今朝はだいぶ涼しくなり、長かった今年の夏もようやく終わろうとしているようです。9月になっても暑い日が続き、今週のニュースによれば、北海道では海水温が上がり、鮭(カラフトマス)が激減して、かわりに本来はほとどいいないマグロやマンボウが、網にかかってくるとのことです。知床では、川を遡上する鮭も少なく、ヒグマが食べものがなくて、人里に出没しているそうです。今年の9月は、本当に異常でした。耳鼻咽喉科の病気はたいてい暑いときは減りますが、唯一鼻出血だけは増えます。今週も鼻血で受診された方が、何人もいらっしゃいました。
鼻出血の大多数は、あまり心配のいらないものです。とくに幼稚園から小学校低学年ぐらいまでは、とくに夏、のぼせやすい季節には、多いものです。この場合は、たいていは、キーゼルバッハ部位と呼ばれる、鼻中隔(左右の鼻腔を分けている、鼻の真ん中の壁)の、鼻の入り口に近い方の細い血管が集まっているところからの出血です。ここに浅い小さな傷ができただけでも、鼻の入り口に近い刺激を受けやすい場所だけに、出血をくり返しやすいですが、通常は出てもすぐ止まります。
出血してしまったら、鼻翼(鼻の入り口の周り)を指で上から圧迫すること。鼻をつまむようにしてもいいです。ときどきもっと上の方の固い鼻骨の上から押さえている方がいますが、それでは圧迫になりません。姿勢は座って下向きかげんの方が良いです。上を向いていると、鼻血が前に出てこないので、一見よいようですが、実際には鼻の奥で血が黒いゼリーのように固まってしまったり、のどに流れて、胃まで飲み込んでしまったりして、よくありません。鼻の中にティッシュなどを詰めるのも、止まるのには効果があるかも知れませんが、取り出すときにまた傷が開いてしまうこともあるので、良いと言えません。
鼻血が出やすいときの予防は、のぼせないこと、さわらないことです。入浴はシャワーだけにして湯船につからないようにする、顔を洗うときも普通に洗ったのでは鼻を動かして刺激してしまうので、そっと拭くだけにするといった、注意が必要です。粘膜の小さな傷が完全の治って粘膜が正常になるのに1週間はかかりますので、その間鼻血がまた出てしまうと、いつまでたっても血が出やすい状態が続きます。あまり続く場合は、自然に溶けて抜去する必要の無いタイプの止血用スポンジを、傷に当てることもあります。
大人では、こどものようにすぐ鼻血は出ませんので、鼻出血には何が原因があることが多いです。キーゼルバッハ部位からの出血であったとしても、小さな血管の壁が膨らんで、血管壁もその表面の粘膜も薄くなって盛り上がっているようなこともあります。こういった場合は、一種の電気メスのようなもので焼いて、止血をしなければならないことが多いです。どうしても止まらず、鼻腔に全体にガーゼをつめてしっかり圧迫し、1週間ほど入れたままにしなければならない場合もあります。
大人でもこどもでも、大多数は局所だけの問題で、それもキーゼルバッハ部位からの出血です。そうではない奥の方からの出血の場合は、ガーゼをつめなければならなくなることが多いです
血液を固まりにくくする薬(血液をさらさらにする薬)を飲まれている方の鼻出血は、たいした傷でもないのに出血して、止めようと思って触ると、その触ったところからまた出血するなど、やっかいなものです。また、血圧が高いと、鼻出血は起きやすくなります。大人の鼻血では高血圧にも注意が必要です。
血液の病気が原因になっていることも、稀ですがあります。鼻以外からの出血、耳鼻咽喉科の領域なら鼓膜の皮下出血や口腔粘膜の粘膜下出血、あるいは手足をちょっとぶつけただけで青あざになるなど、全身性の出血傾向が疑われた場合は、血液検査が必要になります。血液検査に異常の出ない全身性の病気としては、オスラー病という血管の病気もあります。