東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

抗菌薬の皮下投与について

2017-07-26 21:09:24 | カンファレンスの話題

 

以前、セフトリアキソンの皮下投与について調べたことがあり、このブログにものせさせていただきました。http://blog.goo.ne.jp/higashisaitama/e/062165a294a2b7781f6c9021e563e0ed

最近、抗菌薬の皮下投与(他の薬剤で)がカンファレンスで話題となったので、ここ最近の論文を、追加で調べてみました。

 

Age Ageing. 2017 Jan 8;46(1):151-155. doi: 10.1093/ageing/afw143.

Tolerance of subcutaneously administered antibiotics: a French national prospective study.

抗菌薬の皮下投与に対する耐性を調査した多施設前向きの観察研究。

フランスの50病院の感染症科もしくは老年科の医師66名が研究参加を承認。1日以上の抗菌薬皮下投与を行った患者を対象。

⇒219例の患者(平均年齢83歳)が対象となり、うちセフトリアキソン163例(74.4%)、エルタペネム30例(13.7%)と多かった。皮下投与の理由は静脈路確保が困難であることが65.3%と主な理由であった。50例(22.8%)に少なくとも1つのadverse effect(AE)を認めた。2例はそれにより入院期間が延長となっており、6例が皮下投与中止となった。AEに関連していた因子は、抗菌薬のクラス(特にテイコプラニン)とrigid catheterの使用であった。8割の患者は、問題なく皮下投与が行えて、臨床的に回復していた。

結論:皮下投与は静脈投与の代替手段として安全であり、効果や薬物動態に関する研究が必要である。

 

Med Mal Infect. 2014 Jun;44(6):275-80. doi: 10.1016/j.medmal.2014.03.007. Epub 2014 Jun 2.

Subcutaneous and intravenous ceftriaxone administration in patients more than 75 years of age.

75歳以上の患者を対象にセフトリアキソンの静脈投与と皮下投与を比較した後ろ向き研究。⇒148例の患者が対象となり、110例が静脈投与・38例が皮下投与であった。平均年齢は84.7歳であり、皮下投与群が有意に高齢であった(86.9歳vs83.9歳)。皮下投与群は有意に認知症が多く、寝たきり患者が多かった。培養結果・感染巣・死亡率・治癒に関しては有意差を認めなかった。

結論:セフトリアキソンの皮下投与は脆弱な高齢者でより使用されていた。治療の失敗や死亡率とは関連していなかった。

 

Clin Microbiol Infect. 2015 Apr;21(4):370.e1-3. doi: 10.1016/j.cmi.2014.11.017. Epub 2014 Nov 23.

Subcutaneously administered antibiotics: a national survey of current practice from the French Infectious Diseases (SPILF) and Geriatric Medicine (SFGG) society networks.

フランスの感染症科もしくは老年科の医師を対象に行った、抗菌薬の皮下投与に関するアンケート調査。⇒367人(96.1%)が抗菌薬の皮下投与の経験があった。そのなかで、1人を除いてセフトリアキソンの皮下投与を行っており、エルタペネム・テイコプラニン・アミノグリコシド・アモキシリンの皮下投与は、それぞれ33.2%・39.2%・35.1%・15.3%が行っていた。皮下投与は経口・静脈などの投与が行えないときに、特に緩和ケアの間に行われていた。痛み・皮膚壊死・効果の欠如が主な副作用で、それぞれ70.8%・12.8%・19.9%の医師が経験していた。

 

 それぞれ他国での研究にはなりますが、抗菌薬の皮下投与を結構多くの医師が行っているのだなと思いましたし、まだまだ研究がないものの(緩和ケアが中心となる)高齢者が増えるなかで、少しずつ注目されている部分なのかなと感じました。さらに研究がすすみ、もう少し自信をもって抗菌薬の皮下投与ができるようになってくるといいですね。


がん終末期におけるせん妄について

2017-07-11 21:50:07 | 勉強会

 最近、がん終末期の患者さんでせん妄の症状を呈し、それを苦痛に感じる方が多かったので、知識のアップデートをはかろうとちょっと文献検索してみました。いくつか興味深い論文があったので紹介したいと思います。

 

Oncologist. 2015 Dec;20(12):1425-31. doi: 10.1634/theoncologist.2015-0115. Epub 2015 Sep 28.

The Frequency, Characteristics, and Outcomes Among Cancer Patients With Delirium Admitted to an Acute Palliative Care Unit.

 進行がん患者のせん妄に関して、その頻度・経過・標準的なマネージメントを行ったうえでのアウトカムについてはほとんど研究がなされていないために、それを調査した研究。Acute palliative care unit(APCU)に入院したがん患者556例を対象に電子カルテのレビューを行った。せん妄の診断はmemorial delirium assessment scale(MDAS)score 7点以上。

⇒入院時にせん妄があった患者は229例(41.2%)、入院後にせん妄となった患者は94例(16.9%)であった。介入により、せん妄が解決した患者は全体では26%(入院時からせん妄の場合は30%)。せん妄の患者の半数は死亡退院となっていた。入院後にせん妄となった患者は、入院時にせん妄であった患者と比較して、有意に予後が悪く、せん妄からの回復も乏しかった。

 文献の結論:APCUに入院した患者の半数以上がせん妄をきたしており、そのうち3割程度が改善していた。せん妄の診断は、予後不良と関連していた。

 

感想:後ろ向きの調査ではありますが、貴重なデータなのだと思います。介入を行っても必ずしも改善しないことや、せん妄自体が予後不良に関連していることなどは、家族へ説明するうえでも重要なことかと思います。今までも一般的には言われていることであり、実際に上記のような説明を行うことも多かったですが、それをデータとして出した研究なのだと思います。

 

 JAMA Intern Med. 2017 Jan 1;177(1):34-42. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.7491.

Efficacy of Oral Risperidone, Haloperidol, or Placebo for Symptoms of Delirium Among Patients in Palliative Care: A Randomized Clinical Trial.

  緩和ケアサービスを受けている入院患者を対象とした、せん妄に対する薬物療法に関する2重盲検のRCT。

対象は、治癒困難な進行性の疾患をもったホスピス・緩和ケアの入院患者で、MDAS score 7点以上・苦痛を伴うせん妄症状の存在・delirium symptom score1点以上の患者(9割ががん患者)。リスペリドン群・ハロペロドール群・プラセボ群に分けた2重盲検のRCT。ドーズは年齢によってかえ、治療効果や副作用によってドーズの増減を行った。アウトカムは3日目のdelirium symptom score、その他に錐体外路症状や生存期間。

⇒247例がITT解析された(リスペリドン群82例・ハロペロドール群81例・プラセボ群84例)。リスペリドン群とハロペリドール群は、プラセボ群と比較して有意にdelirium symptom scoreが高かった。また両群ともプラセボ群と比較して有意に錐体外路症状が多かった。またハロペロドール群はプラセボ群と比較して有意に生存期間が短かった(リスペリドン群とは有意差なし)。

 文献の結論:軽度~中等度のせん妄症状に対しては、抗精神病薬を投与するのではなく、早急な対処や支持的な介入が重要であろう。

 

 感想:インパクトがある論文かとは思います。ただし、この論文に関しては個人的にはやや違和感があります。実際には改善可能なせん妄の原因を検索したり、その中で調整できる部分は調整するなど多面的なアプローチを行いながら、必要に応じて少量より薬剤を使うというのが実臨床なのではないかと思います。論文の中身を見る限りでは薬剤投与以外の調整や介入がどのように行われていたかは不明でした。最初から薬剤ありきというのはやや違和感を感じます。この結果で、がんなどの終末期患者のせん妄に対して抗精神病薬は使わないという結論には個人的には達しませんでした。ただし、せん妄を抗精神病薬のみで解決しようというような考えは持ってはいけないとの再認識はできました。

 

 Arch Intern Med. 2000 Mar 27;160(6):786-94.

Occurrence, causes, and outcome of delirium in patients with advanced cancer: a prospective study.

 上記論文を読んだ後に、あらためてせん妄の可逆的な原因について、文献的な部分で調べたところこの論文にあたりました。教科書に書いてあることの根拠にもなっているのかな?

 APCUに入院した患者104例を対象に前向きに研究。せん妄の頻度や原因・転帰について調査。

⇒44例(42%)に入院時せん妄を認めた。入院後に27例に新たなせん妄を認めた。71例の患者の94エピソードのうち46エピソード(49%)が可逆性であった。単変量解析でpsychoactive medications・predominantly opioids・dehydrationが可逆性と有意に関連していた。Hypoxic encephalopathy・metabolic factorsが不可逆性と有意に関連していた。

感想:脱水補正やオピオイドの調整、せん妄をきたすような薬剤の中止など可逆的なものに対して介入していくことはやはり重要なのだと再認識しました。