心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

約束の行方・・・vol.8

2013-01-29 09:38:00 | 約束の行方


マスターである 杉山 寛之のつぶやきに
興味を持った私は、
ある日 
「もしかしてマスターは京都に縁があるのですか?」
と聞いてみた。


“縁というほどのことではないけどね” 
といいながら昔話を聞かせてくれた。
それはとても素敵で
ちょぴリ切ない話だった







寛之は、大学へ通っていたころ
美大生だったわけではないが、
絵に興味を持っていたらしく
あちこちへ行っては
スケッチを楽しんでいたそうだ
港町であるここには、
沢山の絵になる風景があり
それはそれで魅力的だったのだが、
いつしか違った街を書いてみたいと思った
そこで一番に思い描いたのが“京都”だった
学生の頃の長い休みを使って
京都に赴き、
有名どころの神社仏閣を描いて回り
気がつけば、
休みも終わりお金も乏しくなっていた。
それまでは、
そのまま帰って無難に学生時代を送り
会社員になるのが普通だと思っていたが
こずかい稼ぎのつもりで転がりこんだ
カフェで、
短い期間のアルバイトを始めた
それまで、
お金に不自由などした事などなかった寛之は
その店で人生の大きな転機を迎えることとなる
お金を稼ぐ大切さ、難しさ、
人とのかかわり、つながり
そんな様々なことをそこで学び 
大学などでは教えてもらえない
生きることへの喜びを味わった
ほんの短い期間だけ
世話になって帰る予定をしていたが、
そのまま年が明けるまで滞在した。


それでも年明け早々に、
とうとう家族に連れ戻されてしまったらしく
“自分一人では何も出来ないのか・・・・”と、
ずいぶん悩んだそうだ
もともとは、裕福な家庭に育ち
三男坊という肩書で自由にさせてもらっていた
親は、休みの期間だけだと思い
自由にさせてはいたが
年の暮れになっても何の連絡のしてこない息子を
探し回っていたらしく、
連れ戻されたあとは
ずい分厳しくされたそうだ
“成人しているとはいえ 
おまえはまだ学生の身分だ、
学校へは行かせてやっているんだ
自分勝手にするのもほどほどにしろ 
勝手にしたかったら、
自分の力で稼げるようになれ”
そんな風に父親に言われ
自分では、なにも出来ない
愚かさにただただ うなだれた









私は“自分に少し似ている” 
と、さらに興味深く聞きいった。
それにしても、
結局こうしてカフェをやっている
ということはその後何かがあったんだな
と、私にも容易にわかったが
啓太がやってきたので
その日の話はそれで終わりになってしまった。

「マスターそのお話の続きありますよね? 
また次回聞かせてくださいね?」
と伝えてその日はカフェを後にした。


啓太は不思議そうに
「なんだか楽しそうだね、
マスターがなんだって?」と聞いて来たが
私は「ナイショ」
と言って
自分の心の中にだけそっと閉じ込めた。


「なんだよー」 と、
啓太は不服そうな顔をしていたが 
私が、子供をあやすように
そっと頬へ触れるとおとなしくなった。
あれから啓太と会うと、
どこへ行くでもなく啓太の部屋へ行き 
肌を重ねていたのだった