東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

transition of careについて

2015-05-30 20:19:34 | その他
 来月から、私たちが嘱託医で関わらせていただいている2つの特養と、病棟スタッフとのカンファレンスが月1回定期的に開催されることになりました。当科の入院患者において、2つの施設からの入院は多く、また、繰り返し入院してくる方も多いです。これまでも、患者さんによっては施設に退院する前に施設スタッフが病棟にきて、入院中の様子をみたり、病棟スタッフと連携をとったりしていました。栄養士さんも食事の変更点などがあれば栄養サマリーを事前に施設に送るなど、工夫を行ってきた部分はあります。今回は、今永・外山と病棟の看護師長・副看護師長のミーティングの際に、看護サイドからご提案いただきました。ある程度の連携を試みてはいても、短期間で再入院をする患者さんがいることに対して問題意識を感じていただき、提案してくれました。ありがたい提案で、うれしかったです。当然、病状などから入退院を繰り返してしまう方もいると思いますが、療養の場が変わってもケアの継続性をできるだけ担保することにより、それらを減らすことは可能かと思います。以前、Annal of Internal Medicineに「transtion of care」のレビュー記事がのっていたので、それ+αの内容を書きます。療養の場がかわることにより継続性が失われ、様々な弊害があるようで、それに対してどのようにしていけばよいかという内容です。


 <Transition of careについて>
~Annals of Internal Medicine2013 Mayレビュー+α~

■なぜ話題として重要か?
★Foster AJらの報告(Ann Intern Med 2003):2割が退院後2週間以内にadverse eventで再入院(1/3は防げた)。薬剤の影響が最も多く、留置類の合併・感染・転倒が続く。
★ Foster AJらの報告(CMAJ 2004):上記と同様の結果がカナダの病院でも得られ、半数は緊急受診・再入院に。
★米国で2004年~2009年の間に30日以内の再入院増加。
⇒退院後のadverse event・再入院が問題となっている。

■どのような患者が再入院のリスクが高いか?
★そもそもDr・Ns・ケースマネージャーは30日以内の再入院を予知できていない。
★KansagaraDらの報告(JAMA 2011):Sys Revで、有用なリスク予知モデルは乏しい。(セッティンが限定される)
★van Walravenらの報告(CMAJ 2010):LACE index(Length of stay, Acuity of admission, Comorbidity;Charlson Index, ER use in 6month before admision) 
C statics0.684

■入院中にどのような介入を行うべきか?
★患者・家族への指導に“teach-back”のような手法(簡単に言うと、指導を行い、それを患者・家族に実際にやってもらったり、言ってもらったりする)
★Discharge Transitions Bundle:①個々の患者の退院にあたってのリスクをアセスメントし、多職種で共有②退院処方を確認し、その変更点と理由を記載する③ teach-backなど使いながら患者・家族の移動過程に関与④タイムリーに正確な退院時の情報を送る

■退院時・後において考慮すること
★週末退院は避ける
★プライマリケア医のフォロータイミング:Misky GJらの報告(J Hosp Med) 4週間以内のプライマリケア医フォローがないと再入院10倍
★心肺蘇生や人工栄養に関する希望の確認(POLSTなどの例)

■単独で有効な介入はなく、介入方法を組み合わせることが重要(ほとんどの介入は患者中心の指導シートの使用と電話による退院後のフォロー):Hansen LOらのSys Rev(Ann Intern Med 2011)


 この記事のなかには、それぞれの療養の場のスタッフがどのように連携していくかという内容はあまりありませんでしたが(どうしても書面でのやりとり中心となってしまいますもんね)、来月からの病棟と施設とのカンファはまず、より顔のみえる関係を密にしていくことが最初の目標ではあります。まだ内容の詳細は決まっていませんが、ここからさらに連携が促進され、様々な取組みができ、患者さんたちに還元できればと思っています。

Multimorbidityについて(朝の勉強会)

2015-05-26 20:06:45 | 勉強会
 今日の朝の勉強会は、Multimorbidityについてです。先日、複雑性のはなしがでましたが、それとも若干関連する内容として少し調べてみました。


<Multimorbidityについて>

■Multimorbidityと死亡・入院・身体機能の低下・うつ・ポリファーマシー・QOL悪化との関連が報告されており、今後さらに増加することが予測されている。

■Multimorbidityの頻度は?パターンは?
★C Violanらの報告(PLOS ONE 2014):Systematic Review
プライマリケアセッティングでのMultimorbidityの頻度・パターン・関連因子を調査。12国の39研究が対象。
①頻度:12.9%(18歳以上対象の研究)~95.1%(65歳以上対象の研究) ほとんどが20%を超えていた。
②関連因子:年齢(OR:1.26~227.46)、低い社会・経済状態(OR:1.20~1.91)。女性・精神疾患との関連も報告あり。⇒高齢で心理社会面の問題がある人に多い。より複雑性高くなる集団か。
③パターン:最も多いパターンは変形性関節症+心血管疾患(and/or)代謝疾患。

■どのような介入が有効なのか?
★CM Boydらの報告(JAMA 2005)
15のコモンディジーズのガイドラインを調べたところ、 Multimorbidityへの対処はほとんどのガイドラインになし。
76歳のCOPD・DM・HT・骨そしょう症・変形性関節症の患者の場合、ガイドライン通りだと、12の薬剤必要。月に400ドル以上。
★M Lugtenbergらの報告(PLOS ONE 2011)
有病率高く、QOLへの影響が大きい4つの疾患(COPD,2型DM,うつ,変形性関節症)のガイドラインに対してcomorbidityの記述を調査
平均3つの推奨。20のガイドラインで計59の推奨。そのうち78%が関連するcomorbidity(ほとんどDMガイドライン)で、関連しないcomorbidityの記述は8%のみ(うつガイドラインで多かった)であった。⇒Multimorbidityに対してガイドラインベースの診療は限界がある。
★SM Smithらの報告(BMJ 2012):Systematic Review
10個のRCT(全てcomplex intervention)⇒ケアデリバリー・多職種でのチーム介入などがほとんど。処方や薬剤アドヒアランスの改善を認めていたが、cost effectiveや健康アウトカムの実証は不十分。
★J ReeveらのDEBATE(BMC Family Practice 2013)
complex intervention(CI)を行う上で、Normalisation Process Theory(NPT)が有用ではないかと提案
NPT:
①Sense-Making Work ②Engagement ③Action ④Monitoring


 高齢者診療を行っていて、多くの患者さんがMultimorbidityであったりします。しかも、先の研究でもあったようにMultimorbidityは、高齢で心理社会面の問題がある人に多いのも、実臨床でも実感します。そのような患者さんたちにガイドライン診療をそのままあてはめることが有用でないこと・困難であることをなんとなくは感じていましたが、それがある程度、実証されていることなのだと知りました。また、個人的にはcomplex intervention(CI)という概念を非常に興味深く感じました。多職種などで包括的な介入を行うことが、これからの高齢者医療においてはやはり重要なのだと再実感するとともに、その効果を実証することは、普段の臨床そのものを研究として行うことでもあり、結果が非常に実践的となりえると思いました(つまり目の前のいろいろなことを抱えた患者に適応可能)。6月にあるプライマリケア連合学会の抄録をみていたら、それにあてはまるような研究もあり、感銘をうけました。(日野原賞という若手研究者対象の学会賞にノミネートされていた南砺市民病院の演題です。「食べられない」高齢者に対する多職種での包括的アプローチの有効性を検証しています。)

複雑性について(カンファレンスの内容)

2015-05-23 18:08:02 | カンファレンスの話題
 先日のカンファで、後期研修医が訪問診療を行った方で、様々な問題が複雑にあり、どこをどうしてよいのかわからなくなったという話題がありました。その時に、一般診療や在宅診療においては、複雑性にどう対処するかの能力が重要であることの話しをし、クネビン・フレームワークの紹介をしました。JIM(医学書院)2011年9月号の藤沼先生の記事や日本プライマリケア連合学会誌2014年6月号(37巻2号)の宮田先生の記事が参考になります。宮田先生の記事は、J-stageでネットでみることが可能です。以下「クネビン・フレームワーク」については、宮田先生の記事を一部まとめたものです。

★クネビン・フレームワーク(複雑性を考える枠組み)
①単純な状況(Simple)
内部での相互作用がなく安定的で因果関係が誰の目にも明らかであり、振る舞いが予測可能である。
例:合併症のない健康成人のマイコプラズマ肺炎例
②込み入った状況(Complicated)
複雑であるが静的であり、全体は部分の総和として考えることが可能である。因果関係ははっきりしているが、本当にそうなのか判然としない。
例:高齢者の糖尿病患者で動脈硬化病変が進み、冠動脈疾患・末梢血管の血流障害もある。5年前に胃がんの手術をうけ、イレウス気味の症状となることがある。患者の理解力や家族の介護力も良好。
③複雑な状況(Complex)
内部の相互作用は絶え間なく変化し、全体は部分の総和を遥かに超え、何が起こるか分からない。何が分からないのかも分からない状況。
例:都市部の集合住宅で寝たきりとなっている虚弱老人。患者の認知機能は正常だが、軽度認知機能障害のある配偶者が介護を行っている。娘は時々来るが、あまり深く関わりをもっていない。患者の病状について前医に問い合わせても高血圧・狭心症・糖尿病・大腿骨頸部骨折の既往があることしか情報は得られなかった。患者のケアについては、市内にすむ長男に連絡をして説明をしながら進める必要があるが、長男は全く患者宅には訪れない。
④カオスな状況(Chaos)
混乱が渦巻いており因果関係がはっきりせず、適切な解を探しても意味がない。因果関係は絶えず変化するため、制御可能なパターンは存在しない。緊張が張りつめており、わかりあえない状況である。
例:集落のはずれのかなり古い住宅に住む60代の姉妹。民生員が自宅を訪問すると、長女は異臭のする部屋で寝たきりになっていた。次女は世話をしている様子はあったが、真夏であるのに窓は閉め切られていて、熱気が充満していた。排泄物が部屋の簡易トイレの周りにみられた。長女は精神疾患で通院歴があった。次女も通院歴はないが精神疾患があると考えられた。長女は発熱もあり、入院が必要な状況であったが姉妹は入院には同意しなかった。
⑤無秩序な状態(Disorder)
①~④のどれにも一致しない状況。秩序が存在しないため、その中にいてもそれに気づきにくい。


Sturmbergらは、上記の①②にあたる状況であれば「問題解決」が、③④にあたる状況であれば「安定化」がゴールになるとしています。
③や④のような状態は、訪問診療で遭遇することもしばしばあり、医療者としてもストレスとなることがあるかと思います。特に経験が少ないうちはどうしてよいかわからず、わからないことがストレスとなり、患者さんへネガティブな感情を抱いてしまうことがあるように思います。しかし、それをクネビン・フレームワークなども参考に分析し、どこを目指していくのかを明確にすることで、患者さんにうまく向き合えたり、マネージメントすることが可能になることもあるかなと感じています。④のような状況だと「見守ること」、「最悪の状態を防ぐようにすること」などのみを目的としたほうがよい場合もあるでしょう。
私自身、まだまだ「複雑性」への対処に困ることも多々ありますが(というか大体困っています・・・)、そのようなときはチームで診療を行っていることが心強かったりすることも多いです。「複雑な」患者さんこそ、チームで共有し、一緒に悩んでいくことが大事なのかなと感じています。



職業性腰痛について(朝の勉強会)

2015-05-20 19:46:22 | 勉強会
 医療・介護職の方から相談をうけたりすることが多く、産業医的な視点で関わらねければならないこととして、職業性腰痛があります。今日は外山先生が職業性腰痛について、朝の勉強会をやってくれたので、その内容をのせます。


 <職業性腰痛(主に介護職)のマネジメントについて: 産業医的視点から>

■介護施設での腰痛実態調査:伊藤、日本腰痛学会誌2009
介護スタッフの33%が腰痛によりADLやQOLが低下している(RDQ:QOLを加味したテストバッテリーで評価、N=約900)
 
■介護施設での対策調査(北陸の29施設):辻口ら、看護実践学会誌2011
腰痛保護ベルトの紹介:療養病床75%、老健29%、特養17%
電動介護ベッドの割合:療養病床33%、老健50%、特養85%
⇒コルセットは有効なものと考えられている?電動ベッドの普及率は意外と低い
 
■コルセットは腰痛予防にならない:van Duijvenbodeら、Cochrane 2008、
腰痛既往のない場合、職業性腰痛の予防としてコルセットは推奨されない:CDC NIOSH Back Belt Working Group 1994
 
■急性腰痛があっても普段の活動を維持すべき⇒痛みの改善、休業期間の短縮、再発減少に有効。Waddellら、Occup Med 2001,イギリスの職業性腰痛ガイドライン

■医療者によるカウンセリングが早期復帰や再発予防に有効:Du Boisら、Spine 2012
 7つのポイントを含むカウンセリング(N=506、ランダム化):「腰痛以外に悪いところはない」、「椎間板の炎症や変形に筋肉が反応し凝りや痛みをおこしている」、「慎重になりすぎたり休みすぎたりすると凝りや痛みが悪化する」、「恐怖や痛みの予期により筋肉が反応し痛みが起こりうる」、「軽度の身体活動は改善を促進する」、「半数は6週間以内に、大多数は3か月以内に病気休暇から復帰する」、「腰痛に自分を従わせてはならない」⇒有意に一年後の職場復帰率高く、再発率が低かった
 
■長期休職者(100日以上)に関連する要因(N=2215、30日以内の短期休職と比較)は、重労働、事業所規模が小さい、喫煙、心理的問題⇒禁煙指導や心理的サポートも重要:小西ら、日本職業・災害医学会会誌2006

 
 勉強会でも話題にあがったのが、(腰痛との関連が明らかになっている)ストレスの影響をどのように査定し、それに対してアプローチしていくかということでした。今回はそこは主題となっていませんが、それだけで、勉強会1回分になりそうですね。


薬剤師さんとの連携について

2015-05-17 17:32:45 | 勉強会
 以前、在宅での薬剤アドヒアランスを高めるということについて書きました。高齢者医療や在宅医療に携わっていると、医師という一職種のみで行えることの限界を感じることがよくあります。以前、薬剤師さんの雑誌の取材で、「対談」という形で、お招きいただいたことがありました。その時も実感したのですが、今後、地域(在宅のみではなく病院でも)での薬剤師さんの役割というのは非常に重要になるのでは感じています。そのような観点から、本日はCollaborative drug therapy management(CDTM):共同薬物治療管理について書きたいと思います。

 
<Collaborative drug therapy management(CDTM):共同薬物治療管理について>

★2010年4月厚労省通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」:薬剤師が主体的に薬物療法に参加することが有益(薬剤師を積極的に活用することが可能な業務9項目を明示)
① 薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること。
② 薬剤選択、投与量、投与方法、投与期間等について、医師に対し、積極的に処方を提案すること。
③ 薬物療法を受けている患者(在宅の患者を含む。)に対し、薬学的管理(患者の副作用の状況の把握、服薬指導等)を行うこと。
④ 薬物の血中濃度や副作用のモニタリング等に基づき、副作用の発現状況や有効性の確認を行うとともに、医師に対し、必要に応じて薬剤の変更等を提案すること。
⑤ 薬物療法の経過等を確認した上で、医師に対し、前回の処方内容と同一の内容の処方を提案すること。
⑥ 外来化学療法を受けている患者に対し、医師等と協働してインフォームドコンセントを実施するとともに、薬学的管理を行うこと。
⑦ 入院患者の持参薬の内容を確認した上で、医師に対し、服薬計画を提案するなど、当該患者に対する薬学的管理を行うこと。
⑧ 定期的に患者の副作用の発現状況の確認等を行うため、処方内容を分割して調剤すること。
⑨ 抗がん剤等の適切な無菌調製を行うこと。

★米国や英国での導入:HT・DM・HL・抗凝固療法などで、医師と取り決めたプロトコールに沿って薬物療法の調整などを行う。
 ナーシングホームで有意な死亡率減少・病態の改善・患者1人あたりの薬物数減少(J.F Thompsonら,1984)
★日本での導入例
整外病棟での周術期の処方提案・代行(舟原ら,2013):緊急処方の減少・疑義照会件数減少・薬剤師の処方提案件数増加
地域医療型CDTM(小川ら,2014):疑義照会件数減少、残薬確認により保険点数削減

 小川らの報告はプライマリケア連合学会誌にのっていたのですが、読んで、地域の薬剤師さんの今後の可能性を感じました。特に在宅や施設などはいろいろな可能性があるのではないかと感じました。また、そのような意味では薬薬連携も今後より重要となってくるのではないかと感じています。高齢者が入退院するときに、どのように薬剤師同士で情報を共有し、共に介入を行っていくのか・・・。病棟の薬剤師さんにも、病棟での多職種カンファレンスに出席してもらっており、今後いろいろとやっていけたらよいなと考えています。