東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

今年度5回目の在宅医療連携推進協議会

2016-01-31 21:42:05 | 在宅医療連携推進事業

 先週、今年度5回目の在宅医療連携推進協議会が蓮田市役所で行われました。今回のテーマは、ICTツールに関してです。ここ最近広がりを見せているmedical care stationというツールを早々に導入され、医師会として様々な連携を実現されている豊島区医師会理事の土屋淳郎先生をお招きして、「地域包括ケアシステムにおける多職種連携システムの必要性」という題目でご講演をいただきました。

 後半は、「多(他)職種で、よりタイムリーに情報共有したいときはどんな時?」というテーマでグループワークをしました。

現状の連絡ノート・電話・FAXなどの方法では必ずしも満たされない情報共有があると感じていらっしゃる方も多いようでした。土屋先生がおっしゃっていたようにツールがあっても、その前段階として「顔のみえる関係」がないと連携は難しいと思いますが、自画自賛ながら当地域もそろそろICTツールを使う地盤はできてきているのではないかと思っています。といってもまだまだいざ使うとなると障壁もあると思うので、少しずつ希望する機関が参加して試していければよいのでしょうね。

 

 

 


がん患者の感情表出をどのように促すか?

2016-01-27 23:13:46 | 勉強会

 今日の勉強会の内容をのせたいと思います。終末期のがん患者さんとコミュニケーションをとるなかで、感情をどのように表出してもらうか、その雰囲気づくりや声掛けに工夫することを試行錯誤することも多いです。患者さんの本音をいかに引き出すか・・・それは難しい作業でありながら、非常に重要な事柄であると思います。今日はそのような観点から調べた内容について紹介します。

 

<がん患者の感情表出をどのように促すか?>

Back ALらの総説(A cancer journal for clinician2005
NURSEを用いたコミュニケーションスキル(医学書院)」を参考に

 

•感情を表出できるよう誘導するためのスキル(Ask-Tell-Ask

 Ask:患者が病気や自らの問題について最新の理解を説明するように促す。「あなたにとって今最も重要な問題は何ですか?」、「病気や療養について最近知った最新のことは何ですか?」、「医師からどのような説明を受けていますか?」など。

 Tell:医療者から情報提供を行う。(1度に与える情報は3つまで)

 Ask:患者がどのように解釈したかを確認し、患者の理解度を把握する。(患者が繰り返し話す内容や知っておくべきことだが話しには出てこないことなどを観察し、理解度や影響度を把握する)

 

•患者が話しやすいように導くスキル(Tell me more

 ①何が起こっているのか?

 患者が今最も困っていることや解決したいことなどについて整理し、解釈するための質問を行う。「今一番困っていることは何ですか?」、「どのように感じているか話してくれませんか?」

②起こっていることについて自分がどう思っているのか?

 患者が自分自身について起こっていることを理解しようとし、医療者に伝えるためにどう感じているかを表現しようとしている段階。「私たちが話してきたことに関して、何を感じていますか?」→患者自身が自分の感情に気づくように促す。

③これは自分にとって何を意味するのか?

起こっている出来事が自分にとって何を意味するのか。「それはあなたにとってどのような意味がありますか?」→真のニーズに直結する。

 

•Respond to emotion with NURSE:感情への対応方法

Naming:感情へのラベリング(感情を適切に認識したというメッセージ、患者は自分の感情を客観的に捉え、感情に気づく)

Understanding:患者の感情に対して医療者が理解を示す技法(偽りの共感・簡単な共感は適切でない。自分が想像できないものであることを伝えることも有効。)

Respecting:患者の努力や対処能力を称賛する。

Supporting:できる限りの支援・そばにいることなどを表明(しめの言葉にしないよう注意:患者のもとを去る手段としないように)

Exploring: 探索の技法(「今どのようなお気持ちですか?」「どのような意味でおっしゃいましたか?」)。どのような影響を及ぼしているかにも着目。患者中心の面接(患者からの表出がない内容には焦点あていない)

 

 内容としては、経験的に行っている部分も多いのかなと感じました。しかし、それを体系化・整理するのに有用でした。

勉強会で話題になったのは、たとえば「Tell me more」の②くらいまではよくやっているが、③はなかなか踏み込めないよねといったことでした。確かに③は非常に踏み込んだ質問をするので、非言語的なコミュニケーションも含めて、患者さんの様子をうかがいながら行うことが重要だよねという話しになりました。また、「Respond to emotion with NURSE」にSupportingはしめの言葉にしがちではあるよね、気をつけなくてはとの話しも出ました。少し自分たちのコミュニケーションを見直すきっかけにもなったかなと思います。

 個人的に調べていて思ったのは、表出したくない人もいるでしょうし、医師として気になっていても、それを無理に引き出そうとすることが医師の自己満足にならないよう、見極めていくことが重要かなと感じました。「空気をよむ」という言葉は必ずしも好きではありませんが、「踏み込みすぎないこと」も大事なのかなと思っています。タイミングもありますしね。

 

 

 

 


高齢男性とデイサービスなどへの社会活動参加

2016-01-20 20:02:31 | 勉強会

 昨日の勉強会で外山先生が発表してくれた内容をのせたいと思います。訪問診療などを行っていて、高齢男性は女性と比べるとどうしてもデイサービスなど外に出るような介護サービスに消極的な印象があります。介護負担軽減やADL維持などを目的に医療者の立場からデイ導入などをおすすめすることもあります。おすすめするうえで、どのようなきっかけや心理的な背景があるのかを知るは1つのヒントになるかもしれません。

<高齢男性とデイサービスなどへの社会活動参加>

★矢野ら(川崎医療福祉学会誌、2008):老人会などの集団活動参加に積極的な男性16人と消極的な男性8人にインタビューして比較

 積極群:周りからの誘いが多い、人とかかわる職業が多い、多くの人との交流する企画を希望
 消極群:聴力障害、視力障害、疼痛などの症状を有する人が多い、一人作業や自営業が多い、個人や少人数で行える企画を希望
 心理的要因への言及は乏しい

★小野寺ら(東北大医保健学科紀要、2008):介護予防事業と派生したグループ活動に参加している高齢男性4人(平均70.5歳)へのインタビュー。参加のきっかけと継続要因について質的分析

・きっかけ

退職を契機とした自己の課題の明確化:「閉じこもりがちな生活を通じ運動不足を認識」、「自己の身体の大切さを認識」、「地域の人々とのつながりがないことへの気づき」、「地域の一員としての自己の希求」

参加行動を促す外的要因:「自己の課題とその達成手段を同時期に認識する」、「地域の人々とつながる好機が付与される」

・参加継続の要因
事業参加による課題の達成:「運動による成果を実感」、「メンバーとのつながりを実感」
課題達成からのさらなる発展:「健康への知的探求への満足」、「地域の一員としての自己の獲得」
 
男性の課題指向性の強さが参加のきっかけ・継続要因に影響するとの考察
 

松下ら(日本PC連合学会誌、2015):30人の高齢男性へのインタビューを通じて高齢男性の社会的参加(DS,HHなど)に関する心理的背景要因を質的に分析

・内的要因:
 「男性としての性質」:頑固、出不精、会話苦手、強がり、さみしがり、病人扱いは嫌
 「仕事・役割へのこだわり」:仕事が別にある、役割ないとおっくう
 「老いの受容」:体がいうことをきかないと受け入れ変わる
 「趣味の存在」:仕事以外に趣味ない
・外的要因:
 「参加者の割合」:男性の比率、同年代・少人数がいい
 「会合・デイの内容」:内容でいく気変わる、弁当・酒は重要、女性講師
 「アクセスと身体状況」:距離、移動手段、耳が遠い、つまずきやすい
・関係性の要因:
 「家族との関係」:亭主関白、孫や子供の言葉には弱い
 「男性参加者との関係」:仲間で集まりたい、集まる機会が少ない
 「女性参加者との関係」:女性に負けたくない、恥をかきたくない
 「介護・医療スタッフとの関係」:職員の接し方も重要
 「近所との関係」:近所との交流が少ない、
 
(内的要因はなかなか介入は難しいが)外的要因、関係性要因に関しては介入の余地ありと分析
 
 
 今回の勉強会で、ディスカッションとなり、みんなで共有した内容として「デイに行くことが目的にならないようにしよう、あくまで手段」といったところがあります。
「なんのためにデイに行くのか、その先に本人にとってどんなメリットがあるのか」といった観点を忘れないようにしないとなと思います。ついついデイに行ってもらうことが目的になってしまうことがありますが、まず、介護負担軽減を目的とするのか、それとも行くことで患者さんのQOLに(現在もしくは将来)寄与することを目的にするのか、実際に患者さんのQOLに寄与するのか、そのあたりを明確に整理していく必要があるのかなと思います。あたりまえのことですが・・・。

半固形栄養はその他の栄養方法と比べて嘔吐や誤嚥性肺炎予防に有効か?

2016-01-13 19:49:34 | 勉強会

 今日は、先日後期研修医の林先生が朝の勉強会で扱った内容について紹介します。

胃瘻造設している在宅患者が嘔吐したり、誤嚥性肺炎を発症することをしばしば経験するなかで、半固形栄養など形状を調整することの効果について調べてくれました。

<半固形栄養はその他の栄養方法と比べて嘔吐や誤嚥性肺炎予防に有効か?>

P:脳卒中後の寝たきり胃瘻患者

E:標準経管栄養

C:半固形栄養

O:嘔吐の発生率、誤嚥性肺炎の発生率

★二次文献

・ハリソン内科学

嚥下能や咳嗽反射が低下した患者は誤嚥のリスクが高い。予防対策として30°ギャッジアップ、経静脈栄養との併用、Treitz靭帯よりも遠位への栄養投与。

・Uptodate

45度のギャッジアップ推奨

半固形栄養や成分栄養の感染症予防は実証できていない。

meta-analysisにおいて幽門以降に栄養を送る処置やメトクロプラミドやerythromycinの効果は否定的である。

・在宅医療バイブル

液体栄養剤を固形に近づけることで予防できるかもしれない。

★一次文献

①Nishiwaki Sらの報告(Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2009)

論文のPECO

P:誤嚥性肺炎や嘔吐の既往のある胃瘻造設後の患者

E:半固形栄養

C:液状栄養

O:胃食道逆流の改善

方法:胃瘻造設後1ヶ月以上経過している患者に対して、放射ラベル 化した半固形栄養または液状栄養を仰臥位の状態で投与し、150秒ごとに90分間放射線のカウントを行う。gastroesophageal reflux index (GERI)は食道へ逆流した最大カウント数として定義。gastric emptying time (GET)は胃内のカウント数が50%に減衰した時間として定義。
結果:半固形にすると胃食道逆流が有意に減少するが、胃排出速度には変化がなかった。
 
 outcomeは、胃食道逆流の改善であり、嘔吐や肺炎などの臨床に直結するものではないので臨床にあてはめるのは難しいか・・・
 
他に成分栄養についてはどうなのかを調べ、下記の文献にあたる。

②Horiuchi Aらの報告(Am J Gastroenterol 2013)

論文のPECO

P:発熱で入院した寝たきり胃瘻患者

E:成分栄養(N=60)

C:液状栄養(N=67)

O:新規誤嚥性肺炎の発生率

T:非ランダム化割付

結果:成分栄養群は、有意に新規誤嚥性肺炎の発生が少なかった。
 
 
 
 林先生のまとめ:標準液状栄養を行う患者が嘔吐や誤嚥性肺炎を繰り返す場合、その他の形状の栄養に変更することで、それらを予防できるかもしれない。
 
 
 現状では、半固形などにすることの明確な根拠はないようです。経験的には嘔吐や肺炎の頻度が減ることもありますが・・・。
 
 

虚弱高齢者において可逆的な経口摂取不良は?

2016-01-06 18:40:28 | 勉強会

 在宅や施設の患者さんたちの「食べられない」という問題は非常にコモンなプロブレムの1つです。当然、認知症や老衰、がんなど病状の自然経過に伴って食べられなくなっている場合も多いのですが、それ以外に可逆的な原因で経口摂取不良になっている場合もあります。経験的にはいろいろあるのですが、今回はその裏付けも含めて勉強会で調べてみました。

<虚弱高齢者において可逆的な経口摂取不良は?>

•Landiらの報告(J Am Med Dir 2013)

イタリアのナーシングホーム患者1904例が対象。12%に食欲低下や経口摂取不良認めた。多変量解析で、咀嚼の問題・便秘・PPI内服・オピオイド内服・うつ病などが2倍のリスクであった。 

•Mudge AMらの報告(Clint Nutr2011)

65歳以上の入院患者134例が対象(平均年齢80歳)。経口摂取低下に関連する因子として多変量で、がん・感染症の診断、せん妄。

•Engel JHらの報告(J Am Med Dir 2013)

60歳以上の施設入所者292例が対象。うつのスコアと食欲不振のスコアとの関連について調査し、うつと関連あり。

•Lee JSらの報告(J Nutr Elder 2006)

ADLのよい70~79歳の高齢者が2169例が対象。12%に食欲低下。多変量で、視力障害・うつ・喫煙・咀嚼の問題が関連あり。

 

 これらをまとめると、(横断研究が主なので因果関係の解釈は慎重にする必要があるとは思いますが・・・)

 便秘・うつ・薬・せん妄・視力障害・咀嚼の問題などは可逆的となりうるか。(ただし、それらに介入して改善したというような研究はみあたらず)

 これらは普段、自分たちも経口摂取不良の患者さんをみたときにチェックする項目として、よくカンファレンスでも話題になる項目だなと感じました。

•それでは、食形態の調整はどうか?

Nieuwenhuizen WFらのシステマティックレビュー(Clint Nutr2010)

経口摂取を促進する食形態→少ない量・高カロリー・液状のもの

•ポジショニングの調整は?

文献見当たらず・・・探し方の問題?

•環境要因(食べる場所や状況)に関しては?

Pilgrimらのレビュー(Nurs Older People2015)

環境を改善することは重要であるが、食事の際の環境がどのような改善を及ぼすかを検討した研究はない

ただし、上記のNieuwenhuizen WFらのシステマティックレビューで、施設でのテーブルクロス・いい食器の使用、(他者が容易に邪魔しないような)守られた食事の時間は、体重増加や経口摂取量の増加をきたしたという報告はあり。

 

 経験的には、食事の際の環境は、高齢者、特に認知症がある患者さんに関しては重要ななのかなと感じています。経口摂取不良でも、自宅や施設に帰ると摂取量が上がる患者さんは結構多いように感じます。高齢者の「食べられない」という問題は今後さらにコモンプロブレムとなると思うので、ノウハウを蓄積していきたいものです。