東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

慢性爪囲炎について

2016-02-26 22:15:03 | 勉強会
 本日、外山先生が勉強会でやってくれた内容をのせます。爪囲炎は在宅や施設など中心に、しばしば遭遇するプロブレムですが、慢性的な経過をたどるような人も時にいらっしゃいます。先日カンファレンスでそのような方への対処が話題となったのでしらべてくれました。
 
 
<慢性爪囲炎について>
 
•慢性爪囲炎の原因:
–足の陥入爪によるものが最も多い。その他、湿気への暴露、頻繁な軽微外傷(Buttaravoli,Minor Emergencies)。
–ラテックス、食物などアレルギー性機序の関与(Kanerva,2000、Tosti,1992)
–カンジダ感染の関与(Daniel,1996)
 
•慢性爪囲炎の治療:
–抗真菌薬外用
–ステロイド外用の有用性の報告あり(抗真菌薬内服との比較RCT、Tosti,2002)→真菌感染はあくまで二次的現象ではないかと考察
–タクロリムス外用もステロイド外用と同様の効果との報告も(Rigopoulos,2009)→やはりアレルギー?との考察
–軽度の陥入爪がある場合:コットン・デンタルフロスパッキング、温水浸漬(10-20分×3-4回/日)、ステロイド外用。7割はこの保存的治療で済むと(UpToDate)。
–発赤や膿を伴う陥入爪がある場合:局麻下に爪甲切除(UpToDate)
–テーピング、形状記憶合金:UpToDate,MinorEmergency記載なし、医中誌でも他の治療法との比較検討報告なし
 
•Acute-on-chronicの治療(UpToDate、MinorEmergency)
–温水浸漬。蜂巣炎合併の場合、抗菌薬内服。
–膿瘍がある場合、切開排膿(18G)+温水浸漬
–抗菌薬外用・培養についてはcontroversial。UpToDate:外用抗菌薬+/-外用ステロイド、切開排膿した場合は5日間、しない場合7-10日間、可能な限り培養をとる(MRSAを考慮)。MinorEmergency:ルーチンの抗菌薬投与、培養は不要
•おまけ:趾ひょうその起炎菌 黄色ブドウ球菌60%、表皮ブドウ球菌21%。ゲンタシン軟膏は感受性低かったそうだ(松浦,靴の医学2001)
 
 
 まずは、陥入爪など物理的な原因がはっきりしていればそれに対する対処が第1ではあるのでしょう。足浴は結構書いてあるんですね。慢性爪囲炎に対して今まであまり意識して指導していませんでした。経験的に感染を伴わない慢性爪囲炎に対してステロイド外用は時に使っていましたが、まずまずの根拠はありそうでした。真偽は現時点では不明そうですが、アレルギーや真菌感染の関与も多少言われているのは意外でした。急性増悪時(感染時)の対処での、抗菌薬外用や培養はやはりcontroversialなんですね。
 

茨城町介護支援専門員研究会での講演 「老衰とは何か?」

2016-02-21 11:54:58 | 講演・著書など

 先日2/17に茨城町の介護支援専門員研究会に呼んでいただき、「老衰とは何か?」というテーマで今永が講演させていただきました。茨城の診療所に勤務していたときにお世話になったケアマネさんがお声をかけてくださったのですが、4年前に引き続き2回目になります。(4年前は違うテーマでやっています)。貴重な機会をいただき、ありがたい限りです。

 このテーマは、今永が以前から細々と「老衰」について調べたり研究したりしており、それらについて話してほしいとのご依頼をいただき、話しをさせていただきました。当日はケアマネさん以外にも介護士さんや看護師さんなどにもご参加いただき、70名ほどの方にお話をさせていただきました。特になにか結論がでるはなしではなく、ぼやけた内容ではありましたが、曖昧な老衰の臨床に対してどのように考えていけばよいかのヒントに少しでもなればよかったなと思っております。


施設入所中の糖尿病患者では、血糖コントロールはどれくらいを目標にするのが適切か?

2016-02-12 21:24:44 | 勉強会

 先日の勉強会の内容をアップします。

American Geriatric Societyのガイドラインなどでも、高齢者の血糖コントロールの目標は7.5~8%が目安となっていますが、施設入所者においてはどれくらいを目標とするのが適切なのかはガイドラインなどではあまり記されていないため、少し調べてみました。当然個別化が重要かとは思いますが、集団としてどのようなエビデンスがあるのか・・・?。
 

<施設入所中の糖尿病患者では、血糖コントロールはどれくらいを目標にするのが適切か?>

•Garciaらのシステマティック・レビュー(Diabetes Edu 2011)

どのようなマネージメントが、Health outcomeやQOLと関連するかは明らかではない。

その後の報告として・・・

•Celia Kらの報告(J Am Geriatr Soc 2012)    入所者ではないが・・・

ナーシングホーム適格者(介助が必要で1人では生活できない)の地域高齢者367例を対象。2年後の機能低下もしくは死亡をアウトカム。アウトカムは75%に認めた。年齢・性別・人種・ベースラインの機能・合併症・インスリン使用などで調整した場合、HbA1c:8-8.9%が7-7.9%と比べてリスク少ない(RR:0.88,95%CI0.79-0.99)。

•Davis KLらの報告(J Am Med Dir Assoc 2014)

ナーシングホーム入所者のDM583例(米国の117か所NHから)を対象として後ろ向きに解析。

低血糖・ケトアシドーシス・感染・転倒・入院をアウトカム。

平均年齢は78.9歳。平均観察期間は55日(短い・・・)。

低血糖はHbA1c>9.0%でどの(年齢)グループでも最も少なかった。75歳以上では、感染はHbA1c>9.0%で最も多かった。65~74歳ではHbA1cが高いと転倒が増えたが、85歳以上ではHbA1cが低いと転倒が増えた。

よい血糖コントロールが必ずしもよい臨床アウトカムには結び付かず、年齢によっても異なるかもしれない、個別化する必要ありと結論。

•Mario Boらの報告(Journal of Diabetes Research 2015)

イタリアのナーシングホーム入所者のDM863例を対象に前向き観察研究。機能依存・認知機能障害・2~4の合併症を持つ患者はそれぞれ84.1%・68%・66.3%。 HbA1c<7.0%の患者は54.9%で、より認知症患者に多かった。低血糖のエピソードは6.6%で認め、年齢・機能依存・認知機能障害・ HbA1cとの有意な関連はなかった(ただし、 HbA1c はP=0.08)。最適なHbA1cよりも低い患者が多く、特に重度認知症患者では潜在的な低血糖リスクは抱えていると結論。

•Abbatecola AMらの報告(J Am Med Dir Assoc 2015)

イタリアのナーシングホーム入所者のDM2258例を対象とした横断研究。

重度の低血糖は、認知症でない患者と比較して認知症患者で有意に多かった。多変量解析で、インスリンアナログ使用患者が有意に低血糖少なく、SU剤もしくはSU剤+メトフォルミン患者で有意に低血糖多かった。

 

 施設入所中の糖尿病患者を対象とした研究は必ずしも多くなく、まだ不確かな部分が多いようです。少なくとも一般高齢者よりは甘めの血糖コントロール設定でよさそうではありますが、年齢や状態(ADL・認知機能)によって個別化が必要そう(あたりまえですが・・)。特に認知症患者では低血糖に注意であり、SU剤はできる限り使用しない方がよいのでしょうね。海外のナーシングホームと日本の特養では入所者の層も少し違いますよね。