インフルエンザの流行がピークにあり、それに伴って副鼻腔炎や中耳炎の患者さんも増えています。インフルエンザの熱が下がったのに、いつまで経っても鼻と咳が止まらなくて受診される患者さんが多いです。インフルエンザの診断を受けて、2日目にはもう急性中耳炎になって受診した子もいます。逆に2日前から熱と鼻水で、小児科の先生に検査をしてもらったがインフルエンザ陰性で、熱が下がらず中耳炎を心配して受診され、耳鼻科で再検査をしたら、実はインフルエンザだったという子もいました。そのような患者さんたちで、昨日は今月1番の患者数でした。
患者さんには、ウイルスで弱った粘膜で細菌が増えて炎症が起きる、と説明しています。その実際のメカニズムは、複合的なものでしょうが、先日MRさんの持ってきてくれたパンフレットに、札幌医大の氷見教授が、その一部をまとめてくれていました。
スウェーデン留学中、副鼻腔炎の研究をしているとき、共同研究者だった細菌学の教授に、まず教わったのは、細菌が感染して病気を起こすためには、標的の細胞にくっつくこと、そしてそこで増えること、毒や炎症を引き起こす物質を放出すること、宿主の免疫の攻撃から自分を守って生き延びること、という4つの要素が必要だということでした。インフルエンザやRSウイルスのような呼吸器ウイルスが、鼻、耳、咽の気道上皮の細胞に感染すると、上皮の細胞膜に血小板活性化因子(PAF)受容体というものの発現が誘導されます。これは肺炎球菌やインフルエンザ菌(名前は同じでもインフルエンザウイルスとは全く別物)といった、副鼻腔炎や中耳炎の原因菌の受容体でもあるのです。ウイルスの感染によって、細菌が上皮細胞にくっつきやすくなるのです。
そしてクラリスロマイシンという薬が、そのPAF受容体発現亢進を抑制することも書かれていました。その薬をつくっている会社のMRさんが一番強調したかったのは、そこでしょう。しかし、この薬は抗菌薬としては、肺炎球菌やインフルエンザ菌にはあまり効きませんので、急性の副鼻腔炎や中耳炎になってしまったときの治療には、別の抗菌薬が使われます。
日本呼吸器学会の咳嗽に関するガイドライン第 2 版によれば、3週間以上続く咳を遷延性咳嗽と呼び、8週間以上を慢性咳嗽と呼びます。また、喀痰を伴う咳を湿性咳嗽、喀痰を伴わない咳を乾性咳嗽と呼びます。もちろん、明らかな喘息や感染症の診断がついたり、胸部レントゲンに異常が見られるような疾患は、ここから除外されます。
その中で、湿性咳嗽の原因の代表的なものとして、副鼻腔気管支症候群があげられています。副鼻腔気管支症候群とは、副鼻腔炎と気管支炎を合併する例を言いますが、ここで以前から不思議に思っていることがあります。ガイドラインには、欧米と我が国の慢性咳嗽の原因疾患の頻度の報告がそれぞれ3件づつ書かれていますが、日本の報告3件では、慢性咳嗽の原因として副鼻腔気管支症候群がそれぞれ17%、8%、7%として書かれているのに対し、欧米の報告3件にはその項目が全くないのです。そのかわり欧米の報告には、鼻炎/後鼻漏という、日本の報告にはない項目があり、それぞれ21%、34%、14%と報告されています。
一方、2007年に日本鼻科学会が出した”副鼻腔炎診療の手引き”でも、 2010年の”急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン”でも、 副鼻腔炎ないし鼻副鼻腔炎の定義として、鼻閉、鼻漏、後鼻漏と並んで、咳嗽がその主要症状のひとつとしてあげられており、副鼻腔炎単独でも咳嗽は高率に見られることは、耳鼻咽喉科医の側から見ると、コンセンサスが得られていると考えられます。とくに小児副鼻腔炎では、鼻症状よりも咳の方が目立つことが多いとする成書もあり、それは開業医として多くの患者さんを診ていても実感されるところです。そして私は、耳鼻咽喉科医として、副鼻腔炎の専門家として、長い間副鼻腔炎に携わってきたにも関わらず、副鼻腔炎に気管支炎を伴う、確定診断のついた副鼻腔気管支症候群の患者さんは、稀にしか見たことがありません。
主に下気道疾患を見る呼吸器科の先生と、主に鼻やのどを見る耳鼻咽喉科で、診る対象になる患者さんと優先的に行う検査が違うということはあるでしょうが、欧米の報告には副鼻腔気管支症候群という概念がないのを見ても、日本の呼吸器科の先生の報告にこれほど副鼻腔気管支症候群が多いのは、不思議な気がするのです。耳鼻咽喉科開業医が考えると、ここは副鼻腔気管支症候群を、単純に鼻副鼻腔炎と置き換えて、湿性咳嗽の原因として最も多いのは、鼻副鼻腔炎と言ってもいいように思えるのです。
それともうひとつ。3週間以上続いている副鼻腔炎でも、activeな細菌感染は存在していることがあり、その場合は、このガイドラインで副鼻腔気管支症候群の治療に推奨されているマクロライドは、あまり有効でないのです。まず短期間レスピラトリーニューキノロンなどを投与すべきなのですが、本音を言えば、遷延性、慢性の湿性咳嗽の患者さんは、耳鼻咽喉科に紹介して欲しい。耳鼻咽喉科医なら、簡単に副鼻腔炎を診断して、局所の処置を含めて適切な治療をするはずですから。
内科や小児科に通っていても咳が何週間も治らず、耳鼻咽喉科を受診したら副鼻腔炎で、その治療をしたらすぐ治ったという方があまりにも多いので、ついそう思ってしまいます。もちろん逆に、耳鼻科医の側は、喘息や肺の病気を見逃さないように、気をつけなければなりません。その意味で、私は開業以来、喘息が疑われる患者さん、とくに小児では、できるだけ胸部の聴診を行い、必要な場合には内科や小児科の先生を紹介するようにしています。
23,24,25日の3日間、新患の方が2名、以前から受診されている方が35名の、計37名の花粉症の患者さんに、アンケートをとらせていただきました。ご協力ありがとうございました。
昨年までの治療についての、満足、やや満足、普通、やや不満、不満の5段階評価では、以前から受診されている35名の患者さんでは、満足22名(62.9%)、やや満足6名(17.1%)、普通7名(20%)で、大多数で満足していただけています。新患の2名は、やや満足1名、不満1名でした。毎年来てくださる方は、満足していただいているので、また受診してくださったのであり、新患の方は、昨年までの治療に満足されていないので、今年は別の病院を受診されたということと推察されるので、あたりまえの結果かも知れませんが、毎年きてくださる患者さんの多くの方に満足していただいているのを見て、現在の治療方針に間違いはないと、思うことができます。
レーザー治療については、37名中、知らない10名(27.0%)、知っている18名(48.6%)、既に受けている3名(8.1%),場合によっては今後受けたい6名(16.2%)という結果でした。既に受けている方3名の満足度は、満足2名、やや満足1名でした。レーザー治療については、多くの方に認知されており、実際受けたり、今後受けたいと思われている方も、けっこういらっしゃいます。この結果を見て、レーザー治療に対するニーズは根強くあることを感じました。現在、半導体レーザーに加え、新しく数種のモードでの治療が可能な、CO2レーザーを導入することを予定しています。
舌下免疫療法について、知らない20名(54.0%)、知っている5名(13.5%)、場合によっては今後受けたい12名(32.4%)でした。かなり根気のいる治療であること、すべての患者さんに有効なわけではないこと、稀には副作用もあり得ることを、詳しく知って実際に治療を受けられる方は、もっと少ないかも知れませんが、12名と3割近くの方が、場合によっては受けたいと答えられています。
舌下免疫療法を場合によっては受けたいと答えられた12名のうちわけは、昨年までの治療に満足5名(41.7%)、やや満足3名(25.0%)、普通4名(33.3%)、と、やはり全体に比べると満足の割合が低く、普通という、現在の治療に必ずしも満足されていない方の割合が多いですが、現在までの治療に満足していても、完治する可能性が少しでもあれば、この治療を受けたいという方もいらっしゃることが分かります。
4月以降、準備が出来次第、舌下免疫療法も開始する予定です。
アレルギーの薬が効いているのは飲んでいる間だけですし、レーザー治療も数ヶ月から長くて数年しか効果が続かないとされています。しかし免疫療法(減感作)は、治療終了後もずっと効いていてくれる、ある意味完治の可能性のある、唯一の治療法です。また、この治療を行うことによって、スギ花粉症だけでなく、他の抗原に対する喘息や結膜炎にも、効果が期待できるとされています。
とは言え、免疫療法は、かなり長期間根気よく続けなければならない治療法です。“アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の実際と適応”の適応の3で、軽症から重症まで対象になり得るとされていますが、実際には、軽症の方には治療を続ける意志を持てないかも知れません。やはり対象は、毎年花粉症で苦しむ方、花粉症の期間は薬を続けなければならない方、薬があまり効かない方、薬を飲みたくない方、そして完治の可能性を望まれる方に、限られるでしょう。
以下は、“アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の実際と適応”の中の、“舌下免疫療法SLITの患者への確認”という項目です。治療を始めるにあたっては、これらを知っていただかなければならないというものです。
・花粉非飛散期も含め、長期間の治療を受ける意志がある(最低2年間程度)
・舌下アレルゲンエキスの服用(舌下に2分間保持)を毎日継続できる
・少なくとも1か月に1度受診可能である(発売1年以内は2週間に1回)
・すべての患者に効果を期待出来るわけではないことを理解できる
・効果があって終了した場合も、その後効果が減弱する可能性があることを理解できる
・副作用等の対処法が理解できる
自宅などで自分で行える治療とは言いながら、毎日、最低2年間、できれば3年間続けなければなりません。そして1ヶ月1回の受診が必要となっていますが、他の薬でもそうですが発売後1年間は2週間分の処方しかできませんので、当面は2週間に1回の受診ということになります。
また、それだけ頑張って続けても、全員に効果が出るわけではありません。 現在当院で行っている皮下注射によるハウスダストの減感作の場合、治療を行った4割の方は症状がほとんど出なくなる、4割は治療前より軽くなる、しかし2割には全く効果が出ない、と患者さんにお話しています。スギ花粉症の舌下免疫療法の効果も、せいぜいこれと同程度と考えられます。さらに、治療中は有効でも、終了後、効果が減弱する可能性があります。これについては、3年以上続けると、終了後減弱することが少ないとされています。
アナフィラキシーというのは、全身に強いアレルギー反応が出る副作用で、全身に発疹が出るだけでなく、喉が腫れて呼吸が苦しくなったり、血圧が下がってしまったりする、重い症状の出ることを言います。この副作用はたいてい投与後15分前後で出ます。注射で行うときは、病院にいる間に症状が出るので、すぐ治療が行われます。重症の場合、アドレナリンの筋肉注射、酸素吸入、点滴などが行われますが、そこまで至ることはまずありません。多数の患者さんの注射を行っている大きな病院のアレルギー外来でも、数年に1度しかありませんし、あってもさほど重症にならずにすぐ回復します。
注射に比べ、舌下免疫療法では、口の中の粘膜が荒れるなどの局所の小さな副作用はあっても、アナフィラキシーはきわめて少ないとされています。舌下免疫療法は欧米では既にずっと以前から行われていますが、アナフィラキシーの報告は世界でも数例のみで、それもいずれも大事には至っていません。日本での治験では、1例もありませんでした。しかし稀とはいえ可能性が全くないわけではないので、自宅などでご自分で行う方法ですから、万が一起きてしまったときには、病院に救急受診する必要があることを理解していただかなければなりません。
実際の方法
2週間分のエキスを処方しますが、初回は院内で投与を行います。少ない量のアレルゲンエキスを舌下に滴下し、2分間保持した後、飲み込みます。その後、30分間は院内にいていただき、副作用のないことを確かめます。
翌日からは、それをご自分で行っていただきます。投与開始後2週間は、毎日だんだん量を増やしていきます。1日1回あらかじめ決められた量を、舌下に滴下し、2分間保持した後、飲み込みます。その後5分間はうがいと飲食を控えるようにします。投与後2時間は激しい運動や入浴を避けることも必要です。
2週間後には、受診して副作用の有無などを確認した上で、維持量のエキスを2週間分処方します。原則としてこの維持量で、毎日治療を続けていきます。その後も2週間に1度の受診が必要です。(発売後1年以上経てば、4週間分の処方が可能になります。)2年間はこれを続けます。
花粉飛散期には副作用が起きやすい可能性があるので、飛散期まで3ヶ月は余裕を持って治療を開始すべきとされています。従って治療を開始するのは、4月中旬から10月までの間が望ましいということになります。