東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

DNRって?(病棟Nsとの勉強会)

2015-06-26 21:01:53 | 勉強会
ちょっと更新さぼっちゃいました・・・。

 一昨日に、病棟看護師さんたちと勉強会をやったので、その内容をアップします。昨年度から月に1回、病棟看護師さんたちと勉強会をやっています。昨年度も高齢者医療におけるコモンディジーズについてのことや、緩和ケアやフィジカルアセスメントについてなど、様々な内容で行いました。

 今回は「DNRって?」というお題をいただきました。内容の概要は以下のとおりです。

①そもそも、CPRでどれくらい蘇生できるの?
・院内発生の心肺停止患者でCPR施行した患者が、生存して退院する割合は10~15%程度。
・院内発生の心肺停止患者で、CPR施行した患者が、後遺症が軽度(軽度の麻痺や構音障害)で退院できる割合は10%程度。(Mark H Ebellらの報告:JAMA 2013)
・どのような患者さんにCPR行うかが重要?⇒上記の報告において、高齢、がん(転移あり)、脳卒中、敗血症、腎不全、肝不全、呼吸不全、施設入所者…などは後遺症少なく退院できることは少ない。例えば、85歳以上・施設入所者となると2%未満。さらに心疾患による入院でない場合には、0.8%程度となる。
・どのような患者さんにCPR施行するかによって、蘇生率や後遺症なく退院できるかは異なる。
大事なのはどれくらい蘇生できるかということだけ?(医学的側面)⇒「どのような最期を迎えたいか?」が重要!

②DNRって何?
・DNR(Do Not Resuscitate)DNAR (Do Not Attempt Resuscitate)
心肺停止状態になった時に蘇生措置を行わないこと
(他の治療に関しての意思表示とは異なる)
⇒「なにもしない」人ではない。

③DNRに関する臨床上の問題点は?(Yuenらのレビュー2011を参考に)
・不十分な情報提供
・医療従事者が他の治療について、不適切にDNRオーダーを持ち出す
・本人不在

 ③-Ⅰ:不十分な情報提供
 患者さん・家族は、CPRすれば元気になると思っている?(70歳以上の8割の人が、CPR後に半数以上は退院できると思っていた:Adams DHらの報告2006)
 CPRで期待される効果とデメリットの説明がなされていないことが多い
  (4%の医師しかCPRの効果について言及しておらず、CPRのデメリットについてはさらに言及少なかった:Tulskyらの報告1995)
 ③-Ⅱ:医療従事者が他の治療について、不適切にDNRオーダーを持ち出す
 抗菌薬・点滴・輸血・胃瘻・透析など、他の医療行為に対して、本来DNRオーダーがそのまま適応されるべきではない。
 (155名の外科医に対する調査で、DNRオーダーがあると、43%が輸血を差し控える、32%が抗菌薬投与を行わないという答えであった:Gorman TEらの報告 2005)
 ③-Ⅲ:本人不在
 DNRオーダーにあたり、本人の意思が確認されていることは少ない。
  がん124名中、113名(91%)にDNRオーダーあったが、1例も患者自身は同意に関わっていない。(Tokudaらの報告 2004)
  DNRオーダーの際に、3/4は本人判断できない状態(Bedellらの報告1986)

④ では、実際にどのようなプロセスでDNRオーダーを行うべきか? (Joint CommisionのDNRオーダーに関する提言より一部抜粋)
(1)DNRについて話し合うべき患者・家族と相談の場を設ける。
(2)DNRについて話し合うべき患者:終末期の患者、重篤もしくは不可逆的な疾病によりADL悪い患者、不可逆的な意識障害ある患者、蘇生の可能性が低い患者、呼吸・心停止のリスクが高くなっている患者。
(3)プロセスに含まれること:ケアのゴール設定、患者の経過・予後・CPRによる利益とデメリットについて説明、推奨を伝える。
(4)入院して72h以内に行う。(患者の状態が変化したら再確認)
(5)その内容と決定事項をカルテに記載。スタッフはその決定に注意を払う。

⑤まとめ
DNRかどうかを決めるまで:
★DNRについて話した方がよい患者に対して、適切なタイミングに(入院して早い段階で)、本人?・家族とDNRについて話す。
★DNRについて話す際には、本人の病状・予後を説明し、ケアのゴールを共有。CPRのメリット・デメリットについて伝える。
DNRが決まったあと:
★スタッフ間での共有
★DNR≠「なにもしない」人


 上記内容について、話した後、では実際には?というところで、ディスカッションしました。本人にはなかなか話しづらいよねといったところだったり、そのなかで継続的に関われる病棟であるからこそ、事前にいろいろ聞いていくこともできるのではないかといった話しも出ました。そのなかで少しアドバンスケアプランニングの話もでました。また、実際にDNRの話をうける家族の心情であったり、ケアのゴール共有が大事ではないかといった話しなど、30分では時間が足りないなと感じました。自分としても、DNRオーダーについて考える良い機会となりました。











がん検診について(朝の勉強会)

2015-06-18 20:19:49 | 勉強会

一昨日の朝の勉強会は、がん検診についてやりました。6月から健診・検診がはじまっているのもあり、がん検診について、少しアップデートしてみました。

USPSTFの推奨と日本のがん検診ガイドラインの内容を比較してみました。

 

 

★補足事項

•乳がん検診

40歳代の効果については賛否あり:40歳代は50歳~74歳までと比較してNNI(Number Needed to Invite)が大きい。(2000vs667) これらへの解釈の違いにより推奨が異なる。

•大腸がん検診

S状結腸鏡(5年毎)+便潜血(3年毎)、全大腸内視鏡(10年毎)などの死亡率減少の根拠はあるが、日本では検査のリスクを考えて、対策型検診としては推奨せず。

ちなみに、2014年Annals of Internal Medicineに、Frank van Heesらの報告があり、それによると、合併症のない高齢者であれば86歳まで、中等度の合併症ある場合には83歳まで、便潜血でのスクリーニングはcost-effectiveであるとの結果が出たようです。参考までに。

•胃がん検診

USPSTFでは有病率低いため、記載なし。

国内ガイドライン2005年度版との違い(すいません入れ忘れましたが表にのっかってるのは2014年度版です)

⇒X線もともと推奨していたが、国内の複数の症例対症研究以外に、国内2件・国外1件のコホート研究で胃がんによる死亡率減少認めた。

内視鏡に関しては、2005年度以降に、国内2件・国外1件(韓国の研究で報告書のみ論文化未)の症例対症研究で胃がん死亡率減少を認めたことを根拠にB。

 

 健診にきてがん検診受けていない人や、外来の患者さんなどにがん検診をすすめることがありますが、ただ「検診うけてくださいね」ではなく、その方の年齢やリスクファクターなどを考慮して、自分なりに重みづけをしながら、おすすめするのが重要かなと感じています。


第6回プライマリケア連合学会に参加してきました!

2015-06-15 22:24:49 | 学会活動
 先週末は第6回プライマリケア連合学会に参加してきました。総合診療医が新たな専門医制度として導入されるなか、注目されてきている学会でもあります。
 今回は、今永と田中(現川崎市立井田病院)が発表しました。恐れ多いことに、今永の発表は、日野原賞という賞にノミネートされました。日野原賞は、「これからのプライマリ・ケア領域の研究の発展を担う、次世代の若手研究者(40 歳未満)を奨励することを目的として、最も質の高い臨床研究を実施し、発表した方を表彰」するという学会賞の1つです(学会ホームページより)。今回、1次審査(抄録)で7題の候補が選ばれ、2次審査(口演発表)で2題が日野原賞に選ばれました。「介護老人福祉施設において緊急入院のリスク因子は何か?」というテーマで発表させていただきました。残念ながら、日野原賞をとることはできませんでしたが、数多くの演題の中から、7題の中に選ばれたことは光栄なことですし、非常にいい経験となりました。フロアとのやりとりも非常に勉強になりましたし、緊張はしたものの楽しみながら行うことができました。質問者の方々に感謝です。今後も、臨床を主軸にしながらも臨床研究を地道に行っていきたいなと自分の気持ちを再確認しました。
 田中先生の発表は、当院の訪問診療患者における、男性介護者の介護状況をしらべたものでした。非常に興味をもっているようで、男性介護者について、いろいろな文献や本を読んでいるようでした。
 シンポジウムもいくつか参加しましたが、 「生命の危機に直面した患者・家族と“いのちの終わり”に関する話し合いを始める」というアドバンス・ケア・プランニングについてのシンポジウムは、概念的な部分だけではなく、実践的な部分も多く、非常に勉強になりました。
 今後も学会活動などを通して、様々な刺激を受けていきたいなと感じた2日間でした。


今年度1回目の在宅医療連携推進協議会

2015-06-11 20:00:48 | 在宅医療連携推進事業
 一昨日に、今年度1回目の在宅医療連携推進協議会がありました。
 協議会のはなしを書くのははじめてなので、簡単にこれまでの経緯を説明すると、下記のようになります。

・厚労省のモデル事業「H24年度在宅医療連携拠点事業」を当院で受託
・医療福祉従事者の「顔の見える関係」の構築、在宅医療における連携上の課題の抽出及びその対応策の検討を目的に多職種が一堂に会する「協議会」を発足。
・協議会メンバー:医師・歯科医師・薬剤師・看護師・介護福祉職・理学療法士・歯科衛生士・介護支援専門員・ヘルパー・医療ソーシャルワーカー・施設職員・行政
・「医療機関数」「訪問看護ステーション数」「在宅療養支援診療所数」、同じ医療圏、同じ保健所管内など勘案し、蓮田・白岡・宮代の2市1町で開始。
・H25年度からは蓮田市から委託をうけ、引き続き東埼玉病院が協議会運営に関わらせていただいている。(2市1町の枠組みのまま継続)

 1回に60~80名程度の多職種が集まり、グループワークなどを中心にあついディスカッションが行われます。昨年度は実際に在宅医療・介護における施策の提言がなされ、一部は今年度着手がはじまっています。その他、協議会以外にも行政の方と協力しながら在宅医療・介護推進のための事業を行っています。
詳しくは、http://www.esaitama-hosp.jp/zaitaku/index.htmlを参照願います。

 ところで、今回第1回は、昨年度の後半におこなった蓮田市の代表者会議の報告や在宅医療連携ガイドのアンケート調査の報告を前半に行い、後半は「看取り」に関するグループワークを行いました。「看取り」に関してはそれぞれの職種などにより感じ方やとらえ方が違う部分もあるかと思い、それをまず共有することを目的としました。いろいろな視点のはなしが出てきて、個人的にも発見がありました。
 次回は民生委員さんたちに参加してもらい、地域の問題点の共有や、そこにどのように在宅医療・介護がサポートしていくか、連携していくかをディスカッションできればと思っています。


心不全における水分制限について(カンファレンスの内容:本当は医療と介護の連携のはなし・・・)

2015-06-08 00:09:34 | カンファレンスの話題
 先日のカンファレンスで後期研修医の先生が発言していた事として、心不全の患者さんに対する水分制限の話しがありました。施設入所中の心不全がある患者さんで、やや増悪傾向にあったのですが、利尿剤の増量にはあまり反応なかったものの水分制限を設定することで、ずいぶん改善したというエピソードでした。介護施設では、水分をできるだけ1L以上とるよう心掛けている部分もあります。たしかにそれは重要ですが、心不全のある患者さんに対しても一律にそのようにしてしまう部分があり、こちらで適宜注意しないといけない部分があります。以前、在宅の患者さんでショートステイから帰ってくると、心不全が増悪傾向になる方がいて、よくよく聞くとショートステイ中の水分がその患者さんにとっては過剰なことがありました。後期研修医の先生が、重要性を実感したこととしては、そのような医療と介護の連携の話しでした。水分摂取をまめにすることは高齢者にとっては重要なことですが、医療的なアセスメントのうえでの個別化は重要であり、そのあたりを介護職の方と共有していくことは重要と思います。1つの例ですが、心不全患者の水分摂取に限らず、このようなことは多々あると思います。
 実は本筋はそのようなことですが、ではメディカルには心不全における水分制限は実際どのようなことがわかっているのでしょうか?


 <心不全に塩分・水分制限は有用か?>

★慢性期の管理
ガイドライン
①2013ACCF/AHAガイドライン
stageC :classⅡa 3g/日未満の塩分制限(レベルC)
stageD: Ⅱa 1.5~2L/日の水分制限。特に低Na合併。(C)
②2010慢性心不全治療ガイドライン
塩分制限:重症心不全では3g/日以下。軽症では必要なし(7g/日以下程度)。
水分制限:軽症では不要。重症で低Na合併では必要。
③Philipsonらの報告(Eur J Heart Fail 2013)
対象:NYHAⅡ~Ⅳで、以前体液貯留の経験がある97例
方法:RCT 1.5Lの水分制限・5gの塩分制限を介入群 12W
結果:複合エンドポイント有意に改善(NYHAと足の浮腫の改善)
口渇・食欲・QOLの低下は認めなかった

★急性期の管理
①ガイドライン
2010HFSA(The Heart Failure Society of America)ガイドライン
 2g/日以下の塩分制限と、Na<130で体液貯留ある場合は2L/日未満の水分制限を推奨
②Graziellaらの報告(JAMA 2013)
対象:急性非代償性心不全で入院した75例(Ccr30未満・心原性ショック・認知症などは除外)
方法:RCT  
介入群 800mg/日以下のNa制限、800ml/日以下の水分制限 
コントロール群 3-5g/日のNa、2.5L/日以下の水分
結果:入院3日後の体重減少・clinical congestion score及び退院30日以内の再入院率は有意差なし。期間中の口渇は有意に介入で悪化


 複合エンドポイントではありますが、慢性期において、ほどほど?(食事も入れるとそれなりに少ないですが)の水分(+塩分)制限は有用かもしれません。急性期においても、厳密な制限ではなくてもほどほどでよいかもしれませんね。

 個人的には、超高齢者に対しては、塩分・水分制限を本人のQOLという面で考えることが重要と考えています。制限せずに入院したり、呼吸苦が出てもQOL下がると思いますし、そうかといって過剰であったり不必要な制限は食などを楽しむという意味でQOLを下げることもあると思います。そのはざまで悩んだり、葛藤することも多いです。