私は大学に入ってから、無口を通していた
もともとおしゃべりが好きでよく話す方だが、
理由は
“関西弁なのが恥ずかしかったから”
いつもの言葉がなるべく出ないようにするためだ
短い会話なら
なんとか標準語のニュアンスで話せるのだが
話が長くなったり、
夢中になったり驚くと必ず出てしまう
このころは、
まだまだ関西弁が浸透していなかったし
自分自体、聞かれるのが恥ずかしかった
それでも叔母の家にいる時だけは、
自由に話せた
二人が話す会話を
叔父はとても楽しそうに聞いてくれるのだった
いつだったか
“ねぇ、絵里子ちゃん?
僕がこの人と結婚した理由を知ってる?
僕はそのはんなりとした
優しい言葉がここちよくてね、
加奈子さんには、
家でもどこでもその話し方でいてほしいって
お願いした位なんだよ、
そんなに恥ずかしがらずに
自由に話した方がいいよ” と言ってくれた
それでもさすがに勇気がなくて
まだ、“外で自由に話す”
なんてことが出来なかった
叔父は、その昔
私の生まれた街にある有名大学に通っていた
そこで、同じ大学にいた叔母と知りあい
卒業してからそれほど時間をかけずに
結婚したと聞いている
そう言えば、
叔母はパーティなどに出かける時は
ほとんど着物で出かけていたし
私たちの言葉は、
イメージとして着物が“一番よくあう言葉”
だと思う
そんな叔父の言葉に勇気をもらっていたせいか
啓太と出かけた日
何度か自然に言葉が出ていたようで
水族館の魚たちを夢中で見いる時
「やっぱりね・・・」と、
啓太が不思議な事を言ったのを聞いて
その時ようやく
「やっぱりって、なにが? 何がやっぱりなん?」
と自分の発音にハッとしたのだった
彼が最初に気がついたのは、
啓太のことを高校生だとは知っていたが
1年生だとこの日初めて聞いて驚き
「ええぇ?ホンマに1年生なぁ~ん?
いやぁ~見えへんわぁ~~」
と、驚きのあまり
思い切り関西弁で驚いたようだった
大人びた雰囲気だったので、
高校生とはいっても
3年だと勝手に思い込んでいた
大人びて見える理由は
その後なんとなくわかるのだが、
この時はただただ驚いてしまったのだった
啓太がやっぱりといった理由は、
“僕の母さんは関西の人でね、
怒る時は関西弁が出るんだ
こわいよ・・”
と笑いながら話してくれた、
聞き慣れていたので
すぐに気がついたらしい
“私がいつも無口にうつむいていた理由
がわかった気がした”
と言って、ニコニコしながら
僕の前で自然に話してくれたってことは、
気を許してくれたってことでしょう?
ねぇ、また時々こうして外へ出て遊ばない?
本ばかりと友達になっても面白くないよ?
“僕の友達になってください”
啓太からの可愛い告白だった。