東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

認知症患者に対するデイケア・デイサービスの効果は?

2016-03-26 21:57:47 | 勉強会

 昨日の勉強会の内容についてのせます。以前、外山先生が<高齢男性とデイサービスなどへの社会活動参加>というテーマで勉強会をやってくれました(今年1月20日の記事にあります)。そのときに、「ついついデイに行ってもらうことが目的になってしまうことがあるが、まず、介護負担軽減を目的とするのか、それとも行くことで患者さんのQOLに(現在もしくは将来)寄与することを目的にするのか」ということを考える必要があるよね~というディスカッションが出ました。そのときに、そもそもデイケアやデイサービスがどれくらい患者さんにとって、もしくは家族の介護負担軽減に対して効果があるものなのかと思ったので、今回認知症患者さんを例に、調べてみました。

 <認知症患者に対するデイケア・デイサービスの効果は?>

★Zank Sらの報告(Journal of Gerontology 2002)   

高齢者(平均79.5歳、認知症以外の高齢者含む)を対象とした縦断研究。6か所のデイケアで施行。

デイケア群43例(週2回以上のデイケア)とコントロール群40例(デイなし)。

年齢・性別・身体機能・精神状態・社会的状態をマッチングして、10日後・3か月後・6か月後・9カ月後のWell-being, dementia symptoms, health indicator, ADLを調査。(デイケア群は79%、コントロール群は63%が認知症と診断)

デイケア群で、Well-being・dementia symptomsの悪化が有意に低かった。

介護者の介護負担・ Well-beingでは2群間に有意差はなかった。

★Femia EEらの報告(Gerontologist 2007)

認知症患者を対象として、デイサービス群133例とコントロール群68例の2群に分けて、介護者の観察によるBPSD症状を調査。デイサービス群では夜間の睡眠に関連する症状が有意に少なかった。抑うつ・焦燥に関しては少ない傾向があったが有意差なし。

★Mosselo Eらの報告

認知症ある高齢者を対象として、デイケア群30例とコントロール群30例の2群に分けて、2か月後の認知機能・身体機能・BPSD(NPI score)・介護負担(CBI)を調査。(年齢・認知機能をマッチング)

デイケア群では、2か月後のNPI score・抗精神病薬の処方数・CBIは有意に低下した。(認知機能・身体機能は有意差なし)

★Tretteteig Sらの報告(Aging Ment Health 2016)

認知症患者の家族介護者にデイケアが与える影響についてのシステマティック・レビュー(質的・量的研究の両方を統合)

家族介護者は、レスパイトサービスと認知症患者のケア能力を改善するサポートサービスの両面で捉えていた。デイケアの質は、デイ使用や家族介護者のケアのモチベーションに影響していた。

 これらをまとめると、デイは、認知症患者のADLや認知機能自体には効果はないかもしれないが、認知症の症状にはよい影響があるかもしれないし、家族の負担は減らしそうではある。やはり、デイの質は重要かもしれない。 

 でも、RCTとかはあまり見当たらず、ある程度マッチングはされているものの、デイに行く人・行かない人によってバイアスはありそうですよね。日本の研究などはほとんどありませんでした。そもそも海外のデイってどんな感じなのでしょうかね・・・。国によっても違うのでしょうけど。デイの質が重要なのは納得です。というか、臨床的にはその人に合うデイを選択することも大事ですよね。それはデイの内容もそうですし、地域性も関係あると思います(昔からの知り合いがいるかどうかなど)。そのあたりも含めて介入した研究なんかあると面白いですよね。


褥瘡Critical colonizationの治療について

2016-03-15 20:38:20 | 勉強会

 今日は先日、外山先生が勉強会でやってくれた内容を載せたいと思います。以前、ある先生の褥瘡治療の講演を聞いたときに、critical colonizationという概念を知りました。要は「感染」とまではいってないが、細菌が創傷治癒を妨げている状況のことをいうようです。今回、そのことについて調べてくれました。

 

 <褥瘡critical colonizationの治療について>

 

•Kingsleyによる分類(Ostomy Wound Manage.2003)

 

①bacterial contamination ②colonization critical colonization ④infection

 (つまり、「感染」と「定着」の間)

 

•日本褥瘡学会による定義(褥瘡会誌2010):

 

–「bacterial balance」創部の有菌状態を連続的にとらえ、その菌の創部への負担(bacterial burden)と生体側の抵抗力のバランスにより感染が生じるとする考え方

 

–「臨界的定着」は定着と感染の間に位置し、定着よりも細菌数が多くなり感染へと移行しかけた状態

 

•細菌量が治癒速度に影響:組織1gあたりの細菌数が105CFUを超えると褥瘡治癒が遷延(Bendy,1964)
 

 

•NPUAP/EPUAP/PPPIAによる褥瘡治療ガイドライン(2014)

 

critical colonizationには局所消毒薬使用を考慮(弱い推奨)

 

–抗菌薬(antibiotics)の局所使用は推奨されない(副作用と耐性菌のため)。局所消毒薬(antiseptics)で細菌数を減らすことが重要視されている。ただし期間を区切って。

 

–ここで挙げられている消毒薬:ヨード化合物(ポビドンヨードなど)、銀化合物(スルファジジン銀など)、ポリヘキサニド、クロルヘキシジン、次亜塩素酸、酢酸。

 

•期間を区切って?・・・ AHCPRによる褥瘡ガイドライン(1994):2-4週間の治療で改善しない場合に1-2週間の消毒薬使用を試しても良い

 

•expert opinion:「臨床的に、膿汁排泄が続く過剰肉芽でなかなか上皮化が進まず治癒しにくい創。細菌の増殖が継続し、炎症が続いているような場合、創傷遅延をきたしたり、創感染を引き起こしたりする。このような創にステロイド軟膏や抗菌剤軟膏が著効する(クロマイP軟膏)。」

 

•慢性褥瘡に対するoxandrolone外用RCT→ ステロイドの効果なし(Bauman et al, Ann Intern Med2013)
 
 
 
  ということで、正直よくわからないねということになりました。菌数を普段はかれるわけではなく、臨床的にどういうときにcritical colonizationを疑うかが重要なのかとは思いますが、そのあたりの詳細な記述は少ないようです。ある程度よくなってきたのに、なかなかある部分から治りが悪いときなどにcritical colonizationの関与を疑うという感じなのでしょうか。そのようなときに短期間ユーパスタやゲーベンを使うというのもありみたいですね。ただ、ゲーベンとか嫌う先生は嫌っていたりするし、抗菌薬含有の外用(クロマイPなど)を使うという意見もあったりしますし・・・。いつも思うのですが、褥瘡治療はなんでもありかなって思っちゃいます。自分たちなりのよい褥瘡治療のスタイルみたいなものをつくっていくのが大切なのかもしれないですね。そもそも褥瘡は処置方法以外(栄養やポジショニングなど)の部分が非常に重要だったりしますもんね。
 
 

 


第1回埼玉ポートフォリオ発表会

2016-03-07 22:28:12 | 初期・後期研修関連

 

 先週の土曜日に、さいたま協同病院で、第1回埼玉ポートフォリオ発表会が開かれました。県外からの参加者も含めて30名程度の参加者があり、4名の後期研修医が自身のポートフォリオを発表し、それに対して熱いディスカッションが繰り広げられました。当院からも渡邊先生と林先生の2名が発表してくれました。

 ポートフォリオとは、教育学の分野では「学習者の成果や省察の記録、指導者の指導と評価などをファイルに蓄積していくもの」と定義されているようです。近年、医学教育にも取り入れられており、プライマリケア連合学会の専門医試験受験資格を得るためにはこのポートフォリオという形式で、様々な領域の事例を書き上げて提出する必要があります。ポートフォリオの中で、自分が、どのような力を使って何をできたのか、そしてそこから何を学んだのかを示していくこととなります。しかし、研修する側も指導する側もポートフォリオ作成に関しては戸惑いもあり、正直自分自身もうまく指導できているのか自信がありません。今回、他施設の後期研修医の発表を聞いたり、当院の2名の研修医への皆様からのフィードバックを聞いて、指導医としても多くの気づきがありました。貴重な機会を提供してくださった、関口先生をはじめとする「さいたま総合診療医・家庭医センター」の方々には感謝します。

 そして、今回、渡邊先生のポートフォリオ「カンファレンス・レクチャーを通して特別養護老人ホームの看取り体制の構築に貢献した1例」がベストポートフォリオに選ばれました。林先生の発表内容もよかったと思います。2人ともお疲れさまでした。

 今回、ポートフォリオの会ではありましたが、埼玉県内の総合診療医・家庭医が多く集まった貴重な機会であり、今後さらにつながりができていけばいいなと感じましたし、埼玉全体で後期研修医を盛り上げていけるような場づくりは大事だろうなと思いました。

 


尿道カテーテル閉塞の予防について

2016-03-01 20:19:59 | 勉強会

 できる限り抜去を試みるようにしますが、どうしても尿道カテーテルを留置しなくてはならない患者さんはいます。在宅ではカテーテル閉塞により、看護師や医師の緊急訪問が増えますし、それを契機とした尿路感染症もあります。何よりご本人が尿が出なくてつらくなったりします。非常にコモンなプロブレムですがなかなかよい解決策がないのが現状です。今回、勉強会で少し調べてみました。

 

 <尿道カテーテル閉塞の予防について>

•尿道カテーテル閉塞の頻度は?

home careを受けている尿道カテーテル留置患者(43例)の74%が8か月間で閉塞のエピソードあり。(Wildeら,2010)

202例を対象とした横断研究で、2か月間で24%の閉塞あり、閉塞は有意にUTIと関連(2.29倍)。(Wildeら,2013)

•尿道カテーテル閉塞の予防について

★Sticklerらのレビュー(Spinal Cord,2010)

ウレアーゼ産生菌によりpHがあがり、結晶化が起こされ、一方で細菌のバイオフィルムが形成される。P.mirabillisの感染がこの過程の主因となっている。

カテーテル閉塞する62%で膀胱結石が発見され、そのうち90%にP.mirabillis感染が起こっていた。

P.mirabillis感染のあるカテーテル留置者の閉塞を決める要因は尿pH。健康なボランティアを対象とした研究では水分量を増やしたり、クエン酸摂取でpHをコントロールすることができた。

 抗菌薬投与によるP.mirabillisの早期の除去はカテーテル閉塞を減らすかもしれない。しかし慢性的に閉塞し、結石形成している患者には効果は見込めないかもしれない。クエン酸飲料や飲水量増量は閉塞をコントロールするのに有用かもしれない・・・と結論。

 

 

★Hagen Sらのシステマティックレビュー(Cochrane,2010)

 

膀胱洗浄のカテーテル閉塞に対する効果について検討⇒5つのRCTがあるがどれも質が低く、有効かどうかの結論は得られない。(感染は膀胱洗浄によって増加してはいなかった)

 

★CDCガイドライン2009

 

シリコンは、頻回に閉塞がある長期カテーテル留置患者での痂皮形成の危険性を軽減するために他のカテーテル材料より望ましいかもしれない(カテゴリーⅡ)←カテーテル痂皮形成の減少における低質なエビデンスによる

 

★ Wildeらの報告(Nurs Res, 2015)

 

18歳以上でカテーテル関連の問題(UTIや閉塞)が起こった患者202例を対象としたRCT。Nsが3回の訪問と1回の電話を行うことにより、UTIや閉塞のイベントを減らせるかを検証。

 

⇒6か月以内の閉塞を有意に減少(12ヶ月では有意差なし、またUTI発症は有意差なし、緊急訪問の頻度は減少)

 

 現時点で、臨床的に意義があるアウトカム(pHどうこうではなく、閉塞の頻度を減らせるかなど)で明らかになっていることはまだまだ少ないようです。現状ではシリコンでなければシリコンにしたり、水分量を増やすよう指導したり、それでもだめならためしにシナールを内服してもらったりとしています。あとは状況に応じては膀胱洗浄をやってもらうことがあります。一時期、膀胱洗浄がだいぶ悪とされていた時がありましたが、有効の限界性を知ったうえで、カテーテル閉塞予防に対して行うことを否定する根拠は現時点ではないかとは思います。あと、個人的には、介護者へ管理方法を確認したりすることは重要かなと感じています。これは感覚的なものではありますが、介護疲労などが介護者にあると余計に閉塞しやすくなることが多いように思っています。まあ、原因なのか結果なのかはわからないのですが・・・。在宅でどのように尿道カテーテルやバックの管理を行ってもらうかも重要な視点であることは確かですよね。そういう意味では最後の研究は面白いなと感じました。