心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

約束の行方・・・vol.7

2013-01-28 09:28:41 | 約束の行方


秋も深まった頃、
啓太はこんなことを言って笑わせてくれた
「ねぇ、絵里子ちゃん 
これからはエリーって呼んでもいい?
有名な歌があるだろ?
エリー♪ my love~♪ ってやつ」


“なんちゅーベタな奴??” 
と心の中では思ったが、
そんなことは口には出せず

「いいよ~自由に呼んでくれたら」 
と、またまた可愛くない受け答えをしてしまった。


それでもその頃は、
完全に啓太のペースに巻き込まれていたし
内心、そう呼ばれることに
嫌な気もしていなかった。


「読書の秋もいいけど、
やっぱスポーツの秋でしょ」 
とサッカー観戦に連れて行かれたり
水族館は、もう何回行っただろう?
というほど通っていたし、
時には、なんだかわからない
美術館へも連れて行かれた。






啓太の家へ初めて行った時は驚いた
大きなお屋敷はもちろんのこと、
玄関を入ると
メイドさんが2人立っていたのだった
“年季の入った”といっていいのだろうか
“はるさん”と呼ばれる
メイドさんの作ってくれるスイーツは絶品で
実家でおやつといえば、
和菓子だった私にとって
ものすごく嬉しいものだった


何度目かにお邪魔した時、
それまで気になっていたことを
素直に聞いてみることにした。
「ねぇ啓太、あなたの家って 
いつ来てもメイドさん以外
誰もおらへんね?
兄弟は?いいひんの? 
お家が大きすぎて、会わへんだけ?」

啓太は、少しだけ
さみしそうな顔を見せたように思ったが
それは、気のせいだったのか?
と思うような顔で
「中学生の妹がひとりいるよ、
もう帰ってきてるんじゃないかな?
部屋からほとんど出てこないからね
それから母さんは、
今は訳があって神戸にいるんだ。
僕たちは、夏休みや冬休みに会いに行ってるよ


父さんは・・・・・・・・
仕事が大好きだからね・・・・・・・」



“聞かない方が良かったのかも?”
と少し後悔した








私の気持ちを察したのか、
「エリー気にしなくていよ、僕は寂しくないからね
だってこうしてエリーがそばにいてくれてるから」
そう言いながら、私のおでこにそっと触れてきた。
私は全身がビクッと震えるほど
驚きを隠せなかったが、
啓太は平気な様子でにっこりほほ笑み
“いい?”と同意を求めるような目で
私を見つめている
初めてではなかったけれど、
そんなに深く知っているわけではなかった

私の身体は
きっととても硬くなっていただろう
それでも“年上の余裕を見せなければ”
という訳のわからない気持ちに
気づかれないよう
静かにうなずいて 
自ら啓太を受け入れた。
それは、とても自然な成り行きだった
啓太の手はぎこちない動きをしていたが、
とても優しく 私を大事に扱ってくれた。









いつものカフェでも、
啓太と一緒にいる時だけは
無理に標準語を話さずにいた
ある時マスターに
「聞いてもいいかな、
絵里子ちゃんは関西のどこから来てるの?」
と尋ねられた。 
私は気にも留めずに 
「京都です」 と答えた。


“そぉか・・・” と、
少し物思いにつぶやいたマスターの姿を見て
「京都はええとこどすぇ~」 
とふざけて言ってみた。


正直なところ、“・・・どすぅ~”
などと普段使う人はいない
大抵我が家のような料理屋の女将さんか、
舞妓ちゃん 
芸子ちゃんくらいのものだ


あとは、
祖母くらいの年齢の人が使うだろうか・・・
でもその言葉にマスターは、
懐かしそうに目を細め  
“いいねぇ~風情があって、
懐かしいな・・・・・
昔を思い出す”と、意外な返事をした