先日、カンファレンスで話題があがったので、上記について少し調べてみました。随分前に調べたときにあまり明確なものはなく、自分のなかでは、「ある程度のPSがあり、輸血をすることにより本人の症状改善やQOLが週単位で維持できるとことが輸血の適応なのかな」とイメージして終わりました。主には、下記の教科書からの記載含めて、エキスパートオピニオンが主ではありました。
―緩和ケアおける非緊急性の輸血―
適応
一般に、次の基準すべてに適合しているときに行うべきである:
- 貧血に起因した症状、例えば、労作時に疲労感、脱力感、息切れが起こり
それらが患者にとり煩わしい、日常生活を制約する、輸血により是正できる可能性がある
- 輸血の効果が得られ、その効果が少なくとも2週間は持続すると期待できる
- 患者が輸血とそれに必要な血液検査を受け入れている
禁忌
- 既往の輸血で利益が得られていない
- 状態からみて、患者の死が差し迫っている(超終末期である)
- 患者の死を遅らせるだけという表現があてはまる輸血である
- 「何かしなくてはならない」と思う家族からの要求を根拠とした輸血
★Asian Pac J Cancer Prev. 2014;15(10):4251-4.
Use of blood transfusion at the end of life: does it have any effects on survival of cancer patients?
2010~2011年に単病院で亡くなったがん患者398例を後ろ向きに検討。90%に最後の入院時に貧血を認めた。153例に輸血(赤血球)が行われていた。貧血がある患者で輸血群と非輸血群を比較するとそれぞれ生存期間(入院から死亡まで)は15日と8日であり、有意に輸血群が長かった。
(そもそも生存期間が長そうであったから輸血が行われた可能性は否定できず、生存期間を延ばすとも言えないのでは? 1週間程度生存期間が延びるということの終末期における臨床的意義がどの程度あるのかを、輸血という限られた医療的資源とのバランスでどのように考えるか・・・)
★J Palliat Med. 2010 Nov;13(11):1327-30. doi: 10.1089/jpm.2010.0143. Epub 2010 Oct 25.
Assessment of fatigue after blood transfusion in palliative care patients: a feasibility study.
貧血があり、輸血をうけた倦怠感があるがん終末期患者30例を対象として、倦怠感のスケールが改善するかどうかを検討⇒輸血後3日後の倦怠感スケールが有意に改善した。
★J Palliat Med. 2007 Aug;10(4):919-22.
Survey of blood transfusion practice for palliative care patients in Yorkshire: implications for clinical care.
1年間の調査期間で、UKの8つのホスピスのがん患者を対象とした研究。2460人のホスピスへの登録患者のうち140人(5.7%)が輸血を受けていた。輸血を受けた患者の生存期間は最初の輸血施行から平均して42日間であった。(入院患者と比較して外来患者の方が有意に生存期間が長かった平均104日VS36日)
★J Palliat Med. 2016 Oct;19(10):1110-1113. Epub 2016 Jun 29.
Can We Detect Transfusion Benefits in Palliative Care Patients?
PCUに入院した患者のうち、輸血をうけた31例を対象した過去起点コホート研究。このうち89%は臨床医の主観により利益があると考えられ行われていた。患者の94%が症状の改善を報告した。しかし、身体機能や呼吸苦・倦怠感のスケールの改善はわずかであり、客観的な指標の改善は乏しく、プラセボ的な効果が大きいのではないかとこと。
今回、調べたところ以前よりはこの分野の研究がなされていることがわかりました。しかし、まだまだなんともいえないなあというのが正直な感想です。輸血という限られた医療資源でもあるので、患者さんのQOLや症状改善にどれくらい寄与するのかが重要な観点ではないかと思いますが、まだまだ根拠が乏しいなあと感じました。患者さんの予後を考えながら、輸血によりどれくらいQOLや症状改善を望めるのか、症状(呼吸苦や倦怠感)が本当に貧血によるものが主であるのか、他の治療により症状が改善されないかなどの検討が必要なのかなと思います。実際には倫理的な判断とはなるためなかなか難しいですよね。