東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

慢性心不全の患者における体重管理(朝の勉強会)

2015-07-07 20:40:11 | 勉強会
 在宅や施設などで慢性心不全の患者さんの管理を行うことも多いですが、その際には、当然、本人の症状や身体所見などを総合的に判断して、利尿剤などの薬剤調整を行います。その中で、1つの客観的指標として体重を参考にすることも多いです。体重の増減なども参考にしながら利尿剤の量を調整したりします。(大きな病院のようにBNPの結果がすぐに出たりはしなですしね)
 今回は、そのような診療のなか、実際に体重がどの程度増えないように管理するのがよいのかを勉強会で調べてみました。結論から言うと、あまり明確な答えはないのですが・・・。このあたりは文献的には心不全のtelemonitoringに関連したものがやはり多かったです。

★ガイドラインでは・・・
①慢性心不全治療ガイドライン2011
 一般管理:体重管理(毎日) classⅠ・・・具体的な数値設定なし
②ESCガイドライン
 2〜3日で2~3㎏の体重増加は介入要(経験則)

WISH研究(2012):ガイドラインに基づいて体重増加でtelemonitoring⇒RCTで有効性なし
Zhangらの報告(2009 Eur J Heart Fail):アウトカムを心不全入院として、ガイドライン的な体重増加指標である1.35kg/日か2.25kg/3日の体重増加を基準とした場合、感度低い。

 ガイドラインベースでの体重管理はいまひとつ?(感度低い) 


★その他の報告
Chaudhy SIらの報告(2007 Circulation)
Home monitoring systemに登録しているCHF患者が対象(90秒以上自分で立っていられる患者)。入院となった134例とコントロール群134例での症例対象研究。
⇒体重増加 0.9~2.25kg/7日:AOR 2.77
      2.26~4.5kg/7日:AOR 4.46  
         4.5kg/7日:AOR 7.65  (0.9kg/7日未満の体重増加と比較して)

★Ledwidgeらの報告(2013 Eur J Heart Fail)
リスクが比較的高い(最近の入院・外来での利尿剤IVあり、薬剤アドヒアランス低い、BNP>300)87例対象。入院もしくは利尿剤の調整が必要となる緊急受診をイベントありとした。
イベントがあった3/4は、2kg/7日以上の体重増加あり。

 これらの結果をみると、2kg/7日以上の体重増加あたりからは利尿剤の調整したほうがよいかなと思いましたが、なんとも言えませんねー。当然、症状や他の身体所見をあわせてというところかとは思いますが・・・。予想以上に明確なものがなく、それは意外でした。



Relocation stressについて(朝の勉強会)

2015-07-06 01:57:44 | 勉強会
 一昨日の勉強会での内容をアップします。Relocation stressについて、外山先生がやってくれました。ちなみにリロケーション・ダメージという言葉は、英語ではないそうです。療養の場所が変わることによる高齢者への影響に関してよく使っていた言葉だったので意外でした。


 <Relocation stress について>
★Relocation stress syndrome:「別の環境に移ることの結果生じる生理的精神的な混乱状態」(Carpenito)。NANDA看護診断名としても採用。
Major characteristics(80-100%に出現):孤独、不安、抑うつ
Minor characteristics(50-79%):食習慣、睡眠パターンの変化、依存、危機感・不信の表出、胃腸障害、言語的な要求の増加、焦燥、悲嘆、引きこも                りなど

★リロケーションの悪影響出現と関連する因子・システマティックレビュー(Jolley et al, Age and Ageing 2011)
個人因子:男性、高齢、認知症、うつ病、不安、引きこもり、退行、視覚・聴覚障害、モビリティ低下、失禁、マルチプロブレム
状況因子:突然もしくは無計画の転居、医学的・心理社会的ニーズへの対応不良、つなぎの住居を経由する複数回転居、ケアの不連続、居住者や家族と      の相談の欠如、権利と選択肢についての情報提供不足、転居後の3か月間

★認知機能の保たれた高齢者のリロケーション・マネジメントに関するガイドライン(Heartz et al, J Gerontol Nurs 2007)
リスク因子:高齢(とくに80以上)、女性、低い社会経済状態(SES)、独居、賃貸居住、地方居住、在宅支援サービスが制限、世帯維持が重荷、自身や配偶者に慢性疾患あり、ポリファーマシー、最近の入院や施設入所、喫煙、運動不足、ADL・IADL低下あるが援助がない、視覚聴覚などの感覚障害、家族介護者などのソーシャルサポート不足(死別や離婚含む)
・・・・・原因?結果? 概念としてはまだ未成熟といえるか?

★高齢者において、転居は死亡率の上昇と関連(Laughlin et al, J Gerontol Nurs 2007):
突然のナーシングホーム閉鎖に伴い、リロケーションした高齢者とリロケーションを経験しないホーム入居者の比較。一年後の死亡数は転居+:38/83、転居-:17/90→転居そのもののみが死亡リスクと関連
★終末期患者は転居によるストレスにさらされるリスクがより高く、生命予後は新居に順応するまでに要する時間より短い(Porock, Palliat Med.1997)

★一般住宅に住む80代高齢者の、施設でない一般住宅への転居 と関連する因子(Grambom et al, Eur J Ageing 2014):
①清掃行為が自立している、②Perceived Functional Independenceが高い、③もともと戸建居住(集合住宅でなく)



 今回はリロケーションによる悪影響に関連するリスク因子などを中心にしらべてくれたようですが、実際にどのようにそのような悪影響を少なくしていくかの検討もあるようで、今後また勉強会などでやってもらいたいなあと思いましたし、やっていただけるとのことでした。実際に、在宅の患者さんで、療養の場について患者さんやご家族とお話しするなかで、今後施設も考慮している場合には入所もできる施設へのデイやショートをすすめたりすることもあります。急な入所などをきっかけに体調を崩したり、入院したりする方も時に経験するからです。「ならし」は大事だなと感じています。今回の勉強会では、リスク因子は多すぎるなと感じましたが、虚弱高齢者・認知症がある患者さんに関しては常にそのようなリスクがあるということかなと思いました。
やはり、そのような患者さんに関しては、折をみて療養の場について家族含めて相談していき、今後を見据えた在宅サービスの調整をしていくことが重要なのかなと感じました。今後の療養の場の話をどのようなタイミングで診療の場でしていくかも重要な課題ですよね。

高血糖性高浸透圧昏睡(HHS)と経腸栄養

2015-07-02 20:19:56 | その他
最近、ある経腸栄養の患者さんで、血糖コントロールが少し難しいなあと感じることがありました。経腸栄養の患者さんは何かのきっかけで血糖が高くなりはじめると、そのままさらにコントロールが悪化することが多いなと感じます。
 過去にも、感染や脱水などをきっかけにあっという間にHHSとなってしまった経腸栄養の患者さんを何人か経験したことがあります。今日は、「高血糖性高浸透圧昏睡(HHS)と経腸栄養」というお題で書こうと思います。

<高血糖性高浸透圧昏睡(HHS)と経腸栄養>
★過去の報告から・・・
①2008年垣羽らの報告
 重症高血糖症例(DKAorHHS)20例を検討
 HHS10例のうち8例は経腸栄養をしていた(10例全例で感染症が誘因)
 全例HHSの状態からは脱したが、4例はその後の合併症で死亡(4例とも経腸栄養)
②2006年田中らの報告
 HHS5例⇒3例はIVHor経腸栄養(2例は今までDM既往なし、1例はDMコントロール良好)
③2008年Arinzonらの報告
 施設で経腸栄養をうけていた患者の47%がHbA1c7%以上
 そのうち44%が今までDMと診断されていなかった。

★病態⇒軽症のDMであっても高カロリーの流動物の反復投与により比較的容易に高血糖になりやすい。口渇など自覚症状乏しく、飲水が制限されているため糖毒性発現しやすい。


 経験的にも、経腸栄養の患者さんでは、表面的にはあまり変わりなくて気がついたら大変な高血糖になっていた、HHSになっていたなんてことを経験することも時々あります。気をつけないといけないですね・・・。
  
 「DM既往なし、もしくはDMコントロール悪くなくても、経腸栄養患者が“何か調子悪い”時はHHSの可能性も念頭に」