がん終末期の患者さんに対する輸液に関してはガイドライン含めて様々な推奨やエビデンスが出ています。最近研修医と話して、話題に出たので、以前調べた内容をアップします。
<がん終末期患者に対する輸液>
•日本緩和医療学会ガイドライン(2006年版、2013年版)←こちらに対しては詳細は記述しません。日本緩和医療学会のホームページから見られます。
•上記ガイドライン(2006年版)の検証
Yamaguchiら(Journal of pain and symptom management 2012)
対象:20歳以上で、経口摂取が100Kcal/日・100ml/日未満となっている腹部悪性腫瘍患者(心・腎・肝不全、認知症などは除外)
デザイン:多施設、前向き、観察研究(12W or 死亡まで)
介入:ガイドラインに準じた輸液療法
アウトカム:global QOL、Discomfort scale、嘔吐・傾眠以外の症状(痛み・倦怠感・息切れ・口渇・むくみ)は研究期間中、安定していた。8割以上の患者が体液貯留のサインに変化なし。患者満足度、feeling of benefitは高かった。
⇒QOL・症状・体液貯留の増悪なく、患者は満足?
つまり、ガイドラインに沿って輸液をしていれば、少なくともデメリットはでない。しかし、メリットは? そして患者の満足とは?
•患者・家族にとっての輸液はどのような意味があるか?
Cohenら(J Pain Symptom Manage 2012)
対象:進行がん患者の輸液研究(RCT,2重盲検)に参加した患者85名と介護者84名
デザイン:質的研究(Day1とDay4にインタビュー)
結果:“Hope” 倦怠感のような症状を軽減したり、意識状態をよくすることにより、尊厳ある人生を延長させたり、QOLが改善するのではないか
“Comfort” 痛みをへらし、鎮痛薬の効果を増強させ、体や精神に栄養を与えることにより、“comfort”が改善するのではないか
•がん終末期患者に対する輸液のメリットは?
Brueraら(Journal of clinical oncology 2013)
対象:ホスピス入院中の18歳以上の進行がん患者で、軽度~中等度の脱水があり、倦怠感+せん妄・傾眠・ミオクローヌスのうち2つの症状がある予後1週間以上と考えられた患者129名(心・腎不全、認知症、出血+、血圧低下+、12時間排尿なし、意識障害などは除外)
デザイン:多施設、RCT、2重盲検
介入:毎日1Lと100mlの生食点滴
1次アウトカム:倦怠感・せん妄・傾眠・ミオクローヌスの4つの症状の合計(0~40)の変化(ベースラインと4日目)
2次アウトカム:ESAS(身体症状のスケール)、生存期間など
結果:上記アウトカム全て4日目・7日目の変化に有意差がなし。生存期間も差がなし(平均21日と15日)
ガイドラインは、標準的な指針を与えてくれます。しかし、どことなく、目の前の患者さんに適応する際に違和感を感じることも時々ありますよね。患者・家族にとっての輸液への思いや考えを調べた研究は非常に興味深いなと感じました。この結果は単に輸液のメリットやデメリットに対する情報提供が不十分であったのか、それともそのうえでの“Hope”・ “Comfort”への期待があったのか・・・。そこが知りたいなと思いました。がん患者さんに限らないですが、医学的なメリット・デメリットとともに患者さんや家族の思いや考えをどのように医学的なエビデンスとバランスをとってやっていくのか・・・。それは難しい部分ではありますが、最も重要な部分であると個人的には感じています。最後にあげた研究はすごいなと思います。まずは情報提供するという意味でこのようなエビデンスは非常に意義があると思います。