施設などから転倒して頭を打った方がいるという連絡があり、すぐ受診していただきCTをとるか迷うこともあります。施設の方は高齢者であるため、Canadian Ruleなどに準じると、全員とることにはなります。それが正しいのかもしれませんし、実際には医学的な面以外にも管理的な面や希望なども考慮するので、来ていただくことも多いです。しかし、全例かというとそういうわけでもありません。医学的な判断自体も自分自身あいまいな部分があり、一般的にもCanadian Ruleなどのツールが高齢者においては限界があることは一般的に言われてもいます(先に述べたように年齢の基準で全例となってしまうため)。1つには抗凝固療法・抗血小板療法を行っているかは確認しますし、その場合には来ていただくことが多いため、今回、頭部外傷と抗凝固療法・抗血小板療法について調べてみました。
<頭部外傷と抗凝固療法・抗血小板療法>
•抗凝固療法・抗血小板療法は頭部外傷後の予後を悪くするのか?
★Batchelorらのメタ分析(Br J Neurosurg 2012)
11論文が基準に合致⇒抗凝固療法を行っていると死亡率上がる(OR:2.0)
★Claudiaらの報告(J Trauma 2011)
minor head injuryで救急を受診した1410例を対象に後ろ向きに調査
⇒75例(5.2%)がワーファリン内服、そのうち12例がICH+(有意にICH↑)
PT-INR:2.4をカットオフとすると感度92%・特異度66%(2.4以上は特に注意?)
★ Batchelorらのメタ分析(Br J Neurosurg 2013)
アスピリンで4論文・クロピドグレルで4論文が基準に合致⇒抗血小板療法を行っていると死亡率がわずかに上がるが、統計学的に有意差なし。ただし、質の低い論文中止であり、さらなる研究が必要と結論。
やはり抗凝固はリスクとなりそうだが、抗血小板は?という感じか・・・
•高齢者を対象とした研究ではどうなのか?
★Gangavatiらの報告(J Am Geriatr Soc 2009)
救急受診した転倒高齢者(focal finding-・65歳以上)で頭部CT撮影した404例を対象とした後ろ向き研究⇒47例(11.6%)にICHあり。多変量解析で、ワーファリン内服・抗血小板内服は関連なし。施設より在宅の方がリスク(OR:3.2)、頭部外傷ありはリスク(OR:3.9)。
★Collinsらの報告(Am J Surg 2014)
頭部外傷患者1万人を対象。多変量解析で、ワーファリン内服はICHのリスク↑(OR:1.4)。30日以内の死亡率↑(OR:2.0)
★Grandhiらの報告(J Trauma Acute Care Surg 2015)
頭部外傷で受診した65歳以上の患者1552例を対象とした後ろ向き研究⇒543例がアスピリンのみ、97例がクロピドグレルのみ、218例がワーファリンのみ、193例がアスピリン+クロピドグレル、501例が抗血栓薬内服なし。ワーファリンは死亡率・手術介入の必要性と関連あったが、抗血小板薬はなかった。
高齢者に限るとまだ不明な部分も多いが、抗凝固はやはり注意か・・・
•抗凝固療法を行っている患者ではCT再検する必要ある?
(抗凝固療法を行っている患者の頭部外傷は、遅発性のICHがおこるのではないかと言われており、話題になっているようです)
Miller Jらのシステマティック・レビュー(J Trauma Acute Care Surg 2015)
5論文が基準に合致⇒ minor head injuryで受診したワーファリン内服中患者1257例が対象。遅発性のICHは、5.8~72per1000casesと低く、有意なものではなかった。PT-INRの値とも関連がなかった。
抗凝固療法を行っている方の頭部外傷はやはりCTとりに来てもらったほうがいいなと思いました。抗血小板剤ははっきりしたエビデンスはないようです。でも、やっぱり不安だからとりにきてもらっちゃうかなあ。実際はどんな状況で転倒したのか、頭部外傷の程度はどんなものか、などいろいろ聞いて総合的に判断しますよね。しかし、施設入所者などの虚弱高齢者を対象として、そのようなことを検証した研究は調べた感じではなさそうでした。上記の研究もほとんどは救急外来や外傷センターをセッティングとした研究でした。