東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

患者さんや家族に見立てを話すことについて~予後予測について~(カンファレンスの内容)

2015-04-30 21:48:11 | カンファレンスの話題
 患者さんやご家族に病状の見立てを話すことは、在宅に限らず重要なことと思いますが、在宅においては、介護者である家族にとって、どれくらい介護をがんばればよいのか、介護休暇をとるならどのようなタイミングでとればよいのかななどの判断の根拠となる場合もあり、貴重な情報提供としての側面もあります。しかし、患者さんの予後を予測することは必ずしも簡単ではありません。特に、日単位や1~2週の短期の予後予測は困難です。以前、予後予測についてまとめたので、のせてみます。

★日単位の予後予測は困難か?
①GlareらのSys Rev(BMJ 2003)
医師は予後を長く見積もっていた(中央値42日vs29日)
予後1週間以内に関しては、25%しか予測できていなかった。
②Gippらの報告(J Clin Oncol 2007)
予後1か月以内に関しては、71~96%で長く見積もっていた。
(3人の医師が予後予測)

⇒短い予後は予測が困難なよう
ちなみに、緩和ケア病棟セッティングではありますが、医師は24時間以内の死を約10%の症例で予測できておらず、臨死期の症状がより少ないとその傾向が有意に高まると報告されています(Bruera,S et al, 2014, J Pain Symptom Manage)。臨死期の症状がない場合には、死亡直前であってもそれを予測することは容易ではないと思われます。


★家族の予後認識はどうなのか?
佐藤らの報告(死の臨床 2013):家族は主治医より有意に長く、予後を認識していた。(主治医は実際より有意に長く予後を予測していた)
⇒医師以上に予後認識困難(長いと認識)

★日単位の予後予測ツールはあるのか?
①Chiangらの報告(BMC Public Health 2009)
多変量解析で意識障害・浮腫・ECOG・BUN・呼吸数が有意差あり⇒ただし、計算式は非常に煩雑で実用性乏しい
また、感度70~80%、特異度60%程度
②Gwilliamらの報告(BMJ 2011)
2週未満(2か月未満も)の予後予測ツールを作った
PiPS prognosticatorに打ち込む 結構項目多く大変(少なくとも在宅では実用性乏しいか・・・)

⇒まだまだ日単位の予後予測ツールは不十分なのが現状

最近、Objective Palliative Prognostic Score(OPPS)という1週間以内の予後予測ツールも発表されましたが、採血での項目が多く、在宅やターミナルの人への汎用性は必ずしも高くないかと・・・(ターミナルの人にそんなに頻回に採血しないですよね・・・在宅ならなおさらかと)。感度は70%いかずですが、特異度は80%後半とそれなりに高いようです。

★緩和ケア病棟のセッティングでは有名なPalliative Prognostic Index(PPI)は、在宅セッティングではどうか?
在宅がん終末期患者においては感度60%、特異度70.6%であり、在宅セッティングにおいては有用性が低いことが報告されている。
(Am J Hosp Palliat Care 2014)



ということで、短期の予後予測ツールはなかなか有用なものが少ないかと思いますし、特に在宅セッティングにおいては、その傾向が強いかなと思います。
そのような不確実なものであることを家族とも共有しつつではありますが、そのような中でも、家族の様々な準備・心づもりという観点から、医師として「見立て」を伝えることは重要なことと思いますし、1つの大事な仕事と思っています。

レントゲン陰性だが、大腿骨近位部骨折が疑われる時どうするか?(朝の勉強会)

2015-04-28 20:59:35 | 勉強会
 今日の朝の勉強会は、「レントゲン陰性だが、大腿骨近位部骨折が疑われる時どうするか?」という内容で行いました。在宅・施設などで転倒してしまい、大腿骨近位部骨折の可能性なども疑われる場合には、当院に来てもらい、レントゲンをとることがしばしばあります。最近もやはりありました。最初のレントゲンが陰性ではあるが、骨折も否定できないような状況の場合には次のステップとしてどうするかは悩ましいこともあります。特に当院では整形外科は週1回の非常勤なので、緊急の場合には他院へ紹介することとなるため、整形外科医へのコンサルトやリファーの閾値も多少高いものとなります。ということで、このテーマです。以下、概要を書きます。ちなみに、前提として、早期の診断が、予後に影響するということがあります。

★レントゲン
Pathak Gらの報告(Injury 1997):レントゲンに基づいた場合、10~15%が診断が遅れたり、見逃されたりする。

★身体診察(BMC Musculoskeletal Disorders 2013のSys Revから)
①Shin et al.1996:Pain on Log Roll Test  
対象:レントゲンで陰性  Reference standard:6週間のレントゲンフォロー  
感度100%(13/13)  特異度33%(2/6)
②Tiru et al.2002:Patellar-Pubic Percussion test
対象:レントゲンで陰性
Reference standard:レントゲン繰り返し、骨シンチ、CTもしくはMRI
感度96%(245/255)   特異度86%(30/35)

★レントゲン陰性だが、大腿骨近位部骨折が疑わしい場合、CTとMRIはどちらがよい?
①HA ChathaらのSys Rev(Journal of Orthopaedic Surgery 2011)
 MRIがCTや骨シンチよりも、レントゲン陰性の大腿骨近位部骨折の早期診断において優れている。
②Hakkarinen DKらの報告(J Emerg Med 2012)
大腿骨近位部骨折と診断された235例のうち、24例がレントゲン陰性であった。18例(7.6%)がCTで診断( MRI なし)。4例がCTで陰性であったがMRIで陽性。(残り2例はMRIのみとCT ・MRIの両方で診断)
③Dunker Dらの報告(Emerg Radiol 2012)
 24h以内のレントゲンが陰性であった患者でCTとった193例を後ろ向きに検討。フォローCT陰性84例のうち、フォローアップで手術が必要となったのは2例→手術が必要な骨折はほぼ除外できのではないかと。

★レントゲン・CT・MRIは読む人によって違いある?
Collin Dらの報告(Acta Radiol 2011):レントゲン陰性だが大腿骨頚部骨折が疑われた375例を対象に3人の医師の診断の一致率を調査⇒CT・MRIは高い一致率であった(Kappa値:0.85-0.97と0.93-0.97) ちなみにレントゲンは経験による影響あり。


 早期診断という意味では、レントゲンは必ずしもあてにならないのかなと。そのようなときに、Patellar-Pubic Percussion test(恥骨に聴診器をおき、膝をたたいて音が聞こえるかを両下肢で判断。骨折あるとそちら側の下肢は聞こえない。)は参考になるかもしれませんね。より疑わしければMRIですが、なかなか閾値高いですよね。Dunker Dらの報告を考えると、CTも手術必要な骨折を見逃さないという意味ではよいのかもしれません。診断をつけることではなく、患者アウトカムにつながる検査かどうかの視点は重要と思います。実際、大腿骨近位部骨折の診断でCTが使われることは増えているというデータもありました。
しかし、結局のところ、正直、私たちの臨床ではどこまでやって、整形外科に紹介するのかは悩ましい部分があります・・・。


第17回日本在宅医学会に行ってきました!

2015-04-26 22:01:17 | 学会活動
今週末は、第17回日本在宅医学会に行ってきました。場所は盛岡です。盛岡市内からは雪がまだ残っている雄大な岩手山が見えました。
当科からは、以下のような演題で発表を行いました。

今永:「在宅がん終末期患者において、コルチコステロイド投与による経口摂取量の改善の有無は予後予測に有用である」(1P-160)
   「臨死期であることの判断を困難にしている点は何か?~訪問医の視点から~」(1P-109)
外山:「在宅がん患者終末期患者の療養室設定の関する因子についての検討」(1P-5)
新森(現・北里大学):「在宅患者へ吸引を行うカテーテルを複数回使用から単回使用へ変更すると、家族の“カテーテルが清潔か否かの不安感”は減るが、“カテーテルを廃棄する負担感”が生じる」(1P-35) (新森先生が東埼玉在籍中に行った研究の発表です)

外山先生は、一級建築士のキャリアがあり、そのような視点から研究を続けています。今後にさらに期待です!
それぞれの研究の抄録は第17回日本在宅医学会のホームページから見られるので興味のある方はぜひみてください。探しやすいように、演題の番号を、上記の演題名のあとに入れておきますね。(http://www.mhcclinic.jp/zt/syouroku.html)

写真は、外山先生の発表風景です!


在宅での「くすり」の話し

2015-04-21 19:42:58 | カンファレンスの話題
 今日は4月中旬から来ている後期研修医と一緒に訪問診療を回りました。そのなかで、在宅での「くすり」のはなしが出ました。
 在宅医療をはじめた当初、患者さんが思っていた以上にくすりを飲んでいないことにびっくりした記憶があります。前医からもらっていた塗り薬を紙袋いっぱいもっているのを発見したことも・・・。本人は、「お医者さんにいらないっていうのが申し訳なくて・・・」と。
 その後、在宅において、服薬アドヒアランスを評価し、介入することの必要性を感じるようになり、臨床では適宜行っています。やっぱり、感じるのは多職種での介入が重要であること。特に独居や介護者不在の状況であれば、訪問薬剤師さんや訪問看護師さん、ヘルパーさん、ケアマネさんたちと協働しながら介入していくのが効果的だなと実感しています。今日も、ある患者さんで、以前、訪問看護師さんとヘルパーさんに介入をお願いし、現在もよい薬剤アドヒアランスが保たれているのを確認しました。
 家族の協力も大切ですよね。認知機能の低下があっても、「くすりは自分で管理したい」という人は多く、それを医療者が何の配慮もなく、専門職やご家族にゆだねてしまうのはよくないことかなと思います。そのような際に、「家族のちょっとした見守り」で服薬アドヒアランスが良好になることもしばしば経験します。反面、以前、くすりの管理をご家族に全面的にお願いして、その方の認知機能がそれを機に急激に低下してしまったことも経験しました(どこまで関連したのかの根拠はありませんが・・・)。
 あとは、何より、不必要なくすりはやめ、できるだけ処方を単純化(もし可能なら1日1回に)することが大事かなと思います。

 以下は、以前に、薬剤アドヒアランスについてまとめたものです。参考に載せさせていただきます。

★薬剤アドヒアランスが低いことの弊害
Sheila A. Doggrellら(Drug Aging 2010)
 入院率の上昇:65歳以上の入院患者の11%、75歳以上の入院患者の26%が内服不良が原因

★アドヒアランス不良の要因
Osterberg L, Blaschke T. Adherence to medication. N Engl J Med. Aug 4 2005;353(5):487-497..Table 2より抜粋 一部改変
①患者本人の要因:
 ・認知機能の低下 ・精神疾患や抑うつによる拒薬 
 ・病識に乏しい ・自覚症状がない ・副作用の出現
 ・巧緻運動障害や嚥下障害による内服困難 
②医療者の要因
 ・内服薬の数が多く、用法が複雑 ・不十分な説明 
 ・医師-患者間の関係性が不良 ・不十分なフォロー
③社会的要因
  ・介護者不在 ・経済的負担 ・薬局までのアクセス不良

★(アドヒアランス向上のための)具体的な介入方法
NIH Public access Geriatrics. Author manuscript: available in PMC 2013 January 11.Table 4 より抜粋 一部改変
①認知機能が低下している患者への介入
 ・ピルボックスの利用 ・一包化 ・日常行為との関連付け
②病気や薬剤への理解が乏しい患者への介入
 ・口頭や書面での丁寧な説明 ・薬袋への用法の記載
③独居やケア提供者不在の患者への介入
 ・家族に内服介助の協力依頼 
 ・訪問看護や訪問薬剤師等の他職種との連携
④薬の内服方法が煩雑
 ・内服数の減量 ・用法の単純化



カンファレンスの内容(セフトリアキソンの皮下注について)

2015-04-19 21:50:28 | 勉強会
 先日のカンファレンスで、後期研修医と会話をしていて、抗菌薬の皮下注のはなしが出たので、それについて少し紹介したいと思います。
在宅においては、皮下輸液は通常の経静脈的な輸液と比較して行いやすく、一般的にもよく行われています。患者さんや家族の希望(できるだけ入院せずに在宅で過ごしたい)や入院のデメリットが強い場合(入院するとADLが低下しそう・せん妄が起こりそう・抑制が必要になりそう)には、在宅で抗菌薬を使用して、肺炎や尿路感染症などの感染症を乗り切ることがあります。だいたい、1日1回でよいという点でセフトリアキソンを使用することが多いです。そのようなときに、皮下注で抗菌薬投与を行う医療機関もあるのを聞きました。確かに、輸液は、点滴が抜けちゃったときや、家族が抜きやすいという意味で皮下輸液を使用することも多いですし、抗菌薬だけ別に投与するのは患者さんに2回(以上)針をさして痛い思いをさせることになります。また、実務的に時間的な短縮という意味でもそれで効果がかわりないのであればよいのかもしれません。その根拠はなにかあるのかなと思い、以前少ししらべたことがあります。以下に内容を記します。


<セフトリアキソンは皮下点滴でもよいか>

★臨床的アウトカムを検討した研究なし
 薬物動態を検討した研究のみ
★Bornerら(Chemotherapy 1985)
10人の健康なボランティアに、CTRX2gIV後、0.5g皮下注(SC)群と0.5g静注(IV)群に分けて(クロスオーバー)、半減期・分布容積・AUCを測定⇒SC群とIV群で違いなし
★Bricaireら(Pathol Biol)
8人の健康なボランティアに、1~3Day:IV 4~6Day:SC(CTRX2g)
IVとSCで血中濃度は同様
★Harbら(Curr Med Res Opin 2010)
30人の健康なボランティアに、SC・ヒアルロニダーゼ含有群とSC・プラセボ群とIV群の3群に分けてCTRX1g投与⇒CmaxとTmaxは、IV群、 SC・ヒアルロニダーゼ含有群、SC・プラセボ群の順に高かった。
しかし、AUCは3群で変わらず。

薬物動態という観点からは、皮下注でもよさそう
(ElieteらのReiewでも同様の見解:3つの論文+Fraの論文)

★副作用は?
(上記レビューの記載より)
局所の皮膚所見のみだが、2g投与はより重篤?


 これらの結果を考えると、状況下によっては、経静脈的な投与が難しい場合や負担が生じる場合には、セフトリアキソンの皮下点滴は許容されるのかなと感じました。