hideyukiさんの、令和もみんなガンバってますね!笑み字も!Webにも愛と光を!

日々の楽しい話、成長の糧などを綴ります。
楽しさ、感動、知恵が学べる。
(^_^)私はとっても普通の人です。

告白

2020-01-31 13:32:00 | お話

🌸🌸告白🌸🌸


翌日の6月10日には、以前から母と会う約束をしていた。

さおりちゃんの宿題が僕の脳裏に引っかかっていた。

本当は父と話なんてしたくなかった。

父に本当のことなんて言いたくなかった。

でも、入院したらそのまま退院できないかもしれない。

入院したらどうなるかわからない。

ゆっくり話なんてする機会は、もうないかもしれない。

言うしかない。

やるしかない。

やるなら明日しかない。

父にも来てもらおう。

僕は覚悟を決めた。

中野から帰った晩、僕は実家に電話を入れた。

「明日、お父さんにも来てほしいんだけど」

「ちょっと待ってね」

パタパタと足音が遠ざかり、しばらくすると足音が戻ってきた。

「うん、お父さんも行くって言ってる」

「ありがとう」

僕は長男も同行させることにした。

おそらく父親としての時間は少ないだろう。

ならば僕がボロボロになる姿を、僕の情けない姿を、ありのままの姿を見せることが、今の僕にできる最後のことだった。

6月10日、僕は長男と2人で、待ち合わせた喫茶店に向かった。

しばらくすると両親がやってきた。

「大丈夫?」母は心配のあまり白髪が多くなっていた。

「痩せたな」父も心配そうに僕を見ていた。

「今日は来てくれてありがと。今日はね、入院前にぜひ話しておきたいことがあるんだ。父さんに」

父は緊張気味にうなずいた。

「実はね、この前カウンセリングを受けて、自分の感情を外に出すことが必要だってアドバイスされたんだ。

僕の話を聞いていろいろ反応したり、それは違う、とか言いたくなることもあると思うけど、

最後まで黙って聞いてほしいんだ」

「わかった」

「実はね、僕は、父さんからずーっと認められてないって感じていたんだ。褒められてもらった記憶がない」

「……」

「いつもああしなさいとか、こうしなさいとか、ここがダメだ、これが足りない、

まだまだ、まだまだって言われ続けて、すごく苦しかったんだよ」

「そうなのか」

「でもね、父さんはそれがあなたにとっていいと思って…」

横にいた母さんが父を気遣うように言った。

「うん、それはわかっている。でも今日は僕の気持ちを外に出すことが大事なんだ。

だから最後まで黙って聞いてほしいんだ」

僕は話を続けた。

「僕は、いろいろ強制されて、本当にイヤだったんだ。

あれしろ、これしろ、あれするな、これするなって」

子どもの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。

「小学生のとき、父さんに通知表を見せるとは本当にイヤだった。

なんだこれは、ちゃんと勉強してんのかって言われることがわかってた。

こんな成績じゃぁちゃんとした職業につけないって言われたし、

これがダメ、あれがダメって…。

ま、確かに体育以外は3ばっかだったから仕方なかったかもしれないけど、

でも死刑台に向かう囚人の気分だった」

父は、無言で話を聞いている。横にいる母が、心配そうにうなずく。

「今でも覚えているけど、小学1年生の夏休み、宿題ができていないからって、『マジンガーZ』の最終回を見せてもらえなかった。

宿題を終わらせてからにしなさい、って。

説明したのに聞き入れてもらえなかった。

たった30分だよ、30分。

宿題、必死で頑張ったけど間に合わなかった。

ほんとに毎週楽しみにしていたのに、結局、最終回が見られなかった。

本当に悲しかった。

あの時は再放送なんてなかったから、見ることができなかった。

あれから40年以上経ってるけど、結局見てない。

これは一生忘れられない。絶対に忘れない」

「それは、すまなかった」

父は小さくつぶやいた。

「他にも小学6年生のとき、持っていたマンガを手塚治虫以外全部捨てられたこと。

小遣いを貯めて買い集めたマンガも全部捨てられた。

ある日家に帰ったらマンガがなくて、本棚がスッカラカンになっていた。

あの空っぽの本棚は一生忘れられない。

他にもテレビを押し入れに隠されたこと。

あの日学校から帰ってみたら、テレビ台しかなかった。

テレビが消えていた。ショックだった。

何が起こったんだと思った。おかげで見ていた番組の続きが全部見れなかった。

学校の成績でも、習った剣道でも、褒めてもらった記憶が1つも、一回もない」

僕の心の奥底に住んでいる小さな子どもが声をあげていた。


お父さんはどうして僕を愛してくれないの?

僕はそんなにダメな子なの?

テストの点が悪いから?

落ち着きがないから?

学校で叱られてばかりだから?

忘れ物が多いかな?


父はうつむきながら言った。

「そんなに褒めて欲しかったのか。でも、私も父親から褒めてもらった記憶はないけどな…」

父は言った。確かに祖父も厳しい人だった。

「まぁ、時代的なものもあるかもしれないけど、これは僕の気持ちの話。

まぁ、僕もカウンセリング受けて初めて気づいたんだけどね。僕はね… 」


熱いものが胸の奥からせり上がってきて、

言葉に詰まった。

「『大好きだよ』って言って欲しかったんだ」

口にしたとたん、涙があふれた。

父が驚いて顔を上げ、僕を見た。

「ひと言でいいから、お前は俺の自慢の息子だ、って言ってほしかったんだ。

それだけ、それだけだったんだよ」

もう声にならなかった。

頭をよしよしってほめてほしかったんだよ。

ぎゅっと抱きしめて欲しかったんだよ。

褒めてほしかったんだよ。

認めてほしかったんだよ。

なんでかって?

…そう、僕は、…。

父が…、お父さんが、大好きだったんだよ!

父を大好きだった無邪気なときの気持ちがよみがえってきた。

そう、小さな僕は、お父さんが大好きだったんだよ!

だから、だから、父さんに褒めてもらえなくて、認めてもらえなくて、悲しかったんだよ!


深い心の中に隠されていた気持ちが、渦を巻いて吹き出していた。

僕はぐちゃぐちゃになった。

嗚咽で肺が苦しくなった。

涙で父の顔が見えなくなった。

涙が喉に入り、むせて咳が止まらなくなった。

横から長男がティッシュを渡してくれた。

「ただ、ただ、愛してるよ、そのままでいいよって、ひと言でいいから、言って欲しかっただけなんだよ」

言葉に詰まりながら、やっとのことで僕は言った。

父は僕の目を見て言った。

「健のことはもちろん、愛してるに決まってるじゃないか。そんなこと聞かれるまでもない。今回だって…」

そこで父は、言葉を詰まらせた。

「私が身代わりになりたいって、何度思ったことか… 」

父の目が赤く染まった。

初めて見た父の涙だった。

母も横で泣いていた。

そっか、僕は、愛されていたんだ…。

暖かいものが胸に流れ込んできた。

父は目を赤く染めながら言った。

「認めていたんだよ。仕事だってなんだって、ほんとに認めていたんだ。

たいしたもんだ、っていつもお母さんと話してたんだよ」

「そうなんだ…、今日は話を聞いてくれてありがとう、本当にありがとう」

最後に僕は言った。

「僕は父さんを許します。僕が前に進むために」


父だって反論したこともあっただろう。

それは勘違いだよ、と言いたいこともあっただろう。

しかし、父は何も言わなかった。

最後までひと言も反論しなかった。

僕は全て受け止めてくれた。

帰っていく2人とも背中を見ながら感じた。

出ていた…。何かとてつもなく重く、苦しく、痛いものが体から出ていった。

そしてその空っぽになった空間に、暖かいものが流れ込んできた。

胸が、身体が、信じられないくらい軽かった。


(「僕は、死なない」(ソフトバンククリエイティブ)刀根健さんより)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿