずいぶん古いけどね、
のんびり魚を眺めるのもいいもんだよ」
えっ?それってデートのお誘い??
と、少しびっくりしたが
私の生まれた街には水族館がなく、
水族館は遠足で行った以来行ったこともなかったので
少しだけ興味を引いた
それでも、心とは裏腹に口をついてでたのは
「なぜ私なんかを誘うの?
もっと他に・・・君の同級生でも誘えば?」
どうしていつも私は、
そんな憎たらしい言い方しか出来ないんだろう・・・
「“私なんか”って言う言い方は良くないよ、
僕のことが嫌なら仕方ないけど
特に嫌だと思わないんなら、付き合ってよ」
断るなんて思ってもいないような、
まっすぐな目で見つめられて、
わたしはつい・・・
「いえ、別に嫌ではないけれど・・・」
と言ってしまった。
「よし!決まりっ!今度の日曜10時に、
このお店で待ってるから」
と、嬉しそうにそう言うと
又いつもの友達の輪の中に入って行った。
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マスターがいつになくやさしく微笑んでいた
大人の男性が笑っている姿に“かわいい”なんて、
失礼かもしれないが
啓太と話す私に対して
そんな微笑みを向けてくれる
マスターに小さな恋心を持っていた私は、
少しだけこころの奥が痛かった