90歳代くらいの患者さんに心房細動が見つかった際に、抗凝固療法をはじめるか、またはじめるとして薬剤は何を選択するかなどで迷うことがあります。虚弱な超高齢者の場合には、転倒のリスクもあったりして、治療開始が裏目に出ないかと心配になってしまうことも多いかと思います。今回は、ちょっと前の勉強会でそのあたりのことを調べたので、のせたいと思います。
<超高齢者の心房細動に対する抗凝固療法>
★Wulzler Aらの報告(J Am Med Dir Assoc 2015)
Berlin AF Registryに登録された11888例のうち、89歳以上の279例を対象(観察研究)
→病院死の患者などを除いて104例が13.8±17.5monthsフォローアップされ、OAC実施率は、最初35.6%、エンドポイントまでで56.7%。OACの有無により、Stroke/TIA、大出血、死亡で有意差なし。VKA受けていた症例のPT-INRは1.76±1.0と低かった。
結論:超高齢者でOACの施行は少なく、 OACの有無に関わらず、Stroke/TIAは高く、VKAのコントロールもよくなかった。
★Yamashita Yらの報告(Chest 2016)
伏見レジストリに登録された3304例のうち、85歳以上の479例を他のグループと比較。
→OAC実施率は、85歳以上では41.3%と有意に少なかった。平均フォローアップ2年で、脳梗塞・全身塞栓症の発症率は85歳以上で有意に高かったが、大出血の発生は有意差がなかった。
★Chao TFらの報告(Circulation 2018)
台湾の健康保険のデータから抽出
①1996年~2011年(NOAC登場前) 90歳以上
(1)抗血栓療法していないAF群(11064例)と非AF群(14658例)を比較、平均フォローアップ約2年
→AF群は有意に脳梗塞発症が多かった(5.75%/年vs3.00%/年)が、脳出血は有意差なかった。
(2)AF患者を無治療群11064例、ワーファリン群617例、抗血小板薬群4075例に分類し、比較
→無治療群と抗血小板群では脳梗塞発症で有意差なし。
ワーファリン群は無治療群と比べて有意に減少(3.83%/年vs5.75%/年)、脳出血に差はなし。
②2012年~2015年(NOAC登場後)
AF患者10852例のうち、ワーファリン群768例とNOAC群978例を比較
→脳梗塞の発症に有意差なし、脳出血はNOAC群が有意に少ない(0.42%/年vs1.63%/年)
結論:90歳以上でも抗凝固療法は考慮されるべきであり、NOACがより選択肢としてよいかもしれない。
ここまでの感想・・・
★Gage VFらの報告(Am J Med 2005)
転倒リスクのあるAF患者1245例とその他のAF患者18261例を比較した観察研究、アウトカムは脳出血による入院
→転倒リスク群は有意に脳出血が多かったが、ワーファリン群・アスピリン群・無治療群で有意差なかった(ただし、ワーファリン群は脳出血による死亡は増加)。脳梗塞・脳出血・心筋梗塞・死亡などの複合エンドポイントでは、CHADS2スコア2点以上の場合には、抗凝固療法の利益があった。
★Donze Jらの報告(Am J Med 2012)
退院時に抗凝固薬を内服していた515例を対象とした前向きコホート研究、退院後1年以内の大出血をアウトカム
→転倒リスクの高さと大出血には関連が見られなかった
★Inui TSらの報告(J Trauma Acute Care Surg 2014)
カリフォルニアの大規模データを用いた過去起点コホート。OAC群42913例、対照群334960例。
→転倒歴がある高齢者へのOACは、その後の死亡率の上昇と関連があり,脳梗塞の発症リスクが低い(CHA2DS2-VAScスコア0~3)場合には,抗凝固療法によって生じるリスクがベネフィットを上回る可能性がある
以上をふまえて、さらに感想・・
転倒歴がある高齢者(転倒リスクよりも)で、 CHADS2スコアが低い患者では抗凝固療法を慎重に判断した方がよいか
ただし、過剰に心配して投与しないのもよろしくないか