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I Can't Stop Thinking About You

このブログは、現時点では 「80年代洋楽」 カテゴリメインで記事を書いている。
今回の記事は、厳密に言うとそのカテゴリから外れるが、1970年代後半から80年代前半にかけてポリス(The Police)の中心人物として活躍し、その伝説を受け継ぐかたちでソロキャリアをスタートしたスティング(Sting)に関する記事なので、広義の意味で 「80年代洋楽」 カテゴリに属するものとしたい。

以前の記事 「Fortress Around Your Heart」 で書いたように、自分が CD を買って真面目に聞いたスティングのソロアルバムは、1996年の 「Mercury Falling」 までである。
それ以降のアルバムは、リリース情報のチェックのみで、実際に聞くまでに至っていない。

1985年 「The Dream of the Blue Turtles」
1987年 「... Nothing Like the Sun」
1991年 「The Soul Cages」
1993年 「Ten Summoner's Tales」
1996年 「Mercury Falling」

スティングのことが嫌いになって聞くのをやめたわけではないが、自分にとってスティングの音楽は、どちらかというと少々苦手な部類ではあった。
1985年の 1st ソロ 「ブルータートルの夢」 以降、回を追うごとにアーティスティック志向が強まり、1996年の 「Mercury Falling」 を聞いて、今後もますますそうなっていくのだろうなという感想を持ったのが、今から21年前のことだった。

あれから時を隔てた、今年5月のある日。
YouTube を徘徊していて、たまたまスティングの動画を見つけた。
ディスコグラフィーを確認すると、2016年にリリースされたソロアルバム 「57th & 9th」 からの第一弾シングルの PV 動画であることが分かった。

2016年 「57th & 9th」

Wikipedia を見ると、「57th & 9th」 の Genre は "Pop rock" となっている。
スティングのソロアルバムは、Genre の表記に "jazz", "fusion", "art", "classical", "world music" などの小難しそうな単語が並んでいるものが多い。
シンプルに "Pop rock" と謳われたアルバムは、1991年の 「The Soul Cages」、1996年の 「Mercury Falling」 以来の3作目となる。



Genre に着目するとそういうことになるが、Wikipedia の冒頭紹介文で "his first rock album in 13 years" と言及されている通り、アルバム 「57th & 9th」 は、スティングの歴代のソロ作品の中でも注目すべき1枚となっている。

そのことは、アルバムのオープニングトラックである↓この曲を聞けばすぐわかる。
自分が YouTube で偶然見つけた動画は、この PV 動画だったということである。

2016年 「I Can't Stop Thinking About You」

シングル 「I Can't Stop Thinking About You」 は、瞬間最大風速でビルボードチャートの No.2 まで上昇したとのことである。
それだけのセンセーションを巻き起こす曲であることは、聞けばすぐわかる。
特に、ポリス、スティングの昔からのファンであれば、これはたまらない筈だ。

何がたまらないかって、00分00秒のドラム・インパクトの瞬間からだ。
続くギターリフとベースのドライビングで、快感は一気に MAX に達する。
このイントロのカッコ良さは、ほとんど反則だ(笑)。
リスナーに与える麻薬的快感を計算し尽くしている。

そして、ポリスファンならば、スティング、アンディー・サマーズ(Andy Summers)、スチュアート・コープランド(Stewart Copeland)の3人の演奏でこれを聞きたい、そう思う筈だ。
この曲 「I Can't Stop Thinking About You」 の最大の旨味はそこにある。

white page, an empty field of snow
my room is 25 below
this cold man chasing ghosts
a road lies underneath the buried posts
dogs search the under forest
we scour the empty streets
the fact remains until we find you
our lives are incomplete


雪に閉ざされた 白銀のページ
僕の部屋は マイナス25度
この凍えた男は なき人を探す
雪に埋もれた ポストの立つ 道を歩いて
犬が森林を 嗅ぎ回るように
僕たちは 空虚な都会を 探し回る
あなたがいなければ 僕たちは
人生を全うできない それは確かなこと

カッコ良すぎるイントロが終わると、ポリスファンには耳慣れたスティング節が歌う。
ややしゃがれた声で音程をラフに上下させる、あの独特のボーカルだ。

2013年のアルバム 「The Last Ship」 のリリースを知り、その一部を YouTube で試聴したとき、スティングはアーティスティックの彼岸を渡ってしまった、自分はそう思った。
「If You Love Somebody Set Them Free」、「Fortress Around Your Heart」、「The Soul Cages」 を歌っていた、あの頃のスティングはもういないのだと思った。

do i hear laughter through a veil of snow and ice ?
where could you be on such a lonely winter's night ?


笑い声ひとつ聞こえない 雪と氷のベールの世界
この寂寞たる冬の夜に あなたは一体 どこにいるのか

ところがどうだ?
それからわずか3年後、スティングがこんなにカッチョいい曲を歌っている。
ここまでロック色の強いスティングのシングルは、記憶にない。

サビ前のブリッジで聞こえるバックコーラス、これがまた、さりげなくカッチョいい。
ポリス時代、3人のトライアングルによるシンプルな構成で曲を書いていたスティングらしい、熟練のレガシー・テクニックの表出だ。

i can't stop thinking about you
i can't stop wanting you this way
i can't face living without you
that's why i'm searching night and day
this heart's a lonely hunter
these hands are frozen fists
i can't stop thinking about you
i don't care if you exist


あなたを 思わずにいられない
あなたを こうして 求めずにいられない
あなたが いないことを 受け入れられない
だから僕は 昼も夜も 探している
僕の心は 孤独なハンター
凍えた両手を 固く握って
あなたを 思わずにいられない
例え あなたの姿が 見えなくても

この曲の歌詞について、故人を偲んで書かれた内容だという解説をネットで見掛けた。
サビ終わりのフレーズ "i don't care if you exist" が、その解釈のポイントだろう。

あるいは、恋人への届かぬ思いをいつまでも抱き続ける悲しい男の歌、とも考えられる。
曲タイトル 「I Can't Stop Thinking About You」 を見て、多くの人はそう思うだろう。
「雪と氷に閉ざされたマイナス25度の極寒の部屋で ・・・・」 とは、これはもう復縁の可能性ゼロの相当に厳しい状況に追いやられた男の哀歌w、ということになる。

しかし、この曲のカッチョ良さは、そうした悲しさすら吹っ飛ばしてくれる。
ポリス時代のヒット曲でも、ここまでのご機嫌なロック・ナンバーはなかった。
スティングが帰ってきた!
Sting is back !
このクールな調べに乗せて、破れた恋を、去っていった恋人を見送る、それも人生だ。



Sting - I Can't Stop Thinking About You
https://www.youtube.com/watch?v=ZtEIuz71tEk
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