東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

病棟Nsとの勉強会~せん妄について~

2015-11-25 21:15:17 | 勉強会

 今日は病棟看護師さんたちとの勉強会がありました。お題は「せん妄と認知症」なのですが、せん妄でレクチャーした要点についてのせたいと思います。以下の概要を事例やQ&Aを交えながら行いました。

★せん妄とは?

急性に発症し(通常数時間から数日)、意識・注意・知覚の障害が出現し、日内変動を示す精神症候群。

★どれくらいの患者に起こるのか?

内科患者の10~30%

末期がん患者の30~50%

 (最後の数日は80%以上)

★せん妄の分類(過活動性せん妄と低活動性せん妄についての説明を表で行った)

★せん妄の対処法(くすりは有効か?)

眠剤はせん妄をむしろ悪化させる。

抗精神病薬(セレネース・リスパダール・セロクエルなど)も、むしろ予後を悪化させる。

(過活動性せん妄を低活動性せん妄にすることはできるが・・・)

身体抑制により、せん妄のリスクはむしろ増す。

 薬・抑制とも、当然、実務上必要なことはあるが・・・害も大きい以上、慎重に行うことが必要

非薬物療法が基本!
 
★せん妄の予防にあたって(素因と誘因)
①素因
認知症(2.3~4.7倍)  機能障害(4.0倍) 視力障害(2.1~3.5倍) アルコール多飲(5.7倍) 75歳以上(4.0倍)
②誘因 
眠剤(4.5倍) 抑制(3.2~4.4倍)  膀胱留置カテ(2.4倍)
 
★せん妄に対する予防的介入
①素因からリスクを評価し、誘因をできるだけなくす。

           (不必要な管・薬は使わない)

②そのうえでリスクが高い人には予防的介入。
③予防的介入(病院でせん妄を予防するコツ)
1.眼鏡・補聴器・義歯を病院に持ってきてもらう。
2.患者さんのお気に入りを病院に持ってきてもらう。(写真・毛布・本など)
3.患者さんに指示を出す際は1つにする。(過剰刺激しないように)
4.患者によってはマッサージは落ち着かせるのに有効。
 
★せん妄におけるピットフォール:身体不調によるせん妄を見逃さない!
 
せん妄を起こす身体状況 
  低血糖 低酸素血症  CO2ナルコーシス 感染症(特に敗血症) 脱水 便秘

基礎疾患や経過・バイタルサインが重要

★まとめ

せん妄には低活動性せん妄もある。

薬剤・身体抑制が、せん妄の誘因となったり、悪化につながることもある。

非薬物的な介入が第1選択である。

身体不調によるせん妄を見逃さないように、気を付ける必要がある。
 
 
 
 このお題は看護師さんたちからのリクエストなのですが、高齢者が多く入院する病棟ですのでその中で困ったり、大変な部分なんだろうなあと感じながら資料も作りました。資料作りながら・・・難しいなと思いました。というのも、どうしても一般論になってしまうからです。非薬物療法が前提であり、抑制なんてもってのほかというのは看護師さんたちも頭ではわかっていても、実際に病棟でせん妄が起こった際の対処というのはすごく大変なのだろうなと思います。そのようななかででは実際にどうやるか・・・というのが重要だよなと思いました。今回のレクチャー内容は、前提の確認という意味ではよいのかもしれませんが、「実際にどうするか」という意味では実践に生きる内容ではまったくなかったと思います。内容についても反省ですね・・・。30分という時間でしたので今回は難しいですが、「実際にどうするか」というのをシナリオベースでグループワークしたりするほうが、実践に少しは生きるのかなと思いました。
 

今年度4回目の在宅医療連携推進協議会

2015-11-25 20:49:03 | 在宅医療連携推進事業

 

 昨日は今年度4回目の在宅医療連携推進協議会がありました。今回は救急隊の方に来ていただきました。

前半は、蓮田市消防署救急救命士主幹の斉藤様に「救急隊からみた在宅医療の現状と課題」というタイトルで講演していただき、後半は「この地域における在宅医療・介護と救急隊との連携についての課題を話し合おう」というテーマでいつも通りグループワークを行いました。グループワークには各班に救急隊の方も参加いただき、白熱したディスカッションが繰り広げられました。それぞれの職種が実際の現場で体験している救急搬送に関するエピソードを話しながら何が課題なのかを議論していただきました。

今後、虚弱高齢者・独居や老々介護の高齢者が増加するなか非常に重要なテーマでもあり、当然今回でなにか結論が出るものではありませんが、1つのとっかかりにはなったのかなと感じています。今後これを機会に、協議会や事業のなかでさらに救急隊との連携を行っていき、さらに議論を深めていきたいなと感じました。

個人的には、前々回の民生委員さんや今回の救急隊との連携など、地域全体で在宅医療・介護の体制作りを今後すすめていければという気持ちを感じています。

 


H27年度 蓮田市在宅医療推進フォーラム

2015-11-15 17:54:17 | 在宅医療連携推進事業

 

   写真は開始前のようすです。

 今日は、今年度の蓮田市在宅医療推進フォーラムがありました。市民の方向けに、在宅医療・介護の啓発を行うことを目的に市が中心となって行っています。今回で3回目になります。今年は1部で「認知症」・「家での看取り(がん)」の2つのテーマをもとに、各専門職と患者さんの家族がQ&A方式で発表を行っていきました。2部ではジャズシンガーの綾戸智恵さんの講演がありました。

 1部では、今永がコーディネーターという形で司会進行などをさせていただきました。2つとも重いテーマでもありましたし、短い時間のなかでしたが、少しでも市民の方々にとって、認知症の方の在宅療養・介護、看取りのイメージなどが広がればよかったなあと思います。

 2部は、綾戸智恵さんのトークがすごく面白く、あっという間の1時間でした。そのなかでも、「いのち」や「親を介護すること」に対する綾戸さんの哲学を感じましたし、共感しました。エイジズムに関連するようなお話しもしていて、すごく興味深かったです。

600名以上の参加者があり、このような機会は在宅医療・介護のことについて市民の方に知っていただく非常に貴重な場であると感じました。


頭部外傷と抗凝固療法・抗血小板療法

2015-11-10 21:17:23 | 勉強会

 施設などから転倒して頭を打った方がいるという連絡があり、すぐ受診していただきCTをとるか迷うこともあります。施設の方は高齢者であるため、Canadian Ruleなどに準じると、全員とることにはなります。それが正しいのかもしれませんし、実際には医学的な面以外にも管理的な面や希望なども考慮するので、来ていただくことも多いです。しかし、全例かというとそういうわけでもありません。医学的な判断自体も自分自身あいまいな部分があり、一般的にもCanadian Ruleなどのツールが高齢者においては限界があることは一般的に言われてもいます(先に述べたように年齢の基準で全例となってしまうため)。1つには抗凝固療法・抗血小板療法を行っているかは確認しますし、その場合には来ていただくことが多いため、今回、頭部外傷と抗凝固療法・抗血小板療法について調べてみました。

 

<頭部外傷と抗凝固療法・抗血小板療法>

•抗凝固療法・抗血小板療法は頭部外傷後の予後を悪くするのか?

★Batchelorらのメタ分析(Br J Neurosurg 2012)

11論文が基準に合致⇒抗凝固療法を行っていると死亡率上がる(OR:2.0)

★Claudiaらの報告(J Trauma 2011)

minor head injuryで救急を受診した1410例を対象に後ろ向きに調査

⇒75例(5.2%)がワーファリン内服、そのうち12例がICH+(有意にICH↑)

PT-INR:2.4をカットオフとすると感度92%・特異度66%(2.4以上は特に注意?)

★ Batchelorらのメタ分析(Br J Neurosurg 2013)

アスピリンで4論文・クロピドグレルで4論文が基準に合致⇒抗血小板療法を行っていると死亡率がわずかに上がるが、統計学的に有意差なし。ただし、質の低い論文中止であり、さらなる研究が必要と結論。

  やはり抗凝固はリスクとなりそうだが、抗血小板は?という感じか・・・

 

•高齢者を対象とした研究ではどうなのか?

★Gangavatiらの報告(J Am Geriatr Soc 2009)

救急受診した転倒高齢者(focal finding-・65歳以上)で頭部CT撮影した404例を対象とした後ろ向き研究⇒47例(11.6%)にICHあり。多変量解析で、ワーファリン内服・抗血小板内服は関連なし。施設より在宅の方がリスク(OR:3.2)、頭部外傷ありはリスク(OR:3.9)。

★Collinsらの報告(Am J Surg 2014)

頭部外傷患者1万人を対象。多変量解析で、ワーファリン内服はICHのリスク↑(OR:1.4)。30日以内の死亡率↑(OR:2.0)

★Grandhiらの報告(J Trauma Acute Care Surg 2015)

頭部外傷で受診した65歳以上の患者1552例を対象とした後ろ向き研究⇒543例がアスピリンのみ、97例がクロピドグレルのみ、218例がワーファリンのみ、193例がアスピリン+クロピドグレル、501例が抗血栓薬内服なし。ワーファリンは死亡率・手術介入の必要性と関連あったが、抗血小板薬はなかった。

  高齢者に限るとまだ不明な部分も多いが、抗凝固はやはり注意か・・・

 

•抗凝固療法を行っている患者ではCT再検する必要ある?
(抗凝固療法を行っている患者の頭部外傷は、遅発性のICHがおこるのではないかと言われており、話題になっているようです)

Miller Jらのシステマティック・レビュー(J Trauma Acute Care Surg 2015)

5論文が基準に合致⇒ minor head injuryで受診したワーファリン内服中患者1257例が対象。遅発性のICHは、5.8~72per1000casesと低く、有意なものではなかった。PT-INRの値とも関連がなかった。

 

 抗凝固療法を行っている方の頭部外傷はやはりCTとりに来てもらったほうがいいなと思いました。抗血小板剤ははっきりしたエビデンスはないようです。でも、やっぱり不安だからとりにきてもらっちゃうかなあ。実際はどんな状況で転倒したのか、頭部外傷の程度はどんなものか、などいろいろ聞いて総合的に判断しますよね。しかし、施設入所者などの虚弱高齢者を対象として、そのようなことを検証した研究は調べた感じではなさそうでした。上記の研究もほとんどは救急外来や外傷センターをセッティングとした研究でした。

 


大腿骨頸部骨折を受傷した虚弱高齢者の手術の効果について

2015-11-03 22:19:21 | 勉強会

 施設や在宅では、虚弱な高齢者の方が多く、転倒による大腿骨頸部骨折を起こす方もしばしばいらっしゃいます。転倒予防に関しては日々意識はしていますが十分に介入できずに、そのような事態となる方もやはりいらっしゃいます。そのようななか、整形外科にコンサルトすることも多いですが、時に手術適応とならない方もいらっしゃいます。これは地域のリソースや各整形外科医の考え方や経験にもよるのかなとは思います。もとのADLや認知症の有無、手術のリスクなど総合的にみての判断になるのかなと感じています。時には、もとのADLが低い方で手術のリスクが高すぎる方は疼痛の程度によっては整形外科に紹介しないこともあります(手術のメリットが少ない場合には受診自体が負担となることもあるかと思います)。今回はそんななか、外山先生が勉強会で大腿骨頸部骨折を受傷した虚弱高齢者の手術の効果について調べてくれました。

 

<大腿骨頸部骨折を受傷した虚弱高齢者の手術の効果について>

•日本整形外科学会「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン(2011)」によると
–非転位型骨折の保存的治療は「偽関節発生率が高いので、全身状態が手術治療に耐えうる症例に保存的治療は行わないほうが良い」(Grade  Id)・・・保存的療法に関してはそれ以外の推奨なし
–手術後の歩行能力回復に影響する因子:「年齢、受傷前の歩行能力、認知機能」
•保存的治療か、手術治療か?
–Cochrane(Handoll 2008):両者のアウトカムの違いを示すエビデンスは乏しいと結論。
–手術群では偽関節形成なくなるが、合併症、死亡率、疼痛(長期)に有意差なし。(N=23 ,Hansen 1994)
–コスト:保存 53970点、CHS 103220点、THA 178198点(1M入院で試算、吉田2004)
•手術するとしたらいつか?
–日本整形外科学会ガイドライン→「できるだけ早く」(Grade B)・・・近年の傾向
–入院後24-48Hと96-120Hでは死亡率は変わらないが、後者は有意に褥瘡リスク高(OR2.2)。120H超えると死亡率も高くなる(レトロ、N=8383、Vidan 2011)
–入院後48H以降の手術→30日後と1年後の死亡率有意に上昇(OR1.41・1.32)(メタアナリシス、N=257367、Shiga 2008 )
•保存的治療の予後
–170人の嵌入骨折を前向きフォロー→86%で骨癒合(Raaymakers 1991)
–歩行能再獲得率:95.5%(平均23ヵ月、岡村2006)、37.5%(平均15ヵ月、寺井2003)、16.7%(24ヵ月、山形2004)、0%(平均17ヵ月、秋元2006)・・・報告者によって差が大。患者選択に加え、リハビリの経過も大きく影響か?
•手術治療の予後(歩行能再獲得率)→認知症の有無は大きく影響
–認知症なし71%、あり36%(有意差あり)(藤井2006)
–認知症なしで80歳未満76.4%・80歳以上54.7%(有意差あり)、認知症ありで80歳未満13.3%・80歳以上11.8%(有意差なし)(成田2003)
 
 
 基本的には、一般的にも言われているように、「できるだけ早い段階で手術を行う」というのが原則なのかとは思います。ただし、明確なエビデンスは必ずしも豊富ではなく、もともとADLが低い方や認知症が高度な方に関しては手術のリスクも考慮した個別化が必要となるのかもしれません。基本的には整形外科にコンサルトするのがよいとは思いますが、様々な理由で受診へのバリアーがある場合(患者や家族が希望しない・移動手段が容易ではない)には、どれくらい受診をすすめるかは一律的なものではないのかなと再認識しました。特に、もともとADLが低い方や認知症が高度な方に関しては、手術による疼痛の緩和という観点が1つのアウトカムとなると思いますが、これらに対しては明確なものはあまりないようです。
 また、これからくるさらなる高齢社会にあたっては、手術適応にはならなかった大腿骨頸部骨折の高齢患者を、在宅や施設でどのように疼痛管理を行い、合併症(肺炎や褥瘡)の予防を行うか、廃用を最低限にするかなどの課題はプライマリケア医が行う重要な課題の1つなのかなと感じていますし、それらを模索していきたいなと思っています。