多分、中学生の頃だったと思う。
手塚治虫の「ネオ・ファウスト」を読んだのは。
小学生だったのかもしれない。
それまで僕は、漫画が突然終わるなんて、考えた事も無かった。
物語はいつも、始まりから終わりへ向けて流れるものだと思っていた。
ネオ・ファウストはMW(ムウ)と同じような悪意を魅せながらも
それでいて何かを知ろうとする薄明かりのような、
人生にとって重大なヒントを与えてくれる物語の一端を担っていたように思う。
当時の僕は、本を読んでいる最中に、残りのページ数なんて、
きっとほとんど見てなかったんだと思う。
唐突に終わったその物語は、
あるセリフを強烈に僕に印象づけた。
「あの子に救いをーーーっ!」
それは誰かの声だったけど
誰の声だったのかはわからない。
主人公の声だったのか、手塚治虫の声だったのか、
あるいは未来を知りたいと願う、当時の僕の心の声だったのか。
僕は手がかりを探して手塚治虫の末期作品を特に注意深く読んだ。
そこに彼の何かが残されている事を探して。
ある日姉貴から、奇妙な朗報を聞いた。
ネオ・ファウストの描きかけの原稿が載せられている本があるという話。
下書きの鉛筆スケッチのような状態でそのまま載せられている珍しい本があるという話。
僕はあちこちの本屋を探した。
それはネオ・ファウストの文庫版だった。
僕が読んだ愛蔵版(ハードカバー)とは違っていて、
そこには死にそうな彼がネームのまま
机にかじりついて残した構想が曖昧な輪郭のまま、
ただ空想を掻き立てるヒントのように、
破壊された化石のように、
死んだ遺跡のようにそこに散乱しているだけだった。
そこに書かれている冷静さも欲望も
知への挑戦も、失われた若さも
全てが断片化された風景でしか無かった。
僕はドキドキしながら読んだ。
焼き付けるように、貪るように、
そしてまた全てを忘れるように。
今、彼の遺した世界で、
僕は物語だけを追っている
いつまでもいつまでも、終わるばかりの物語を読んでいる
劇場版ファウストの原稿からNHKが予想して作ったアニメも
どこか遠く虚しく僕には響いた。
「殺せ。殺せ。殺せ!」
「努力した魂の輝きを奪うことだけは出来ない」
それらは僕にとって
どれくらいのヒントになったのだろう。
犯人が自分だとわかるほどには
僕は何も事件を理解していない。
僕にとって物語は、いつも断片化された奇蹟でしかない。
遠く遠く終わりを告げる星座の、
死にたがる最後の光でしかない。
それでも僕は、何かを書くんだろうか?
手塚治虫の「ネオ・ファウスト」を読んだのは。
小学生だったのかもしれない。
それまで僕は、漫画が突然終わるなんて、考えた事も無かった。
物語はいつも、始まりから終わりへ向けて流れるものだと思っていた。
ネオ・ファウストはMW(ムウ)と同じような悪意を魅せながらも
それでいて何かを知ろうとする薄明かりのような、
人生にとって重大なヒントを与えてくれる物語の一端を担っていたように思う。
当時の僕は、本を読んでいる最中に、残りのページ数なんて、
きっとほとんど見てなかったんだと思う。
唐突に終わったその物語は、
あるセリフを強烈に僕に印象づけた。
「あの子に救いをーーーっ!」
それは誰かの声だったけど
誰の声だったのかはわからない。
主人公の声だったのか、手塚治虫の声だったのか、
あるいは未来を知りたいと願う、当時の僕の心の声だったのか。
僕は手がかりを探して手塚治虫の末期作品を特に注意深く読んだ。
そこに彼の何かが残されている事を探して。
ある日姉貴から、奇妙な朗報を聞いた。
ネオ・ファウストの描きかけの原稿が載せられている本があるという話。
下書きの鉛筆スケッチのような状態でそのまま載せられている珍しい本があるという話。
僕はあちこちの本屋を探した。
それはネオ・ファウストの文庫版だった。
僕が読んだ愛蔵版(ハードカバー)とは違っていて、
そこには死にそうな彼がネームのまま
机にかじりついて残した構想が曖昧な輪郭のまま、
ただ空想を掻き立てるヒントのように、
破壊された化石のように、
死んだ遺跡のようにそこに散乱しているだけだった。
そこに書かれている冷静さも欲望も
知への挑戦も、失われた若さも
全てが断片化された風景でしか無かった。
僕はドキドキしながら読んだ。
焼き付けるように、貪るように、
そしてまた全てを忘れるように。
今、彼の遺した世界で、
僕は物語だけを追っている
いつまでもいつまでも、終わるばかりの物語を読んでいる
劇場版ファウストの原稿からNHKが予想して作ったアニメも
どこか遠く虚しく僕には響いた。
「殺せ。殺せ。殺せ!」
「努力した魂の輝きを奪うことだけは出来ない」
それらは僕にとって
どれくらいのヒントになったのだろう。
犯人が自分だとわかるほどには
僕は何も事件を理解していない。
僕にとって物語は、いつも断片化された奇蹟でしかない。
遠く遠く終わりを告げる星座の、
死にたがる最後の光でしかない。
それでも僕は、何かを書くんだろうか?