7割が就労希望 年金受給率「53%の現実」
2021年08月01日
韓国の高齢者は気の毒である。
年金受給率は53.2%(2019年)にすぎず、約半分弱の人々は「無年金」である。
これでは、60歳定年後の生活は覚束ないのだ。
自殺率が、OECD(経済協力開発機構)でワースト・ワンである理由はこれである。
老後の生活費に貯めた資金は、子どもの教育費に消えてしまった。
その子どもは、就職が決まらず親の仕送りもできない。
これが、偽らざる韓国社会の縮図である。
この現実を打破するには、労働規制を緩和して労働市場を流動化させなければ、問題の解決にならない。
だが、文政権は大手労組の意見に従って大幅な最低賃金引上げで、逆に失業者を増やす逆行政策である。
追詰められる高齢者は、気の毒と言うほかない。
『東亞日報』(7月28日付)は、
「高齢層の『労働希望』が1000万人 政府は手をこまねいて傍観するつもりか」と題する記事を掲載した
(1)「『将来働きたい』という高齢層が初めて1000万人を超えた。
統計庁によると、55〜79歳の国民1476万人のうち68%の1005万人が将来労働を希望した。
1年前より43万人が増えた数字だが、平均73歳まで働くことを望んだ。
しかし、高齢層の半分は失業者であり、働いても単純労務職や公共臨時職が中心となっている。
彼らの貧困層への転落を防ぎ、むしろ労働力として積極的に活用する対策が急がれる」
日本では、健康と生きがいのために老後も働きたいが多数である。
韓国は、生活費を稼ぐために老後も働きたいという切実な訴えである。
その比率が、高齢者の68%にもなる。
年金受給者率が53%であることを考えれば、年金を貰えないので老後も働きたいという切羽詰まったものだ。
(2)「高齢層が主に仕事を辞める年齢は、平均49.3歳だった。
50歳になる前に働き口を失い、低賃金の働き口に追い込まれていることになる。
高齢層10人に6人は、生活苦のため労働を希望した。
彼らの雇用問題を解決できなければ、OECDの加盟諸国のうち、
「老人貧困率1位」という不名誉をぬぐい切れない」
韓国では、50歳前に退職している。これは、自主退職である。
職場で出世の見込みがなくなると退職して自営業を始める。これが韓国型である。
後輩が上司になっても我慢することがないのだ。
儒教社会ゆえに、年齢の上下が厳しい秩序意識を形成している。
だから、後輩に使われることは御法度になる。
転職市場もないことから、自営業に転じるが成功率は低い。韓国の独特の社会風土が災いしている。
韓国の65歳以上高齢者の相対的貧困率(所得が中央値の半分を下回っている人の割合)は、2017年に43.8%でOECDワースト・ワンである。
年金受給率の低さと合せ考えれば、納得のいく状態である。
ちなみに、日本は19.6%で韓国よりも恵まれている。
(3)「15歳以上の人口の3人に1人は高齢層だが、この割合は日増しに高くなっている。
彼らを失業者として放置すれば、人口減少とあいまって、労働力不足や成長減速へとつながりかねない。
高齢層の雇用率は56%と、2005年に統計を取り始めて以来最も高いが、雇用の質は落ちている。
(高齢者)就業者の約7割が付加価値の低い公共雇用や農林漁業、卸小売・宿泊飲食業などに携わっている。専門性を生かし、再教育を通じて付加価値の高い仕事をすることができるよう、政策的な裏付けが必要だ」
高齢者を再教育するといっても、難しい問題である。
最大の解決案は、生産性向上を上回る最低賃金引き上げを止めて、広く雇用可能な状態に戻すことだ。
そうすれば、自営業も成り立つし「八方丸く収まる」のだ。諸悪の根源は、現実を無視した大幅最賃引き上げにある。
(4)「労働界では定年の延長をとりあげている。しかし、企業の負担は増大し、若者失業を悪化させる懸念が少なくない。
韓国経営者総協会(経総)によると、定年を65歳に延長すれば、企業が負担する追加費用が年間14兆ウォンを越える。
専門家たちは、労働の柔軟性を高めることが優先だと指摘する。年功序列中心の賃金体系と硬直した雇用構造を変えてこそ、雇用期間を延ばすことができるという意味だ」
実際の年金支給年齢が、65歳に引き上げられている。
一方、定年は60歳である。
この差の5年間をどうするのか。
そういう配慮がない。下線部の提案は、その通りである。この実現を阻止しているのが労組である。
解雇や転職を自由に行える社会を実現する。
日本は、すでに流動化されている。これが、結果として失業率を引下げる妙薬である。
(5)「人口政策タスクフォース(TF)を稼働している政府は今月初め、「高齢者継続雇用」は議論の課題でないと釘を刺した。
青年層の反発を意識したためと見られる。
政府が手をこまねいる間、高齢層は貧困に追い込まれ、生産可能人口は減っている。
政府は、青年と高齢層の雇用対立がないように雇用柔軟性を高め、再教育と雇用延長など高齢層の雇用環境全般を時代の流れに合わせて整えなければならない」
韓国政府は、労組の言分をそのまま受け入れている。
労組のエゴが、年功序列賃金と終身雇用制の維持である。
これが、労働市場を硬直化させて、労働者は全体を苦しめている。
現に、50歳未満で企業を退職しているのだ。
終身雇用制の恩恵を自ら放棄している。こういう現実を受入れれば、改革は可能である。