東埼玉病院 総合診療科ブログ

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抗血小板薬(低用量アスピリン)内服患者における上部消化管出血・潰瘍予防について(PPIなど酸分泌抑制薬使用の観点から)

2017-01-24 21:48:49 | 勉強会

 低用量アスピリンを内服している患者で酸分泌抑制薬を内服している人もいれば、していない人もいたり・・・。 全員にPPIを処方するべきなのか、リスクが高い人とかに処方するのがよいのかなど知識としてあいまいであったため今回少し調べてみました。

 

■低用量アスピリン内服患者の上部消化管出血・潰瘍予防に対して、PPIは有効なのか?

★消化管潰瘍診療ガイドライン2015

低用量アスピリンによる上部消化管出血の発生率・有病率の抑制には酸分泌抑制が有効であるので投与するよう推奨する。(エビデンスレベルA)

1つのコホート・2つのケールコントロール研究とメタ分析をもとにしている。これらに含まれていなかった報告を追加で下記に。

★Tamura Aらの報告(QJM.2011)

前向き観察研究。少なくとも3か月間は低用量アスピリンを内服していて、無症状の患者150例を対象に、内視鏡を施行。

⇒4%に潰瘍、34%にびらんを認めた。多変量解析でPPIの内服が有意な抑制因子であった。(OR 0.35, 95% CI 0.14-0.86, P=0.02)

Mo Cらのメタ分析(World J Gastroenterol. 2015)

10個のRCTの8780例を評価。

⇒PPI内服群は、コントロール群と比較して、潰瘍(OR = 0.16; 95%CI: 0.12-0.23)・出血(OR = 0.27; 95%CI: 0.16-0.43)のリスクを有意に下げる。心血管イベントの上昇は認めなった。また、PPIがH2ブロッカーよりも潰瘍・出血の予防に優れていた。

(NNTを計算してみると潰瘍でNNT27、出血でNNT71)

 

■抗血小板薬を2剤併用(低用量アスピリン+クロピドグレル)している場合はどうなのか?

★Bhatt DLらの報告(N Engl J Med 2010) COGENT Trial

 抗血小板2剤併用時のPPIの有効性を検証したはじめてのRCT。3873例(3761例で分析)を対象に180日間の追跡。

⇒出血・症状のある潰瘍やびらん・閉塞・穿孔の複合エンドポイント(OR 0.34, 95% CI 0.18-0.63, P<0.001)や顕性出血(OR 0.13, 95% CI 0.03-0.56, P=0.001)はPPI(omeprazole)内服群で有意に少なかった。また、PPI群とプラセボ群で心血管イベントに有意差は認めなかった(OR 0.99, 95% CI 0.68-1.44, P=0.96)。PPI群では下痢が増えたが、その他の有害事象は有意差がなかった。

 

 ここまでをみてみると、低用量アスピリン内服患者(2剤併用患者も)において、上部消化管出血・潰瘍予防にPPIが有用であることは間違いないようです。MoCらのメタ分析のNNTもなかなか影響がある数値と言えます。ちなみにちょこちょこ心血管イベントの増加がないかの検証がなされていますが、これは2000年代後半にPPIが心血管イベントを増加させるとのコホート研究結果がいくつか報告されたためのようです(クロピドグレルの作用を減弱させる?)。最近は上記のようにそれに対しては否定的な報告も多いようですが。

さて、しかし全員にPPIを出すのがいいのでしょうか?費用対効果はどうなのでしょう。またH2ブロッカーと比較してどうなのでしょう? 

 

■費用対効果はどうなのか?

Takabayashi Nらの報告(Pharmacoeconomics. 2015)

脳梗塞の再発予防で低用量アスピリンを内服している患者を対象として費用対効果について検討。⇒アスピリン単独よりも、PPI併用しているほうが費用対効果に優れていた。

Saini SDらの報告(Aliment Pharmacol Ther. 2011)

 心血管イベントの2次予防でアスピリンを内服している患者を対象として費用対効果について検討。⇒アスピリン単独よりも、PPI併用しているほうが費用対効果に優れていた。

(消化管イベント以外にも、アスピリン内服のアドヒアランスがあがることにより心血管イベント再発の抑制ともなっていた)

 

■PPIとH2ブロッカーの比較

Mo Cらのメタ分析(PLoS One.2015)

9個のRCTの1047例を対象として分析。

⇒PPIがH2ブロッカーと比較して、潰瘍・びらん(OR=0.28, 95% confidence interval (CI): 0.16-0.50]、出血(OR=0.28, 95% CI: 0.14-0.59)ともに有意に少なかった。

Chan FKらの報告(Gastroenterology.2017)

香港と日本で行われた。低用量アスピリンを内服していて、内視鏡で潰瘍からの出血が確認された患者270例を対象としたRCT。潰瘍治療の終了後にピロリ菌陰性を確認したのち、PPI群(rabeprazole, 20 mg; n = 138) とH2ブロッカー群(famotidine, 40 mg; n = 132)に分けて、12か月後までフォロー。評価は2か月毎に内視鏡で行った。消化管出血の再発、出血と潰瘍の複合エンドポイントをアウトカムとした。

⇒両群に有意差はなし。

(PPI群がわずかにアウトカム発生の割合は少なかったが有意差はなし)

 

 今回調べてみて、いろいろと自分の中で整理がされました。個人的には、費用対効果の研究で、PPIを内服することによりアスピリンのアドヒアランスがあがり心血管イベントが減っていたというのは面白いなと思いました。


がん性疼痛に対する鎮痛補助薬の使い方

2017-01-07 15:02:20 | 勉強会
 11月に短期間の緩和ケア研修に行っていた斎藤先生が、その時の臨床経験をもとに文献的な考察も加えてまとめてくれました。今日はその内容をのせたいと思います。
 
 
<がん性疼痛に対する鎮痛補助薬の使い方>
 
◎抗けいれん薬 
作用としてはガバペン®>リリカ®
鎮痛補助薬の中では最もエビデンスが証明されていると考えられている
 
1)プレガバリン(リリカ®)
Mishraらによる無作為化比較試験:実薬群で有意に疼痛減少、特に異常感覚に有効
開始量:25〜50mg 維持量:50〜600mg
 
2)ガバペンチン(ガバペン®)
Caraceniらによる無作為化比較試験:オピオイドとの併用で、オピオイド単独群に比べ著明に疼痛改善が認められた
末梢神経障害によく効く
開始量:若年者200mg 高齢者100mg 効果あれば少しずつ増量
※200mgで効く人、2400mg(max dose)で効く人があり読めない薬
 
3)クロナゼパム(リボトリール®)
神経障害性疼痛+『気持ちの辛さ』がある場合、気持ちもあげてくれる
 
◎抗うつ薬 
『じんじんする灼熱感』などに有効
 
4)三環系抗うつ薬
Mercadanteらによる無作為化クロスオーバー試験:オピオイドとの併用でオピオイド単独群に比べ著明な疼痛改善が認められた
アミトリプチリン(トリプタノール®)10mgより開始
ノルトリプチリン(ノリトレン®)10mg
 
5)四環系抗うつ薬
ミアンセリン(テトラミド®)若年者10mg 高齢者5mg
鎮痛補助薬以外で用いることが多い 深睡眠増加作用あり、睡眠薬無効の不眠や高齢者のせん妄予防にも効果的
 
6)SSRI/SNRI
がん浸潤による神経障害性疼痛を認める患者に対する質の高い研究論文はないが、非がん患者の神経障害性疼痛ではある程度の鎮痛効果があることが確認されている
デュロキセチン(サインバルタ®) 1C1×朝→2C2×へ増量
『何となく嫌な感覚』に効果あり 少しドキドキする程度で副作用少ない
 
◎抗NMDA受容体拮抗薬
7)ケタミン(ケタラール®)
がんによる神経障害性疼痛については、効果が否定的な無作為化比較試験もあるが、臨床的な効果は強いと考えられている
せん妄になりやすく、鎮静とともに使用することが多い
 
8)セロクラール®
特に副作用なく使用できる 6錠〜9錠分3で使用
 
◎抗不整脈薬
Ellemannらによる無作為化比較試験:神経障害性疼痛に対する有効率がプラセボに比べ有意に高い
 
9)メキシチール® 『腹腔神経叢由来の腹壁や腹膜の痛み』に効果がある
10)タンボコール® 『じんじんした手足のしびれ』に効果がある
 
■オピオイドの中では、神経障害性疼痛にオキシコドンが有効と言われている
Controlled-release oxycodone relieves neuropathic pain: a randomized controlled trial in painful diabetic neuropathy Watson CPN. et alPain 105(2003):71-78
 
 鎮痛補助薬はその患者さんにあうもの試行錯誤しながら使うことが多いかと思いますが、どの薬から使えばよいかなと迷うことも多いかと思います。経験がものをいうところでもあると思われ、個人的には非常に参考になりまいした。