心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

約束の行方・・・vol.5

2013-01-17 10:03:18 | 約束の行方


私は大学に入ってから、無口を通していた 
もともとおしゃべりが好きでよく話す方だが、
理由は 
“関西弁なのが恥ずかしかったから”
いつもの言葉がなるべく出ないようにするためだ
短い会話なら
なんとか標準語のニュアンスで話せるのだが
話が長くなったり、
夢中になったり驚くと必ず出てしまう





このころは、
まだまだ関西弁が浸透していなかったし 
自分自体、聞かれるのが恥ずかしかった
それでも叔母の家にいる時だけは、
自由に話せた
二人が話す会話を 
叔父はとても楽しそうに聞いてくれるのだった
いつだったか 
“ねぇ、絵里子ちゃん?
僕がこの人と結婚した理由を知ってる?
僕はそのはんなりとした
優しい言葉がここちよくてね、
加奈子さんには、
家でもどこでもその話し方でいてほしいって
お願いした位なんだよ、
そんなに恥ずかしがらずに
自由に話した方がいいよ” と言ってくれた
それでもさすがに勇気がなくて 
まだ、“外で自由に話す” 
なんてことが出来なかった

叔父は、その昔 
私の生まれた街にある有名大学に通っていた
そこで、同じ大学にいた叔母と知りあい 
卒業してからそれほど時間をかけずに
結婚したと聞いている







そう言えば、
叔母はパーティなどに出かける時は 
ほとんど着物で出かけていたし
私たちの言葉は、
イメージとして着物が“一番よくあう言葉” 
だと思う








そんな叔父の言葉に勇気をもらっていたせいか
啓太と出かけた日 
何度か自然に言葉が出ていたようで 
水族館の魚たちを夢中で見いる時
「やっぱりね・・・」と、
啓太が不思議な事を言ったのを聞いて 
その時ようやく
「やっぱりって、なにが? 何がやっぱりなん?」
と自分の発音にハッとしたのだった




彼が最初に気がついたのは、
啓太のことを高校生だとは知っていたが
1年生だとこの日初めて聞いて驚き
「ええぇ?ホンマに1年生なぁ~ん? 
いやぁ~見えへんわぁ~~」
と、驚きのあまり
思い切り関西弁で驚いたようだった
大人びた雰囲気だったので、
高校生とはいっても
3年だと勝手に思い込んでいた
大人びて見える理由は
その後なんとなくわかるのだが、
この時はただただ驚いてしまったのだった
啓太がやっぱりといった理由は、
“僕の母さんは関西の人でね、
怒る時は関西弁が出るんだ 
こわいよ・・”

と笑いながら話してくれた、
聞き慣れていたので 
すぐに気がついたらしい



“私がいつも無口にうつむいていた理由
がわかった気がした” 
と言って、ニコニコしながら
僕の前で自然に話してくれたってことは、
気を許してくれたってことでしょう?
ねぇ、また時々こうして外へ出て遊ばない?
本ばかりと友達になっても面白くないよ? 

“僕の友達になってください”


啓太からの可愛い告白だった。



約束の行方・・・vol.4

2013-01-16 15:35:57 | 約束の行方



育ちの良さそうな男の子たちが
いつも2・3人顔を突き合わせて楽しそうに話していた
私はこの店に来ても周りを見渡すこともなく、
ただひとり俯いて本に没頭するのみだった
時々聞こえてくるマスターの
素敵な声に顔を上げることはあるが
どんな風景が見えるのか?
どんな人がいるのか? 
などということには興味がなかった




それでも少し変化したことがあった
いつだったか彼が教えてくれた
“海が見える窓辺へ”と席を移動していたし
彼らの中で群を抜いて目立つ少年が、
このお店のマスターの甥っ子だということだけは
彼らの行動や話から漏れ伝わってきて知っていた



夏も終わり朝夕は少し過ごしやすくなりだした頃、
再び啓太に声をかけられた



「ねぇ、今度あの海へ一緒に行かない?
水族館があるんだけど・・・
もうずいぶん古いけどね、
のんびり魚を眺めるのもいいもんだよ」


えっ?それってデートのお誘い??
と、少しびっくりしたが
私の生まれた街には水族館がなく、
水族館は遠足で行った以来行ったこともなかったので
少しだけ興味を引いた
それでも、心とは裏腹に口をついてでたのは


「なぜ私なんかを誘うの? 
もっと他に・・・君の同級生でも誘えば?」

どうしていつも私は、
そんな憎たらしい言い方しか出来ないんだろう・・・


「“私なんか”って言う言い方は良くないよ、
僕のことが嫌なら仕方ないけど
特に嫌だと思わないんなら、付き合ってよ」

断るなんて思ってもいないような、
まっすぐな目で見つめられて、
わたしはつい・・・

「いえ、別に嫌ではないけれど・・・」 
と言ってしまった。

「よし!決まりっ!今度の日曜10時に、
このお店で待ってるから」

と、嬉しそうにそう言うと
又いつもの友達の輪の中に入って行った。









マスターがいつになくやさしく微笑んでいた
大人の男性が笑っている姿に“かわいい”なんて、
失礼かもしれないが
啓太と話す私に対して 
そんな微笑みを向けてくれる
マスターに小さな恋心を持っていた私は、
少しだけこころの奥が痛かった











約束の行方・・・vol.3

2013-01-11 10:04:47 | 約束の行方


私は海が無性に好きだった

理由はわからない

育った場所には、そばに海がなかった

幼いころ家族で海へ旅行に行ったと記憶している

私の家は、代々続いた料理屋を営んでおり

旅行と言っても何泊も出来るものではなかった



あの大きな・・・

すべてを包み込むようなおおらかな水平線を

初めてみた日から、憧れていたように思う





私の育った街は、閉鎖的なというのか・・・

新しいものや人を素直に受け入れない




昔からこうだった・・・

という習わしが強く残っており

窮屈な思いをすることが多かった。

それでも末っ子だったおかげもあり

姉や兄に比べるとずい分自由にしてきたと思う




大学に進学する時も

それまでエスカレータ式に通っていた学校へ

そのまま進学するものだと思い込んでいた親は、

私がいまの大学への進学希望を伝えたところ大反対した。




自由にできない事を半ばあきらめている姉が

父や母に“絵里子位は自由にさせてあげて”

と、頼もしい味方となってくれたのだった。



私の住んでいた街にも沢山の有名大学があり

むしろ、そこへ行くために地方からやって来る人も多く

親にしてみれば 苦労せずに済むようにさせたつもりだったのに

と、言いたかったのだろう。



結局は、渋々承知してくれたが

母の妹の家へ住まわせてもらうというのが条件で

ひとり暮らしだけは、絶対に認めてもらえなかった



叔母の家は、都内にあった

叔母夫婦には子供がおらず、私が世話になることをとても喜んでくれた


大学へ通うには、電車を乗り継いで行かなくてはならず

時間がかかるのだったが、それはむしろ楽しいものだった




叔母は、おしゃれで実年齢より若々しく かなり理解のある人だった

ご主人の仕事がら週末は、夫婦で参加するのが当たり前のパーティなどに

とても楽しそうに着飾って出かけてゆくのだった。
















約束の行方・・・vol.2

2013-01-10 10:26:36 | 約束の行方


そんなかわいらしいことを言ってくれたのは

当時付き合っていた彼

彼はまだその時高校生だったけれど

少し大人びた・・・・というのか、

落ち着いた雰囲気を持ったひとだった







啓太という名の彼に初めて会ったのは、

私が大学生になってまもなくのころ








バリトンボイスが素敵なマスターがいる

学校近くで見つけた私のお気に入りのcafeだった




何度か通ううち 彼が、常連なんだと気がついた

まさか高校生だとは思ってもみなかったが

よくよく考えてみると制服のままだったこともあった







夏が近くなったころ啓太から声をかけられた








「お話してもいいですか?」


「ええ・・今日はおひとり?」


「あ、うん 友達は後から来るけどね・・・

 それにしても、いつも本ばかり読んでいるね

 店の外、ゆっくり見たことありますか?」


そう言われて、“外って見えたっけ?・・・・”と思った。




私がいつも座る席からは見えなかったが

cafeの奥の席からは、私が大好きな海が

建物の間から見えたのだった。

遠くに行き交う貨物船も見える



なんだか誰かの歌に出てくるようなcafeだと思うと

そんな素敵なことを教えてくれた彼のことを

急に意識するようになった。











約束の行方・・・vol.1

2013-01-09 21:04:17 | 約束の行方

覚えているかしら・・・・


あの時の約束を










「ねぇ エリー?

もし30になってもひとりでいたら

僕のところへおいでよ

僕が引き受けてあげるから」







花火大会の帰り道

そう言って、笑ったよね

あの時は、まだ若すぎて ”引き受ける”

なんて言葉に実感もなくて






「そうね~じゃあ そうしてもらうことにするわ」

なんて、なんでもない会話の一つだった




もうずいぶん長い間忘れていたのに





年が明けて今年30を目前に

ふと思い出した言葉だった・・・