最近、患者さんのエピソードを通じてカンファレンスで話題になったので、「セレコキシブにPPIを併用した方がよいか」について調べてみました。セレコキシブはCOX-2選択阻害薬で他のNSAIDSと比較して消化管合併症が少ないため、使用することも多いくすりです。他のNSAIDSの場合、PPI併用した方がよいわけですが、セレコキシブでもPPIはルーチンで併用するのがよいのか、もしくはどのような人には併用した方がよいのか疑問に思い調べています。
<セレコキシブにPPIは併用した方がよいか>
- 消化性潰瘍ガイドライン(2015年)
潰瘍既往歴がある患者は潰瘍発生予防治療を行うことを推奨する(A)
潰瘍既往歴がある患者はCOX-2選択阻害薬で3.7~24.1%の潰瘍発生の報告あり、他のNSAIDSと同等
潰瘍既往歴がない患者は潰瘍発生予防治療を行わないことを推奨する(A)
Feng GSらの報告(World J Gastroenterol 2008)が根拠
- Feng GSらの報告(World J Gastroenterol 2008)
Celecoxib-related gastroduodenal ulcer and cardiovascular events in a randomized trial for gastric cancer prevention.
対象:高度萎縮性胃炎や腸上皮化成や異形成のある中国人1024名(35~64歳)
介入:セレコキシブ200㎎1日2回とプラセボ、1.5年までフォロー(2重盲検RCT)
結果:胃十二指腸潰瘍の発症率はそれぞれ3.72%と3.31%で有意差なし、心血管イベントに関しても有意差なし
自分の解釈⇒対象患者としては偏りあるか(もともと胃がんの予防に関して調べた研究のため?)、また比較的若年の患者を対象としている 高齢者では?
ということで、さらに文献を調べてみました。
- FKL Chanらの報告(Gastroenterology 2007)
対象:NSAIDS関連の潰瘍による出血で入院した287名を無作為割り付け(潰瘍が治癒し、ピロリ菌陰性を確認して登録)
介入:セレコキシブ200mgを1日2回、または徐放性ジクロフェナク75mgを1日2回+オメプラゾール20mgを1日1回
6か月追跡し、症状がでたら内視鏡、なければ最後に内視鏡で確認
主要アウトカム:上部消化管合併症の再発
結果:セレコキシブ群18.7%、併用群25.6%に発生で有意差なし(P=0.21)
- FKL Chanらの報告(Lancet 2007)
対象:上部消化管出血で入院した、関節炎に対して非選択性NSAIDSを内服していた441名を無作為割り付け
(潰瘍が治癒し、ピロリ菌陰性を確認して登録)
介入:セレコキシブ200mg1日2回に、エソメプラゾール20㎎1日2回併用群とプラセボ群 12か月追跡
主要エンドポイント:出血性潰瘍の再発
結果:主要エンドポイントの発生はPPI併用群0、プラセボ群8.9%で有意差あり
結論:出血性潰瘍のリスクが高いがNSAIDSを必要とする患者においては、COX-2阻害薬とPPIの併用がよい
この2つの論文からは・・・
出血性潰瘍の既往がある場合でも、上部消化管イベントに関して、セレコキシブはPPI+NSAIDSと同等の予防効果がある
さらにセレコキシブにPPIを併用するとより予防効果がある
費用対効果は不明であるが、出血性潰瘍の既往があるがNSAIDSを使用しなくてはならない場合においてはPPI併用したほうがよいか
さらに・・・
- E Rahmeらの報告( Arthritis Rheum 2007)
Do proton-pump inhibitors confer additional gastrointestinal protection in patients given celecoxib?
ヘルスサービスのデータベースを使用して、1999年4月~2002年12月にセレコキシブか非選択性NSAIDSを処方された患者を対象にした過去起点コホート
セレコキシブ単独(1161508名)より、セレコキシブ+PPI(360799名)の方が上部消化管疾患による入院は有意に少なかった(HR:0.69)
サブグループ解析すると、PPI併用は75歳以上で利益があったが、66-74歳では有意差なかった。
結論:75歳以上ではセレコキシブにPPI併用した方がよいだろう。 66-74歳では必ずしも必要ないであろう。
・まとめ
出血性潰瘍の既往がある患者や75歳以上においては、セレコキシブにPPIを併用した方がよいかもしれない
(ただし、PPIの副作用や費用対効果も考慮したうえで処方する必要があると思いました。)