東埼玉病院 総合診療科ブログ

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高齢者が食べられなくなったときに~どのように工夫するか、快適な食事とは?~

2019-02-01 20:13:25 | 勉強会
 認知症や老衰の経過で、「食べられなくなること」は避けがたいことであり、患者さんをケアするにあたってしばしば問題となることでもあります。経口摂取量を増やすためにどのような工夫をすればよいのか、患者にとっての快適な食事とは何かについて、少し調べてみました。
 
•どのように工夫するか

★経口栄養補助食品(oral nutritional supplement:ONS)の有用性について

Stange Iらの報告(J Am Med Dir Assoc 2013)

ドイツの6か所のナーシングホーム(NH)入所者のうち、低栄養もしくは低栄養のリスク高い方を対象としたRCT

介入群:2 × 125 mL ONS (600 kcal, 24 g protein)/日

アウトカム:体重, BMI, 上腕と下腿の最大囲, MNA-SF,握力,歩行速度,うつスケール[GDS], 認知機能 [MMSE], ADL[Barthel]),QoL (QUALIDEM)をベースラインと12週後に測定

結果: 77例(78%が認知症、55%が全介助) 介入42例、コントロール35例コンプライアンスは平均73% ( 23.5%-86.5%)

介入群の方が、MNA-SF以外の栄養指標は有意に改善、QOLスコアの一部で有意に改善 

★ ONSのコンプライアンスが栄養状態に影響を与える

Jobse Iらの報告( J Nutr Health Aging 2015)

87例のNH入所者のうち低栄養もしくは低栄養のリスク高い方を対象として、ONSのコンプライアンスが栄養状態に与える影響を検討したRCT

介入群:2 x 125 ml ONS (2.4 kcal/ml)/日 

    低コンプライアンス:30%以下、高コンプライアンス:80%以上

アウトカム:体重, BMI, 上腕と下腿の最大囲, MNA-SF

結果:高コンプライアンス群は、低コンプライアンス群やコントロール群よりも有意に、体重, BMI, 上腕最大囲, MNA-SFの改善を認めた。

(高コンプライアンス群は低栄養や咀嚼の障害の患者が多く、低コンプライアンス群は動けない患者やうつ、胃腸障害の合併がある患者が多かった)

★頻回少量にONSを提供することでより多く摂取できる

234例の低栄養の入院患者を対象としたRCT

ONS (300 kcal and 12 g Protein /125 ml )を3つの異なる方法で提供

コントロール群 食事の間に125ml×2

介入群1 12時と17時に125ml×2

介入群2 8時、12時、17時、20時に62ml×4

アウトカム:75%以上のONS摂取ができている率

結果:コントロール群と比較して、介入群1は有意差なかったが、介入群2は有意に75%以上の摂取率が高かった。(平均して84Kcal/日増加)

 

•快適な食事とは?

Palecekらは、経口摂取が困難となってきた時の1つの選択肢として、Comfort feeding onlyというオーダーを提案

経口摂取の目的を、体重維持のための栄養補給ではなく、「苦痛とならない範囲で本人が楽しめるように」ということにしたもの(J Am Med Dir Assoc 2010)

★介助者の観点から;食べる目的を明確にすることは重要?

小浦らの報告(老年学雑誌 2011)

特別養護老人ホームの介護職を対象とした質的研究

食事介助に関して、命を守るという責任の自覚と入居者にとっての食べることの意味(美味しく食べて欲しい、口から食べて欲しい)との間でジレンマを感じている

その人にとって食べることの意味が大きいと判断した場合には創意工夫などチャレンジ的な態度を、命を守る責任の方が強い場合には無難な対応をするようになるという結果が得られており、創意工夫を行う場合は後ろ盾となる専門職の存在が不安を軽減させることが示唆されている。

 

前半はONSについて書きました。栄養状態改善に寄与しそうであること、ただしコンプライアンスがキーであること、それを高めるには少量頻回に摂取してもらうのがよさそうであることなどがわかりました。後半は、食事の目的として、Comfort feeding onlyという考え方があること、また食事の目的を明確にすることが介助者の心理面やケアへのチャレンジに影響するであろことがわかりました。いずれも、普段の実践では実感していたことでありますが、こうやってあららめて調べてみると、根拠があったりするのだなと思いました。