映画監督気どりの男は海辺に横たわった彼女の爪先から頭の方へ、
じとーっとカメラを移動させ、何度もなめまわすように新妻の体を撮影した。
昼ごはんをもらった黒太郎が、そばに寄ろうとすると、
彼は片足をあげて追っ払った。
それを見た友達二人は急いで海の中に走って行き、
一人は浅瀬に横たわり、一人は持って来た最新型のハンディビデオカメラを手に、突然、彼らの真似を始めた。
「やめなさい、やめろってばーーー」
残された私達は気が気じゃなかった。
ああいう男は一度キレると、手がつけられなくなる。
いつ、二人をおちょくってるのに気付かれるかとハラハラしていると気配を察して彼が振り返った。
「あー、こりゃだめだ。絶対に嫌味のひとつも言われる」
と観念したのに、友達の持っているビデオカメラを見たとたん、彼の目は輝いたのであった。
5分ほどして監督のビデオ撮影は終わった。
ところが今度は私達の前をウロウロし始めた。
「中年女の水着姿」というマニアもいそうにない。
ビデオの撮影をしようとしているのかと思ったが、彼の視線は私達ではなく、
デッキチェアのそばのテーブルに置かれた、最新型のビデオカメラに注がれていた。
子供が欲しいものを見つけて、その前で見入っているのと同じ姿だった。
新妻はどうしているのかと目をやると、砂浜にど~んと座り、
バッグの中からサンドイッチを出してパクパク食べている。
彼はいつまでもビデオカメラを凝視したまま、立ち去ろうとしなかった。
私達6人は当惑してデッキチェアの上でバスタオルをずり上げながら、固まっていた。
そんな中で母犬、黒太郎、茶子の3匹は、ふんふんとニオイをかぎながら、そこいらへんを走り回っていたのであった。
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