源氏物語と共に

源氏物語関連

桜かさね

2007-11-28 09:07:23 | 

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(若菜)


紅梅にやあらむ、濃き薄き、すぎすぎにあまたかさねたるけじめはなやかに、
草子のつまのやうに見えて、桜の織物の細長なるべし。
御髪(おぐし)の末までけざやかに見ゆるは、糸をよりかけたるようになびきて
末のふさやかにそがれたる、いとうつくしげにて、七八寸ばかりぞあまりたまへる。
御衣の裾がちに、いと細くささやかにて、姿つき、髪のかかりたまへる側目(そばめ)、
言ひ知らずあてにらうたげなり。
夕影なれば、さやかならず、奥深きここちするも、いと飽かずくちをし。



若菜でも特に有名な場面。
柏木が猫の騒動で御簾が引き上げられ、
ついに端近くにいた女三宮を見てしまった場面。


桜かさねは源氏物語にも良く出てくる印象的な色である。
右大臣の藤の宴で源氏が着ていたのも桜の直衣であった。
朧月夜と出会った時である。


この若菜の巻では夕霧も桜の直衣を着ている。


桜かさねは、表が白で裏が赤花(紅花)か蘇芳、あるいは、表蘇芳裏赤花。
重ねた時に光で淡い桜色に見える色合いである。
そして若い人に似合う色でもある。


季節は桜の時。
くつろいだ袿姿(うちきすがた)である桜かさねの女三宮は、
時節にも合い、夕影でさぞかし美しく見えた事であろう。
この一瞬の出来事が、後の柏木の悲劇につながっていく。


紫式部は桜の散る季節に、
美しい蹴鞠の様子と猫をキーワードに
桜かさねと紅梅の女三宮と柏木の出会いを見事に描いたと思われる。



桜は梅と違い、何故かハラハラと散る時は人生の哀れさを感じさせる不思議な花である。
大変美しいけれど、ある意味神秘的な意味合いをも感じさせる
日本人の感性に合った花のように思う。


「願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃」
この西行の歌ではないけれど、
私も桜の季節に、桜に見送られて彼方の世界へ旅立ちたいと願っている。
まだまだ先であって欲しいけれど・・(笑)


画像は吉岡幸雄氏の講演より桜の細長、日本の色事典より桜色。
そして長崎盛兼<かさねの色目>、別冊太陽<源氏物語の色>より。



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青き赤き白つるばみ

2007-11-06 09:09:12 | 
 夕風の吹き敷く紅葉のいろいろ濃き薄き、錦を敷きたる渡殿の上見えまがふ庭の面(お も)に、
 容貌(かたち)をかしき童べの、やむごとなき家の子どもなどにて、
 青き赤き白橡(つるばみ)、蘇芳、葡萄染など、常のごと、
 例のみづらに、額ばかりのけしきを見せて、短いものをほのかに舞ひつつ、
 紅葉の陰にかへり入るほど、日の暮るるもいとほしげなり。    (藤裏葉)


 (橡(つるばみ)とはクヌギなどのドングリの事)


<青白つるばみ>
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吉岡幸雄氏によれば、
源高明(みなもとたかあきら)が平安時代の半ば頃に「西宮(さいぐう)記」を著し、
その中に「麴塵(きくじん)与青白橡一物」とあって、
麴塵と青白橡を同じ色にみなしていたようだ。
また山鳩色も同じとする説があるそうだ。
西宮記の100年前に編纂された「延喜式」にもその染色法が載っている。
刈安(かりやす)と紫草に灰を使用。
刈安は黄色を出す素材で、それに紫と灰を加えると青みが出たくすんだ緑色になる。
しかし、この工程は大変難しいとの事。
また、青白つるばみとは、普通に読めば青いドングリの実の色。
しかし、実際の染色にはドングリは使用していないという説である。


<赤き白つるばみ>
吉岡幸雄氏によると、
延喜式には黄色のはぜと茜、灰を使用すると載っているそうだ。


白味がちの淡い黄赤系の色。


識者によっては赤色ともされるが、
源氏物語では赤色と赤白つるばみを使いわけているので違う色であろうとの事。


本当に色は難しいです~
長崎盛兼氏のかさねの本には、つるばみの色はありませんでした。
 
新潮日本古典集大成の頭注には、
青白つるばみ色の袍に葡萄染めの下かさね、
赤白つるばみ色の袍に蘇芳の下がさねで、
それぞれ右方(高麗楽)、左方(唐楽)の舞楽の童の装束とある。
また、白つるばみ色はばいせん剤を使用しない白茶色の染色とされるので、
これの加わった染色であろうとあります。


いづれにせよ、白っぽい色が混じった微妙な色合いでしょう。


画像は吉岡幸雄日本の色事典より



丁子(ちょうじ)色、蘇芳(すおう)

2007-11-05 11:35:14 | 
<丁子色>
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少し色深き御直衣に、丁子染のこがるるまでしめる 白き綾の・・ (藤裏葉)



丁子とはスパイスにもあるクローブの事。
それで染めた色である。
熱帯地方にある植物フトモモ科の常緑高木。
その花の蕾が開く前にとって乾燥させたもの。
香りが大変良い。
日本でも古くから輸入されていて、正倉院にも伝えられている。


丁子は香料、医薬品の他に染色にも使用。(吉岡幸雄日本色事典)


私は以前にクローブ染めをした事があるが、
みょうばんを使用したので、ベージュというよりは少し黄みの強い色となった。
絹ではなく綿だったのであまり色が染まらず、
退色が早くて色が褪せ、とても残念だった。


<蘇芳>



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紫檀の箱に蘇芳の花足   (絵合)


青き浅き白きつるばみ、蘇芳、葡萄染など  (藤裏葉)



熱帯雨林のインド南部や、マレー半島にあるマメ科の樹木の芯には、赤色の色素がある。
それを使用してみょうばんや椿などの灰も使って染めたやや青みのある赤色。
この木は家具には適さないようだ。


古くから輸入され、正倉院にも薬物、染められた和紙、蘇芳染めの木箱がある。


特に平安時代は染色によく使用されたようである。


ただし、<蘇芳の醒め色>という言葉がある通り、
色が褪せやすく、現在ではほとんど茶色に変色している。(吉岡幸雄日本色事典)


長崎盛兼氏によれば、
奈良時代の<衣服令>にも色が見え、紫の下、緋の上に位置づけされ、
高位の色となっているとの事。
また蘇芳は深・中・浅にわけられているが、中蘇芳が代表の色。
かさね色でも使用される頻度は高い(全48色中6位)



こうしてみると、
どちらも高価な輸入材料ゆえ、貴族だけがふだんに使用出来るといえますね~ 



画像は色名は日本の色事典、素材は別冊太陽「源氏物語の色」より



二藍(ふたあい)、縹(はなだ)色

2007-11-05 09:14:33 | 
 (藤裏葉)

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<二藍>
  
 直衣こそあまり濃くて軽びためれ。非参議のほど、二藍はよけれ。
 ひきつくろはむや。 (藤裏葉)


源氏が内大臣(頭中将)の藤の宴に招待された夕霧に向かって、
親らしく服装について語る場面。
二藍は藍に紅花を掛け合わせるらしく、様々な色があるようである。


身分が低い非参議の人なら直衣は二藍色で良いが、夕霧は身分が上だから
もう少し大人っぽい色にしてはどうかと、縹(はなだ)色の特別素晴らしい直衣などを
夕霧にさしあげなさった。


吉岡幸雄氏によれば、
男性の直衣は若いほど赤味に、年齢を重ねるほど縹(はなだ)がちの色になっていったようである。
 
<縹(はなだ)色>


はなだ色は、藍より薄く浅葱色より濃い色をさす。
吉岡氏いわく、
古くは藍で染めた色の総括のよう。
日本書紀の色制に濃縹、浅縹の色が見えるそうだ。
普通は中程度の藍色を指すとの事。


花田とも記されるが、これは当字。


長崎盛兼氏によれば、花田は花色ともよばれ、
その花はつきくさ(つゆ草)の花をあらわしその青汁で染めた事に由来するとも。
この色はさめやすいので、後に藍で染められたとも。


画像は日本の色事典