東埼玉病院 総合診療科ブログ

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認知症患者の疼痛評価について

2017-02-12 21:58:19 | 勉強会

 先日、川野先生が勉強会でやってくれた内容について載せたいと思います。川野先生自身が、認知症患者の苦痛評価のむずかしさを実感して、勉強会の題材にしてくれました。

<認知症患者の疼痛評価について> 
 
認知症患者の疼痛評価尺度
進行した認知症の苦痛評価にはおもに観察による方法が用いられる。
いろいろ文献をあたり、代表的と思われるのは下記。
①③④⑤は日本語版開発あり。
 
①DOLOPLUS 2 日本語版あり 文献2では高評価
有用性について最も包括的に検証されているスケールで,10項目について0~3で数値化(最高30点,身体的項目5,精神運動項目3,精神社会的項目2の3つの副項目にわかれている)し,5点をカットオフ値としている
 
②l`echelle comportementale pour personnes agees (ECPA) 
 
③pain assessment checklist for  seniors with limited ability to communicate (PACSLAC) 日本語版PACSLAC-Jあり 文献2で高評価
  カナダ,60項目 
  最も行動の微妙な変化を検出できるが,60項目からなるため日常のケアでは用いにくい.
 
④pain assessment in advanced  dementia(PAINAD)scale 日本語版あり
 呼吸,ネガティブな哺鳴,顔の表情,ボディ・ランゲージ,慰めやすさの5項目でそれぞれ0~2点,計10点で評価する.項目が少なく,日常のケアの現場で,
認知症患者に苦痛があるかどうかをみるにはすぐれている。
⑤Abbey Pain Scale  日本語版あり(APS-J)
 オーストラリア,6つ の痛み行動評価
 看護師や介護職者が利用できるよう開発されて信頼性・妥当性も高く、最近の研究によりその有用性も報告されている
 
 声をあげる、表情、ボディーランゲージの変化、行動の変化、生理学的変化、身体的変化の6つの項目について「なし」、「軽度」、「中等度」、「重度」で評価して計算
 
⑥Checklist of Nonverbal Pain Indicators(CNPI)
  6項目の 痛み行動評価
 
⑦Non-communicative Patient’s Pain Assessment Instrument (NOPPAIN)
  6項目評価
 
 
認知症患者の疼痛とBPSD
 痛みや痛みに関連した苦痛からBPSDが起こることがある。
・Huseboらは、ノルウェー北部の352人の中等度から高度認知症患者について、18施設中の60ユニットについて、痛み治療を積極 的に実施したグループとコントロールグル ー プにわけてクラスターRCTを実施。(鎮痛薬はアセトアミノフェン、モルヒネ、ブプレノルフェン、プレガバリン使用)
8週間後 Cohen-Mansfild Agitation Inventory(BPSDを評価するスコア)が有意に軽減したが、治療を中止す ると元に戻った。
痛みの治療 がBPSD(うつ、アパシー、夜間行動、食欲)減少に効果的であった。(文献4)
 
認知症の程度と疼痛の有病率、治療実施の関連
・オーストラリアのナーシングホーム12施設で425人を対象にした疼痛と認知機能の関係を調査(文献5)
言語的に疼痛を訴えられない高度認知症患者(CI-NV Conge)では疼痛を感じている割合が、言語的に疼痛を訴えられる認知症患者に比べ高くなっている
 
group CUS (cognitively unimpaired/slightly impaired)MMSE18点以上
group CI (cognitively moderately – severely impaired) MMSE17点以下
 group CI-V (verbally communicating)
 group CI-NV (not verbally communicating).
 
鎮痛薬なしに痛みを感じている割合が認知機能低下とともに増える。
 
(川野先生のまとめ・感想)
文献2のレビューでは29個も!評価対象となるスケールがあり、信頼性・妥当性が検討されています。
日本語版が開発されているものも複数ありますが、PAINAD以外は、日本語版があってもなぜかアクセスできるものが少ないので、コメディカルと共有するのはなかなか困難な気がしました。
文献からは、言語的コミュニケーションがとれない認知症患者さんは、痛そうなそぶりが報告されたら、様子を見るよりは鎮痛薬を積極的に試してあげたほうがよいとわかりました。
 
(文献)
1.認知症の緩和ケア  平原佐斗司  緩和医療学 vo1.11 no.2 2009
2.Sandra MG Zwakhalen et al.  Pain in elderly people with severe dementia: A systematic review of behavioural pain assessment tools BMC Geriatrics 2006
3.鈴木みずえ 認知症高齢者の痛みに関するアセスメントツールとケア介入  日本早期認知症学会誌第7巻第1号,2014
4.Husebo BS et al.  Efficacy of pain treatment on mood syndrome in patients with dementia: a randomized clinical trial.   Int J Geriatr Psychiatry. 2014 Aug;29(8):828-36.  
5.Ulrike Bauer et al. Pain treatment for nursing home residents differs according to cognitive state – a cross-sectional study   BMC Geriatrics (2016) 16:124
 
 
 私自身の感想です。数年前くらいかな・・・外山先生が、認知症患者さんの疼痛評価スケールについてしらべてくれたことがありましたが、そこからあまり研究自体はすすんでいないのかなという印象を受けました。研究としてやるには難しい内容ですもんね。
臨床的には、言語的コミュニケーションがとれない認知症患者さんは痛みが過小評価されやすいのでしょう。それは気をつけなくてはなと思いました。普段ケアにあたっている人から状況をよく聞くことが大事かもしれないと再認識しました。また、BPSDの背景に苦痛がないかの確認も重要ですね。