今回、プライマリケア連合学会の学術大会に参加した際、「ACPの光と影」というシンポジウムを拝見しました。川口篤也先生の「影」の部分にフォーカスをおいた講演内容はうなづける部分も多く、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のリスクについてあたらめて考えさせられました。
そこで、少し調べて勉強会のネタにしてみました。
<アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のリスクについて考える>
★Palliat Med 2014 28(8) システマティックレビュー
ACPは、生命維持治療を減らし、ホスピスや緩和ケアの利用を増やし、入院を防ぐ
★J Am Med Dir Assoc 2016 17(4) ナーシングホーム(NH)を対象としたシステマティックレビュー
ACPは、入院を9~26%減らし、NHで亡くなる入所者を29~40%増やす。医療費を減らす報告もあり。
★JAMA 1995 274(20) SUPPORT研究:事前指示(AD)の効果をみたRCT
9105人を対象として、熟練した看護師が病状の理解を確認し、ADを患者から聞き,その情報を医師に伝えるという介入の有効性を検証
介入群と非介入群で,アウトカム(DNR取得から死亡までの日数、疼痛、医療コスト、患者・家族の満足度、ADの遵守)に有意差なし
つまり、ADを取るだけではだめで、ACPというプロセスが重要!?
★Am J Kidney Dis 2018 71(2) 腎不全末期の患者・家族を対象とした質的研究
腎不全末期の患者24名・家族15名を対象として、ACPに対する患者・家族の考えや態度を描写する目的
5つのテーマ:本質的な価値を明確にする、直面する対話、相互的な理解を交渉する(対立的な介護者の援助、タブーを切り出す)、患者の自律への挑戦、決定的な無力化(医療の透明化の欠如、無関心に対する失望)
ACPはタブーとも考えることができ、介護者に葛藤を克服することを求めているかもしれない。患者や介護者が病状の現実を受け入れていない場合はより複雑である。
⇒医療者はACPを行う際に、そのあたりへの配慮が必要という主旨の結論。
★Int J Palliat Nurs 2014 20(1) clinical nurse specialist(CNS)を対象とした質的研究
CNSがACPを始めるかどうか決める時に、影響を与える因子について探索
ACPは、CNSに「綱渡りをする」ことを要求する(利益と潜在的なリスクのバランスをとりこと)。3つの因子⇒その話題を話し合うことへの患者の心構え、患者の身体状況、患者や家族との関係性 ACPを開始することはリスクを含んでいると結論
★Palliat Support Care 2011 通院中の進行がん患者77例を対象としたRCT
訓練されたケアプランニング・メディエイターがACPを行うことを介入
不安や抑うつは介入しても増えなかった
専門職・家族・友人とのend-of-life planningの議論の程度(VAS)は介入で増えた
しかし、コミュニケーションの幸福度やサービスへの満足度は減少した
患者や家族の心構えや病状への受け入れなどを考慮して行う必要がある「綱渡り」であることに自覚的であることが重要か!?
シンポジウムや今回調べてみて、あらためてACPを行うときに、患者さんや家族の表情・しぐさ・発言などをみながら、どのように話すか・どこまで話すか・話しをやめるかなどを考えていく必要があるなと再認識しました。同時に、「察する」ことの難しさ、特にそれを教育することの難しさはあるなと感じました。そのあたりが今後も課題かなと個人的には感じています。