在宅や施設から入院する認知症患者さんを病棟でどのように看取っていくかの答えは当然ながら明確なものはありません。同様の患者さんを在宅や施設で看取る場合とはまた違った患者さんの状況や家族の心情があります。そのようななかで、少量の点滴と負担にならない範囲での経口摂取でお看取りすることもあります。今回は、「認知症終末期患者における点滴の意義」について調べてみました。
<認知症終末期患者における点滴の意義とは?>
・医療者の視点からみた認知症終末期の点滴の意義とは?
★Aitaの報告(BMC Geriatrics 2007)
認知症末期患者への人工的栄養に対する医師の態度について調査
医師30名に対するインタビュー(質的研究)⇒「点滴ボトルの下がった風景」が家族と医療・介護スタッフの情緒をケアする?
★会田らの報告(日本老年医学会雑誌 2012)
認知症末期・経口摂取困難な患者のシナリオによる日本老年医学会の医師会員1554名への質問紙調査
⇒PEG21%・経鼻胃管13%・末梢51%
末梢と答えた医師にその意義について質問
→「家族の心理的負担軽減」7割、「医療者の心理的負担軽減」6割、「医学的に必要なもの」4割弱
「医療スタッフと家族が十分に話あった結果であれば点滴だけを行って自然経過に委ねるのは?」回答者の9割が可能
★ Valentiti Eらの報告(J Palliat Med 2014)
イタリアの臨床医288名・看護師763名を対象に、進行期の認知症を伴う終末期患者における人工栄養・輸液についての考えを質問紙で調査。
→輸液を施行することに対する同意は73%と、人工栄養の48%と比較して高かった。緩和ケアでトレーニングをうけた人よりも高齢者病棟で勤務している人の方が輸液施行に対する同意はより低かった。
★van Wigcheren PTらの報告(Aging Clin Exp Res 2007)
オランダのナーシングホームの臨床医1055名を対象とした質問紙による調査。(回収率77%)認知症と伴うナーシングホームの患者が経口摂取不良となった際に、人工栄養や輸液を行っているかを調査。
→39%の医師が1年間のうちに行っていた。ほとんどは皮下輸液であった。意思決定に際しては、患者の身体状態・脱水補正により期待できる結果・(推定される)患者の希望などが重要視されていた。また、患者の家族や看護師とともに意思決定を行っていた。
これらの結果をみると、多少の違いはあるが、日本に限らず他国においても認知症終末期において末梢点滴を行うことは、医療者においてはある程度同意されていることであると言えるか。その背景には家族や医療者の心理的負担軽減も関係しているか。
・患者側の視点ではどうか?
★松下らの報告(日老医誌1999)
高齢外来患者562名を対象とした研究⇒自己決定不能状態になった時の水分栄養補給:胃ろう2.7%、経鼻胃管6.0%、点滴39%、何もしない42%
★Yamaguchi Yらの報告(Geriatr Gerontol Int 2015)
75歳以上の認知症のない高齢者を対象としたインタビュー・質問紙の調査研究。(インタビュー群は入院患者99例、質問紙群は外来患者99例)
→参加者は対象者の76.8%。終末期において、インタビュー群は50%が、質問紙群は65.6%が、終末期において輸液を希望しなかった。
患者側は医療者よりは末梢点滴望んでいない?それでも3~5割は希望している。
・医学的なメリット・デメリットはどうか?
がん患者では多く検証されているが、認知症終末期患者においての検証は乏しい。
★津島の報告(日本プライマリケア連合学会誌 2016)
経口摂取が不可能で終末期に皮下輸液を行った36例を後ろ向きに調査。輸液開始より死亡までの日数は中央値31日、平均34.9日であった。開始時の低アルブミン血症がより短い予後と関連していた。
輸液自体が生存期間にどの程度影響するのか、苦痛軽減につながるのか、逆に苦痛を増やすのかなどは明らかではない
このテーマに関しては、医療者がどのように実践しているのか、その背景にはどのようなことがあるのかを検証している段階なのだなと感じました。実際に家族に情報提供するにあたっては、その医学的なメリット・デメリットの情報提供も必要であると思いますし、そのなかでどのように患者さんの尊厳や家族の心情を重視していくかなのかなとは思います。現時点では個別に患者さんにとってどうなのか、家族の心情はどうなのか、これらを考慮して決断することが中心となってしまうのかなと思います。まあ、それが重要なのでしょうけど・・・。