ある緩和ケアのWEB勉強会に参加した際に、心不全の緩和ケアのトピックスの1つとしてフロセミドの皮下注の話が出てきました。
フロセミドの皮下注がある程度心不全に効果があるようであれば、日常診療の選択肢の幅が広がるなあと思い、今回調べてみました。
- Arun K Vermaらの報告(Ann Pharmacother 2004)
12名の健康なボランティアを対象とした2重盲検のクロスオーバーRCT
フロセミド20㎎皮下注群とプラセボ群で尿量を比較
(飲水量と食事量はコントロールされた)
尿量やNa利尿は、皮下注群で有意に多かった
結論:フロセミドの経口・静注が望ましくない時、利用できない時に選択肢となりえる。他の様々な対象での確認が必要である。
- Hannah Zachariasらの報告(Palliat Med 2011)
32名の進行した心不全の患者に対してフロセミド持続皮下注を行った43のエピソードを後ろ向きにレビュー
28エピソードは入院回避のため、15エピソードは死にゆく人の症状予防のため
26/28で入院回避でき、20/28で体重減少を認めた(中央値-5.6kg)
15エピソード全てで症状コントロールできた
フロセミドの量は40~250㎎/日
投与日数は10.5日(中央値)
10/43で留置部の反応があったが2例を除いて軽度であった
結論:進行した心不全患者に対してフロセミドの持続皮下注は入院回避や体重減少に関して効果があるのではないか
- Zatarain-Nicolasらの報告(Rev Esp Cardiol 2013)
非代償性心不全患者24名にフロセミド皮下注を行った41のエピソードを解析(外来セッティング)
治療の効果は体重減少で評価した
患者の平均年齢は75歳、NYHAⅢ~Ⅳが93%
皮下注の平均量は146㎎/日、投与日数は平均9日
介入後に、有意に体重が減少したが、Cre、Na、Kの有意な変化はなかった
患者の61%がNYHAのclassが改善、36%が変化なく、2%が悪化
結論:フロセミド持続皮下注は、忍容性があり、入院を回避するためや医療コスト削減に有用であると考えられる。
- Domenic A Sicaらの報告 (JACC Basic Transl Sci. 2018)
フロセミドのPHを低くして(9程度⇒7.4)、皮膚への刺激を少なくして行った2つの調査、経口でフロセミド内服している心不全患者を対象
①10名を対象としたクロスオーバーRCT
経口群(80㎎内服)と皮下注群(最初30㎎/h、その後4hで50㎎:計80㎎)で薬物動態を調査
⇒皮下注群は30分以内に治療域に達し、5h維持
②16名を対象としたクロスオーバーRCT
静注群(最初40㎎、2h後に40㎎)と皮下注群(最初30㎎/h、その後4hで50㎎)で薬物動態と尿量、Na利尿を調査
⇒皮下注群は30分以内に治療域に達し、5h維持
絶対的バイオアベイラビリティは99.65%であった
尿量、Na利尿は静注群と同様の効果であった
①②とも局所の皮膚反応も問題となる事象はなかった
- Nisha A Gilotraらの報告(JACC Heart Fail 2018)
心不全が増悪している外来患者を対象としたRCT
19例が静注群(IV群)、21例が皮下注群(SC群)
IV群:平均量123㎎(±47㎎)、SC群:5hで80㎎(固定)
1次アウトカム:6hの尿量は有意差なし
(IV群:平均1425ml、SC群1350ml)
2次アウトカム:平均の体重減少は有意差なし
(IV群:平均-1.5±1.1kg、SC群-1.5±1.2kg)
Na利尿はSC群で多い
結論:フロセミドの静注と皮下注で尿量の有意差は認めなかった。自宅での治療として許容されるかもしれないが、さらなる調査が必要。
まとめ
- フロセミド皮下注の効果は望めそうである。
- しかし、フロセミド皮下注が静注と同等の効果があるかを判断するには、エビデンスはまだ不足している。
- 静注で治療可能な状況のときは、静注での治療が望ましいと思われる。
- ただし、静注での治療が困難な場合(末梢ルート困難であるがCV挿入するような状況ではないなど)や自宅での治療を希望した場合には選択肢となりえるのではないか。
- (PH調整されていない場合は)皮下注刺入部の皮膚反応には注意が必要。