健診などでヘルスチェックとして心電図をとることがありますが、これって有用なのかなと以前から疑問に思っており、今回調べてみました。
<ヘルスチェックとしての心電図は有用か?>
- Screening for Cardiovascular Disease Risk With Resting or Exercise Electrocardiography
Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force (JAMA 2018)
2012年にUSPSTFが行った推奨の再検証
その際の推奨は、冠動脈疾患のリスクが低い人に対しては、心電図スクリーニングは推奨しない(D推奨)
利益と害のバランスを評価するためのエビデンスは不十分であった
★今回の結果:16の研究が基準に合致
➀2つのRCT→50~75歳の糖尿病患者において、運動負荷心電図によるスクリーニングは、心血管複合アウトカムを改善せず
②安静時心電図に関してはRCTなし
③5つのコホートの結果からは、従来の危険因子に運動負荷心電図の所見を追加すると、識別がわずかに改善された
④9つのコホートの結果からは、従来の危険因子に安静時心電図の所見を追加すると、識別がわずかに改善された
⑤無症候者へのスクリーニングの害についてはエビデンスが限定的。
結論:運動負荷心電図によるスクリーニングのRCTは、糖尿病のリスクの高い集団に焦点をあてているにもかかわらず、健康転帰の改善はみられなかった。従来の危険因子に心電図を追加すると識別がわずかにあがったが限界あり。スクリーニングによる害の頻度は不明。
このレビューをふまえて、2012年と同じ推奨となった
- Electrocardiograms in Low-Risk Patients Undergoing an Annual Health Examination(JAMA 2017)
カナダのオンタリオ州のデータベースを使用して、低リスクのプライマリケア医で毎年の健康診断を受けた患者を対象とした後ろ向きコホート研究
暴露:健康診断後30日以内の心電図の施行
アウトカム:
Primary 追加の心臓検査か循環器医コンサルテーション
Secondary 12か月時点の死、入院、血行再建の有無
★結果
健診を受けた3629859人の患者のうち、21.5%は心電図を受けた。
心電図を受けた患者は、受けなかった患者よりも追加の心臓検査、来院、手技の割合が有意に高かった(OR5.14)。
死亡率(0.19%vs0.16%)、心臓関連の入院(0.46%vs0.12%)、血行再建術(0.20%vs0.04%)は、両方で低かった(ECG vs non-ECG)。
結論:全体的なイベント率は両方とも非常に低いが、定期的な心電図はその後の心臓検査と専門医診察のリスクを高めるようである。
- Association of Low-Value Testing With Subsequent Health Care Use and Clinical Outcomes Among Low-risk Primary Care Outpatients Undergoing an Annual Health Examination(JAMA 2020)
2012年4月1日~2016年3月31日の間に、プライマリケア医で毎年の健康診断を受けた患者を対象とした後ろ向きコホート研究。
3つのコホート:心血管および肺疾患のリスクが低い成人患者(18歳以上)、心血管疾患のリスクが低い成人患者、子宮頸がんのリスクが低い女性患者(13〜20歳以上もしくは69歳以上) 。
暴露:➀(健診から)7日以内の胸部X-P②30日以内の心電図③7日以内のパパニコロウ検査
アウトカム:検査から90日以内の専門医受診、診断的検査、手技
まとめ(私見)
- 心血管リスクの低い人に対して、ヘルスチェックの際にルーチンで心電図を行う必要はないであろう。(むしろ過剰な検査につながるかもしれない)
- ただし、後半2つの論文の「研究の限界」にも述べられているが、病歴や身体所見などがわからないため、結果の解釈には注意が必要である。(必要あっての心電図→さらなる受診や検査であった可能性はある)
- 現状の健診では心電図が入ってしまっているのでそこは訂正はできず・・・→結果の解釈時に過剰検査にならないよう注意することはできる
- また、外来患者で、無症状の心血管リスクの低い人に定期的な検査として心電図を行う必要はないであろう(有症状、診察上の異常がある場合は別)