東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

Multimorbidityについて

2021-08-07 12:02:54 | 勉強会

以前、少し勉強会でやったことがありましたが、最近よく取りざたされているトピックでもあり、専攻医の方への教育も含めてもう一度調べて勉強会で扱いました。

<Multimorbidityについて>

  • Multimorbidityとは

 2つ以上の慢性疾患が併存している状態

 定義に含める疾患に関してはコンセンサスが得られているわけではない

Prados-Torres AらのSystemaic Review(J Clin Epidemiol 2014)

  Multimorbidityパターンを分析した14文献の検討から上位20位のリスト提示がされ参考にされている(次ページ)

  • 死亡、身体機能の低下、QOL悪化、ポリファーマシー、受診回数増加、医療費増との関連が報告されている。
  • 今後、高齢化により、さらに増加することが予測されている
    • Multimorbidityの頻度は?パターンは?

    ★C Violanらの報告(PLOS ONE 2014):Systemaic Review

    プライマリケアセッティングでのMultimorbidityの頻度・パターン・関連因子を調査。12国の39研究が対象。

    ①頻度:12.9%(18歳以上対象の研究)~95.1%(65歳以上対象の研究) ほとんどが20%を超えていた。

    ②関連因子:年齢(OR:1.26~227.46)、低い社会・経済状態(OR:1.20~1.91)。女性・精神疾患との関連も報告あり。

    ③パターン:最も多いパターンは変形性関節症+心血管疾患(and/or)代謝疾患。

    ★日本:一般住民対象で29.9%(16~84歳)~64.7%(75歳以上) 在宅患者では53%(Family Practice 2020)

    • どのような介入が有効なのか?

    ★CM Boydらの報告(JAMA 2005)

    15のコモンディジーズのガイドラインを調査 Multimorbidityへの対処はほとんどのガイドラインになし

    76歳のCOPD・DM・HT・骨そしょう症・変形性関節症の患者の場合、ガイドライン通りだと、12の薬剤必要。月に400ドル以上。

    ★M Lugtenbergらの報告(PLOS ONE 2011)

    有病率高く、QOLに影響が大きい4つの疾患(COPD,2型DM,うつ,変形性関節症)のガイドラインに対してcomorbidityの記述を調査

    20のガイドラインで計59の推奨。そのうち78%が関連するcomorbidity(ほとんどDMガイドライン)で、関連しないcomorbidityの記述は8%のみ(うつガイドラインで多い)⇒Multimorbidityに対してガイドラインベースの診療は限界がある。

    ★SM Smithらの報告(コクラン 2021):Systematic Review

    17のRCT(全てcomplex intervention)⇒11研究でケアデリバリー・多職種でのチーム介入。臨床アウトカムの改善はわずかもしくは改善なし。うつ病がある患者に限定した研究においては、うつスコアの中等度の改善を認めた。

    ★英国NICEガイドラインの推奨(2016)

    ステップとして、、

    患者とケアの目的について議論する

    病気と治療の負担を定める

    患者のゴールや価値、優先事項を定める

    その人にとって重要なアウトカムや利益・害を考慮して薬剤や他の治療についてレビューする

    プランに対する同意を得る

    まとめ

     

    • 高齢化がさらに進むなかで、Multimorbidityへの対処は重要性が増すかもしれない。
    • 有効な介入方法は確立していないが、患者と何を目的にするか話しあい、治療内容をレビューしていく。
    • 治療負担にも留意が必要。

ヘルスチェックとしての心電図は有用か?

2021-07-03 13:38:59 | 勉強会

健診などでヘルスチェックとして心電図をとることがありますが、これって有用なのかなと以前から疑問に思っており、今回調べてみました。

 

<ヘルスチェックとしての心電図は有用か?>

  • Screening for Cardiovascular Disease Risk With Resting or Exercise Electrocardiography 

Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force                     (JAMA 2018)

2012年にUSPSTFが行った推奨の再検証

その際の推奨は、冠動脈疾患のリスクが低い人に対しては、心電図スクリーニングは推奨しない(D推奨)

利益と害のバランスを評価するためのエビデンスは不十分であった

★今回の結果:16の研究が基準に合致

➀2つのRCT→50~75歳の糖尿病患者において、運動負荷心電図によるスクリーニングは、心血管複合アウトカムを改善せず

②安静時心電図に関してはRCTなし

③5つのコホートの結果からは、従来の危険因子に運動負荷心電図の所見を追加すると、識別がわずかに改善された

④9つのコホートの結果からは、従来の危険因子に安静時心電図の所見を追加すると、識別がわずかに改善された

⑤無症候者へのスクリーニングの害についてはエビデンスが限定的。

結論:運動負荷心電図によるスクリーニングのRCTは、糖尿病のリスクの高い集団に焦点をあてているにもかかわらず、健康転帰の改善はみられなかった。従来の危険因子に心電図を追加すると識別がわずかにあがったが限界あり。スクリーニングによる害の頻度は不明。

このレビューをふまえて、2012年と同じ推奨となった

 

  • Electrocardiograms in Low-Risk Patients Undergoing an Annual Health Examination(JAMA 2017)

 カナダのオンタリオ州のデータベースを使用して、低リスクのプライマリケア医で毎年の健康診断を受けた患者を対象とした後ろ向きコホート研究

暴露:健康診断後30日以内の心電図の施行

アウトカム:

Primary 追加の心臓検査か循環器医コンサルテーション

Secondary 12か月時点の死、入院、血行再建の有無

★結果

健診を受けた3629859人の患者のうち、21.5%は心電図を受けた。

心電図を受けた患者は、受けなかった患者よりも追加の心臓検査、来院、手技の割合が有意に高かった(OR5.14)。

死亡率(0.19%vs0.16%)、心臓関連の入院(0.46%vs0.12%)、血行再建術(0.20%vs0.04%)は、両方で低かった(ECG vs non-ECG)。

結論:全体的なイベント率は両方とも非常に低いが、定期的な心電図はその後の心臓検査と専門医診察のリスクを高めるようである。

 

  • Association of Low-Value Testing With Subsequent Health Care Use and Clinical Outcomes Among Low-risk Primary Care Outpatients Undergoing an Annual Health Examination(JAMA 2020)

2012年4月1日~2016年3月31日の間に、プライマリケア医で毎年の健康診断を受けた患者を対象とした後ろ向きコホート研究。

3つのコホート:心血管および肺疾患のリスクが低い成人患者(18歳以上)、心血管疾患のリスクが低い成人患者、子宮頸がんのリスクが低い女性患者(13〜20歳以上もしくは69歳以上) 。

暴露:➀(健診から)7日以内の胸部X-P②30日以内の心電図③7日以内のパパニコロウ検査

アウトカム:検査から90日以内の専門医受診、診断的検査、手技

 

まとめ(私見)

  • 心血管リスクの低い人に対して、ヘルスチェックの際にルーチンで心電図を行う必要はないであろう。(むしろ過剰な検査につながるかもしれない)
  • ただし、後半2つの論文の「研究の限界」にも述べられているが、病歴や身体所見などがわからないため、結果の解釈には注意が必要である。(必要あっての心電図→さらなる受診や検査であった可能性はある)
  • 現状の健診では心電図が入ってしまっているのでそこは訂正はできず・・・→結果の解釈時に過剰検査にならないよう注意することはできる
  • また、外来患者で、無症状の心血管リスクの低い人に定期的な検査として心電図を行う必要はないであろう(有症状、診察上の異常がある場合は別)

誤嚥性肺炎の治療は、スルバシリンでなくてセフトリアキソンで本当にいいの?

2021-05-22 17:42:07 | 勉強会

今回は、誤嚥性肺炎に対する抗菌薬治療について調べてみました。2019年のATS/IDSAガイドラインで嫌気性菌のカバーがルーチンでは必要ないとの記載があり、それ以後セフトリアキソンを選択することが個人的には増えました。セフトリアキソンは腎機能が悪くても使いやすく、在宅で加療するにも1日1回でよいために使いやすいです。しかし、セフトリアキソンで治療した後改善が今一つでスルバシリンに変更する場合もあったりします。当然、誤嚥性肺炎の治療は抗菌薬だけではなく、それ以外の非薬物的アプローチが重要なのは前提ですが、実際のところ抗菌薬選択という意味でどうなのかなと思い、今回調べてみました。

 

<誤嚥性肺炎の治療は、スルバシリンでなくてセフトリアキソンで本当にいいの?>

  • ATS/IDSA市中肺炎ガイドライン(2019)

入院患者では誤嚥性肺炎を疑った場合嫌気性菌のカバーを加えるべきか?→肺膿瘍や膿胸でない限りルーチンに嫌気性菌カバーを加えることを推奨しない (条件つき推奨、低いエビデンス)

 

  • Antibacterial treatment of aspiration pneumonia in older people: a systematic review(Clin Interv Aging 2018)

★微生物学→8つの研究

最もコモンなグラム陰性菌は、E.coli , K.pneumonia , P.aeruginosa

最もコモンなグラム陽性菌は、S.aureus , S.pneumonia

多くの研究で菌は混合    嫌気性菌の頻度は少ない

★抗菌薬治療→8つの研究

効果が優れているエビデンスのある特異的な抗菌薬はなかった。

1つの研究で、ABPC/SBTとAZM(IV)を比較した観察研究あり

⇒治療の成功、入院期間で有意差なし

 

  • Ceftriaxone versus ampicillin/sulbactam for the treatment of aspiration-associated pneumonia in adults(J.Comp.Eff.Res 2019)

★方法

多施設後ろ向きコホート研究 

肺炎患者のうち、誤嚥の関連因子(誤嚥のエピソード、嚥下障害、意識障害、神経筋疾患、脳血管疾患、経管栄養もしくは寝たきり)が少なくとも1つある患者を対象

CTRX群237例、 ABPC/SBT群400例のうち、傾向スコア・マッチングをして、最終的にCTRX群(218例)、 ABPC/SBT群(218例)を分析

★結果

平均フォロー期間27日で38例(8.7%)が死亡

病院死 CTRX群6.6%vsABPC/SBT群10.7%(P=0.143)

hospital-free days CTRX群11days vs ABPC/SBT群9days(P=0.005)

★結論

誤嚥関連性肺炎の患者において、CTXRとABPC/SBTを比較するためにさらなる研究が必要である

 

これらをふまえての私見:膿胸や肺化膿症などがない通常の誤嚥性肺炎であれば、嫌気性菌を最初からカバーする必要はないか

ただし、どういう人だとセフトリアキソンで失敗しやすいかは知りたいところ・・・ 


高齢者における脂質異常症の治療

2021-03-20 17:16:51 | 勉強会

後期高齢者や脆弱な高齢者の脂質異常症にどこまで介入するべきか迷うことがあるので、今回調べてみました。当然、リスクファクターやその他の要因も含めて考える必要があるのですが、少し一般的な原則というか、今の時点である程度わかっていること、わかっていないことが整理できました。

 

<高齢者における脂質異常症の治療>

  • 後期高齢者の脂質異常症への治療は意義があるのか?

★Baris Gencerらのシステマティックレビュー(Lancet 2020)

ACC/AHAガイドラインで推奨されているLDLコレステロール低下療法の心血管アウトカムを検討したRCTのうち、フォローアップ期間中央値が2年以上で、高齢患者(75歳以上)のデータを含む試験を対象として解析

⇒合計29件の試験(日本のエゼミチブの研究含む)に参加した24万4090例のうち、2万1492例(8.8%)が75歳以上。
LDLコレステロール1mmol/L(38.67mg/dL)低下当たり、主要血管イベント(心血管死、心筋梗塞・他の急性冠症候群、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合)が26%低下した(P=0.0019)。
スタチン治療とスタチン以外の治療のいずれもが主要血管イベントを有意に抑制し、これらの間には有意な差はなかった。

★Ariela R Orkabyらの報告(JAMA 2020)

2002~12年の期間に、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)がない75歳以上の退役軍人患者を対象とした過去起点コホート研究。

 (ベースラインの背景因子のバランスを取るため傾向スコアを使用)


⇒32万6981例(平均年齢81.1歳)のうち、17.5%が新たにスタチン治療を開始した。フォローアップ期間は平均6.8年。
①全死因死亡の発生は、スタチン使用群が1000人年当たり78.7件と、非使用群の98.2件に比べ有意に低かった。
②心血管疾患による死亡も、スタチン使用群が1000人年当たり22.6件、非使用群は25.7件であり、使用群で有意に低下した。
③複合ASCVDアウトカム(心筋梗塞、虚血性脳卒中、CABG・PCIによる血行再建の複合)の発生は、スタチン使用群は1000人年当たり66.3件、非使用群では70.4件と、使用群で有意に少なかった。

 

  • これら2つの研究から考えると、75歳以上の高齢者でもスタチン等の薬剤を使用して積極的にLDL-Choを低下させた方がよいか?
  • それでは虚弱な高齢者においても同様であろうか?

 

  • 虚弱高齢者の脂質異常症への治療は意義があるのか?

★Matthew Haleらのシステマティックレビュー(Drugs Aging 2020)

虚弱な65歳以上の高齢者を対象として、スタチンの主要血管イベント(MACE)への効果をみた研究を対象。

⇒6つのコホート研究が基準に合致(RCTはなし)。死亡率に関しては、1つの研究でスタチンは死亡率を有意に低下させていたが、その他の研究では有意差がなかった。また、2次予防としての1つの研究では、死亡率が有意に低下していた。1次予防としてのスタチンのMACEへの効果をみた研究はなかった。

結論:虚弱高齢者において、2次予防としてのスタチン投与は死亡率を低下させていたが、1次予防としての効果についてはエビデンスが欠如している。RCTが必要。

上記文献より、虚弱高齢者へのエビデンスは不足しており、判断困難

  • 予後が限られているような高齢患者にスタチンをやめることは?

★Jean S Kutnerらの報告(JAMA Intern Med 2015)

対象:予測予後が1か月〜1年、身体機能が低下、最近心血管系イベントがない、3ヶ月以上スタチンを心血管系疾患の一次もしくは二次予防で内服している、これらを満たす患者

介入:スタチン製剤を継続した群と中止した群で1年間観察し、両群を比較(盲検化なしのRCT)

結果:381例が登録。平均年齢:74.1歳、22%が認知症、48.8%ががん。

両群で60日以内に死亡した患者の割合に有意な差はなく、QOLは中止群の方がむしろ高かった。また、薬を中止によって抑制できた医療費は一人あたり716ドルでした。

まとめ

  • 75歳以上でも、患者が元気であればLDL-Choを下げる治療を行っていくのがよいか
  • ただし、虚弱高齢者に対する効果は不明であるため、個別化が重要であろう
  • 予後1年以内と考えられる患者(特に担癌)にはスタチンの中止について患者に提案してもよいであろう(ちなみに今回詳細は明記しませんでしたが、患者側としても限られた予後のなかではスタチン中止に対して肯定的であるという結果の文献がありました https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28520522/)