東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

「老衰」に関するインタビュー記事(М3.com)

2018-02-07 20:45:59 | その他

 1/19、1/26、2/2の3回に分けて、今永が受けたМ3.comという医療情報サイトに「老衰」に関するインタビュー記事がのりました。

いろいろなご意見もいただいており、参考になります。以前から感じておりますが、「老衰」を取り巻く問題については、医療者個々の経験や考えが大きく影響していると感じます。今回もそのようなことを感じるとともに、この問題について、議論がされていくとよいなと感じました。今年度は笹川記念財団から研究助成もいただき、全国の在宅医を対象に郵送式質問紙調査による横断研究を行うことができました。現在、結果をまとめておりますが、学会発表や論文投稿などを行っていく予定です。少しでも、今後の議論の参考となればよいなと思っています。

М3.comのインタビュー記事も、サイトに登録されている方は見ていただければ幸いです。


施設入所中の高齢者における降圧について

2016-10-15 17:33:15 | その他


在宅介護を受けていたり、施設入所中であったりする高齢者に対してどの程度血圧をコントロールするのがよいのかはあまりはっきりしていません。ガイドラインをそのままあてはめるような臨床はあまり適切ではないのかなとも思います。しらべものをしていて、施設入所者(高齢者)の降圧に関する文献をみつけたのでそれを今日はのせたいと思います。あまり単体の文献を紹介することは少ないのですが、個人的にはそれなりにインパクトがあったので・・・。

 
JAMA Intern Med. 2015 Jun;175(6):989-95. doi: 10.1001/jamainternmed.2014.8012.

Treatment With Multiple Blood Pressure Medications, Achieved Blood Pressure, and Mortality in Older Nursing Home Residents: The PARTAGE Study.

Abstract

IMPORTANCE:

Clinical evidence supports the beneficial effects of lowering blood pressure (BP) levels in community-living, robust, hypertensive individuals older than 80 years. However, observational studies in frail elderly patients have shown no or even an inverse relationship between BP and morbidity and mortality.

OBJECTIVE:

To assess all-cause mortality in institutionalized individuals older than 80 years according to systolic BP (SBP) levels and number of antihypertensive drugs.

DESIGN, SETTING, AND PARTICIPANTS:

This longitudinal study included elderly residents of nursing homes. The interaction between low (<130 mm Hg) SBP and the presence of combination antihypertensive treatment on 2-year all-cause mortality was analyzed. A total of 1127 women and men older than 80 years (mean, 87.6 years; 78.1% women) living in nursing homes in France and Italy were recruited, examined, and monitored for 2 years. Blood pressure was measured with assisted self-measurements in the nursing home during 3 consecutive days (mean, 18 measurements). Patients with an SBP less than 130 mm Hg who were receiving combination antihypertensive treatment were compared with all other participants.

MAIN OUTCOMES AND MEASURES:

All-cause mortality over a 2-year follow-up period.

RESULTS:

A significant interaction was found between low SBP and treatment with 2 or more BP-lowering agents, resulting in a higher risk of mortality (unadjusted hazard ratio [HR], 1.81; 95% CI, 1.36-2.41); adjusted HR, 1.78; 95% CI, 1.34-2.37; both P < .001) in patients with low SBP who were receiving multiple BP medicines compared with the other participants. Three sensitivity analyses confirmed the significant excess of risk: propensity score-matched subsets (unadjusted HR, 1.97; 95% CI, 1.32-2.93; P < .001; adjusted HR, 2.05; 95% CI, 1.37-3.06; P < .001), adjustment for cardiovascular comorbidities (HR, 1.73; 95% CI, 1.29-2.32; P < .001), and exclusion of patients without a history of hypertension who were receiving BP-lowering agents (unadjusted HR, 1.82; 95% CI, 1.33-2.48; P < .001; adjusted HR, 1.76; 95% CI, 1.28-2.41; P < .001).

CONCLUSIONS AND RELEVANCE:

The findings of this study raise a cautionary note regarding the safety of using combination antihypertensive therapy in frail elderly patients with low SBP (<130 mm Hg). Dedicated, controlled interventional studies are warranted to assess the corresponding benefit to risk ratio in this growing population.

 

フランスとイタリアでおこなわれた80歳以上で施設入所中の1127人を対象としたコホート研究です。平均年齢は87.6歳で女性が78.1%。年齢や女性の割合は本邦の老人介護福祉施設(特養)ともある程度一致します。(我々が関わっている特養もほぼ同様です)

連続して3日間の血圧を測定し、収縮期血圧が130 mmHg未満かどうか、降圧薬を2種類以上服用しているかどうかで分類。2年後までフォローして、死亡をアウトカムとしています。
SBP<130かつ降圧薬を2種類以上服用しているのが227人(20.1%)であり、その他が900人(79.9%)であり、この2群での比較をおこなっています。

250人(22%)が死亡
SBP<130かつ降圧薬を2種類以上服用群が、有意に死亡と関連していた(HR 1.78; 1.34-2.37)。
感度分析も行っており、propensity-score matched(患者の背景因子を調整)、心血管合併症の有無での調整、過去の高血圧既往がない患者を除いた解析においても同様の傾向であった。
 
 日本人にそのままあてはめてよいかは慎重に考える必要がありますが、施設入所者の降圧剤を考えるうえで参考になるかもしれませんね。結構、降圧剤を複数のんでいる施設の患者さんはいますし、実際減らせることも多いのですが、多剤の場合に減らせそうだな~どうしようかな~というときに少し参考になるかなと感じました。
 

Afや脳塞栓の既往のある脳出血後の患者に抗凝固療法は再開したほうがよいのか?

2016-08-27 18:18:12 | その他

 訪問診療を行っている患者さんで、Afがある脳出血後の患者さんがいました。訪問診療の依頼があった時点では脳出血の発症から4か月以上たっていましたが、抗凝固療法は再開されていませんでした。医学的には実際どのようにするのがよいのか・・・ 今回はそれを調べた内容をのせたいと思います。

•2次資料

★2011 American Stroke Association guidelineの推奨

①脳出血後少なくとも1~2週は抗凝固療法は再開しない

②脳梗塞のリスク少ないPt(脳梗塞既往ないAfなど)や皮質下出血のPt、重度の機能障害あるPtには再開は推奨しない。アスピリンは考慮。塞栓リスクが高い患者では再開する。

★Up to date

①抗凝固療法をすすめる状況

脳出血の再発低リスク(皮質下でない、血圧コントロール良好)

塞栓の高リスク(CHADS2≧5)、最近の梗塞・TIA、人工弁、弁膜症

②抗凝固療法をすすめない状況

脳出血の再発高リスク(皮質下、血圧コントロール不良)

塞栓の低リスク(CHADS2≦2)

•2次資料で引用される文献

Mark H Eckmanらの報告(Stroke 2003)

69歳以上の脳出血・非弁膜性心房細動の435例を対象にDecision Analysis

皮質下出血に関しては、QALYs(quality-adjusted life years)が非ワーファリン群で1.9年延長。それ以外の脳出血では、0.3年のみ延長。

•抗凝固療法中に脳出血起こした患者のアスピリンとワーファリンの再開を比べたCelineらの報告(Cerebrovasc Dis 2013)

後ろ向きに、再開なし群・ワーファリン再開群・アスピリン群で検討

⇒致死的・非致死的脳卒中で有意差なし(ただし、後ろ向き・N40程度)

•日本の臨床医はどうしているか?

Maedaらの報告(J Neurol Sci 2012):329名の神経内科医が回答(回答率79%)。

 91%が抗凝固薬を再開、3%が抗血小板薬を開始した経験あり。

 半数はCT所見を参考に再開。(2w以内の再開が半数以上)

 

 あたりまえではありますが、出血と梗塞のリスクの兼ね合いではあるのでしょうね。さきほどの方は皮質下出血ではありませんでした。Afは非弁膜性。血圧のコントロールもまずまず。CHADS2=3点。これらを考えると、抗凝固療法を再開したほうがよいのかもしれません。 中止してからずいぶん時がたっているのは、いまさらなんとなく再開しづらくなりますね・・・。本人や家族のくすり(抗凝固療法)に対する解釈も参考にする必要もあるのかもしれません(医学的に誤った解釈はある程度ただす必要があるかもしれませんが、出血したことは抗凝固療法の影響が大きいと考えていれば、再開により不安感が強くなるかもしれないし・・・)。

 くすり1つ再開するのも、医学的な根拠はもとより、様々なことを考えていかなくてはならないなと実感しました。

 


がん終末期患者に対する輸液

2016-08-07 23:44:36 | その他

 がん終末期の患者さんに対する輸液に関してはガイドライン含めて様々な推奨やエビデンスが出ています。最近研修医と話して、話題に出たので、以前調べた内容をアップします。

 

 <がん終末期患者に対する輸液>

•日本緩和医療学会ガイドライン(2006年版、2013年版)←こちらに対しては詳細は記述しません。日本緩和医療学会のホームページから見られます。
•上記ガイドライン(2006年版)の検証
 
Yamaguchiら(Journal of pain and symptom management 2012)
対象:20歳以上で、経口摂取が100Kcal/日・100ml/日未満となっている腹部悪性腫瘍患者(心・腎・肝不全、認知症などは除外)

デザイン:多施設、前向き、観察研究(12W or 死亡まで)

介入:ガイドラインに準じた輸液療法

アウトカム:global QOL、Discomfort scale、嘔吐・傾眠以外の症状(痛み・倦怠感・息切れ・口渇・むくみ)は研究期間中、安定していた。8割以上の患者が体液貯留のサインに変化なし。患者満足度、feeling of benefitは高かった。

⇒QOL・症状・体液貯留の増悪なく、患者は満足?

つまり、ガイドラインに沿って輸液をしていれば、少なくともデメリットはでない。しかし、メリットは? そして患者の満足とは?

•患者・家族にとっての輸液はどのような意味があるか?

Cohenら(J Pain Symptom Manage 2012)

対象:進行がん患者の輸液研究(RCT,2重盲検)に参加した患者85名と介護者84名

デザイン:質的研究(Day1とDay4にインタビュー)

結果:“Hope” 倦怠感のような症状を軽減したり、意識状態をよくすることにより、尊厳ある人生を延長させたり、QOLが改善するのではないか

“Comfort” 痛みをへらし、鎮痛薬の効果を増強させ、体や精神に栄養を与えることにより、“comfort”が改善するのではないか

•がん終末期患者に対する輸液のメリットは?

Brueraら(Journal of clinical oncology 2013)

対象:ホスピス入院中の18歳以上の進行がん患者で、軽度~中等度の脱水があり、倦怠感+せん妄・傾眠・ミオクローヌスのうち2つの症状がある予後1週間以上と考えられた患者129名(心・腎不全、認知症、出血+、血圧低下+、12時間排尿なし、意識障害などは除外)

デザイン:多施設、RCT、2重盲検

介入:毎日1Lと100mlの生食点滴

1次アウトカム:倦怠感・せん妄・傾眠・ミオクローヌスの4つの症状の合計(0~40)の変化(ベースラインと4日目)

2次アウトカム:ESAS(身体症状のスケール)、生存期間など

結果:上記アウトカム全て4日目・7日目の変化に有意差がなし。生存期間も差がなし(平均21日と15日)

 

 ガイドラインは、標準的な指針を与えてくれます。しかし、どことなく、目の前の患者さんに適応する際に違和感を感じることも時々ありますよね。患者・家族にとっての輸液への思いや考えを調べた研究は非常に興味深いなと感じました。この結果は単に輸液のメリットやデメリットに対する情報提供が不十分であったのか、それともそのうえでの“Hope”・ “Comfort”への期待があったのか・・・。そこが知りたいなと思いました。がん患者さんに限らないですが、医学的なメリット・デメリットとともに患者さんや家族の思いや考えをどのように医学的なエビデンスとバランスをとってやっていくのか・・・。それは難しい部分ではありますが、最も重要な部分であると個人的には感じています。最後にあげた研究はすごいなと思います。まずは情報提供するという意味でこのようなエビデンスは非常に意義があると思います。

 


日本経済新聞の 「自然に逝きたい」増える老衰

2016-06-09 23:55:31 | その他

 先日取材をいただいた日本経済新聞の記事が6/6夕刊に掲載されました。「老衰」について話しをということで、取材いただきました。

「老衰」に関しては、昨年秋のNHKスペシャルでも取材協力をさせていただきましたが、それに続いてメディアの取材は2回目でした。

超高齢者の自然な看取りに対する関心を2回の取材を通じて感じました。日々の臨床においても、患者さんや家族はそれぞれに死生観をもちながら「老衰」というものに対峙していることを感じます。医療者として、「老衰」という医学的な定義がないものをどのように考えるか・・・。非常に重要な問題であると個人的には感じています。今度、日本在宅医学会でも、モーニングセミナーで「老衰」のはなしをさせていただく機会をいただきました。今まで、細々ながら老衰に関して研究を行ってきているのですが、今後も細々続けていたきいと思います。

 もし、日経新聞の記事にご興味がある方がいらっしゃれば、電子版でも公開されているので、下記URLでご参照ください。

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO03162350T00C16A6NZBP00