超高齢者の高血圧について、今回勉強会で調べましたので、共有させていただきます。超高齢者には明確な定義はありませんが、85歳以上や90歳以上を指すことが多いようです。ただし、今回は80歳以上を目安にさまざまな文献を調べています。
<超高齢者の高血圧について>
★Thomas van Bemmel et al. J Hypertens. 2006.
85歳となった571例を対象とした前向きコホート研究。
平均フォロー期間は4.2年、39.2%が高血圧の既往あり。高血圧の既往があると、ない場合と比較して、心血管死は増加(RR:1.60)、しかし総死亡は有意差なし。
→超高齢者では、高血圧は総死亡のリスクではない。
★Nigel S Beckett et al. N Engl J Med. 2008.
収縮期血圧160以上が持続する80歳以上の患者3845例を対象としたRCT。介入群は150/80を目標にサイアザイドを使用して治療(不十分な場合はACEを使用)。
2年の時点で、介入群で平均して血圧15.0/6.1の低下。
ITTで、総死亡を21%減らし(P=0.02)、心不全を64%減らした(P<0.001)。→80歳以上でも降圧剤治療は利益がある。
★Vijaya M Musini et al. Cochrane Database Syst Rev. 2009.
60歳以上の高血圧患者に対して1年以上の期間で介入しているRCTを対象に分析。治療は総死亡を減らし(RR:0.90)、治療は心血管イベントや心血管死を減らす(RR:0.72)。80歳以上においては、心血管イベント・心血管死に関しては同様であったが(RR:0.75)、総死亡は減らさず(RR:1.01)、副作用による治療中止は増加した(RR:1.71)。→総死亡に関しては、60~80歳までに限定される。
★Rosalinde K E Poortvliet et al. J Hypertens. 2013.
271例を対象として、85~90歳の血圧の推移と90歳時の血圧が、5年以上のフォロー(平均3.6年)において総死亡と関連するかを調査した前向きコホート研究。85~90歳の血圧の低下(2.9mmHg/年以上)は90歳時の血圧とは独立して死亡のリスクであった(HR:1.45)。特に施設入所者においては、よりその傾向は強まった。90歳時の血圧150以下は150超える群よりも1.62倍死亡リスクあり(降圧剤や心血管イベントのありなしは関係なし)。→過去5年の血圧の低下と90歳時の血圧は総死亡と関連していた。
- フレイルや認知機能は、血圧コントロールの意義に影響するか?
★Michelle C Odden et al. Arch Intern Med. 2012.
65歳以上の2340例に対して、6mの歩行速度(0.8m/Sをカットオフ)により対象を分け、高血圧と死亡との関連を交絡因子を調整して調査。
歩行早い群は、140以上の血圧と死亡が関連。歩行遅い群は、収縮期血圧も拡張期血圧90以上も死亡と関連しなかった。歩行を完遂できなかった群は、高血圧が有意に死亡減少と関連していた。→歩行速度は高血圧のアウトカムを識別するうえでシンプルな測定項目である。
★Jane Warwick et al. BMC Med. 2015.
前述の2008年のRCTをもとに、フレイルインデックスと高血圧治療の効果の関連を調査。フレイルとの関連を認めなかった。→高血圧があるフレイルの人もそうでない人も治療の効果があった。
★Nicholas M Pajewski et al. J Am Geriatr Soc. 2020.
80歳以上の糖尿病がない高血圧患者1167例を対象として、血圧120未満目指す群と140未満目指す群とに分けたRCT。
120未満目指す群は有意に心血管イベント、死亡を減らしたが、腎機能悪化は増加した。歩行速度は結果に関係なかったが、認知機能が低い群には効果がなかった。→認知機能が低い場合には、厳格な血圧コントロールは利益は少ないかもしれない。
★Athanase Benetos et al. JAMA Intern Med. 2015.
フランスとイタリアでおこなわれた80歳以上で施設入所中の1127人を対象としたコホート研究。収縮期血圧が130未満かどうか、降圧薬を2種類以上服用しているかどうかで分類。
2年後までフォローして、死亡がアウトカム。SBP<130かつ降圧薬を2種類以上服用群が、有意に死亡と関連していた(HR 1.78; 1.34-2.37)。
★James P Sheppard et al. JAMA. 2020.
血圧150未満で少なくとも2剤の降圧剤を内服している80歳以上のPCセッティングの患者569例を対象としたRCT。介入群は1剤減量し、12週後の血圧をアウトカム。
12週時点で150mmHg未満だった割合は、通常ケア群87.7%に対して、減薬群は86.4%で、補正後RRは0.98(97で、減薬群の非劣性が確認された。
まとめ
- 血圧のコントロールは、超高齢者においても心血管イベントや心血管死を低下させるが、総死亡は低下させない可能性が高い。
コントロールしても、治療目標は150/90くらいが目安か。特に85歳以上では血圧が下がらないようにする方がよいであろう。
- 特に認知機能低下がある場合には、利益は少ないか。フレイルに関してはなんとも言えない。
- 血圧が高くなければ、積極的に減量を行っていってもよいかもしれない。(特に、施設入所者でSBP130未満で2剤以上内服していれば)
今回調べてみて、やはり患者さんそれぞれ個別に考えていく必要を感じました。