アレルギーの原因になるもの(アレルゲン)を長期間皮下注射する免疫療法(減感作)は、古くからある方法で、長期寛解(ずっと症状が出ない状態なので、患者さんにとっては治ったと考えられる状態)を得られる可能性のある唯一の方法でした。薬もレーザーも、その時は有効であっても、いずれはまた症状が出るのですが、免疫療法は、うまくいけば一生大丈夫になる可能性がある治療法です。
しかし長期間注射に通わなければならないこと、稀ですが重い副作用(アナフィラキシー)の可能性があることから、免疫療法(減感作)は、限られた医療機関でしか行われていませんでした。当院でも、花粉症に比べるとアナフィラキシーが少なく、花粉症と違って一年中症状が出るので薬だけでは治療が難しい、ハウスダストの減感作しか行っていませんでした。
舌下免疫療法は、注射のかわりに、アレルゲンを口の中(舌下)に入れて行う方法で、欧州(とくにイタリア)では以前から行われている方法です。注射ではなく、自分で口に入れる方法なので、頻回に病院に行かなくても済みます。また注射よりさらに、アナフィラキシーの可能性は少ないとされています。
以下は、昨日の講習会で聞いた内容です。3人の講師の先生が話をされたのですが、講師の先生によって微妙に違う部分があり、それをまとめたものです。受講希望者が予想以上に多かったのか、テキストが足らず、私はもらえなかった(後日郵送してくれるそうです)ので、テキストが届き次第不正確な部分があれば訂正する予定です。
舌下免疫療法にも欠点があります。効果発現が遅いこと(昨日ははっきり示されませんでしたが、治療を開始してから数ヶ月はかかると思われます)、長期間の治療が必要(2年間毎日続ける)なこと、ごく稀ですがアナフィラキシーも皆無ではないことです。
適応になる患者さんの条件は、アレルゲンがはっきりしていること(まず検査を含めた確定診断が必要です)、薬でコントロールできない(無効、副作用が出る、薬を飲みたくないという希望があるなど)こと、治癒ないし寛解を希望していることです。長期間毎日治療を続ける意志があり、少なくとも1ヶ月1回は病院を受診すること、すべての方に効果があるわけではないこと、効果があっても治療終了後それが減弱する可能性もあること、副作用があることとそれへの対応を理解することも、必要とされます。
治療を受けられないのは、β遮断薬(高血圧や狭心症に使われる)を服用中(アナフィラキシーの可能性を高める)、開始時に妊娠中の方、重症の喘息の合併(1秒率70ないし80%未満)、全身性の重い疾患のある方、急性感染症を起こしている方、などです。
口の中が痒くなる程度の副作用はときどきあるようです。アナフィラキシーというのは、全身に強いアレルギー反応が出る副作用で、全身に発疹が出るだけでなく、喉が腫れて呼吸が苦しくなったり、血圧が下がってしまったする、重い症状の出ることを言います。注射でも同じですが、この副作用はたいてい投与後15分前後で出ます。注射で行うときは、病院にいる間に症状が出るので、すぐ治療が行われます。重症の場合、アドレナリンの筋肉注射、酸素吸入、点滴などが行われますが、そこまで至ることはまずありません。多数の患者さんの治療を行っている大きな病院のアレルギー外来でも、アナフィラキシーなど数年に1度しかありませんし、あってもさほど重症にならずにすぐ回復します。さらに舌下の方が注射より安全とされているからこそ、この治療法が認可されるわけですが、それでも病院ではなくご自分で口に入れるわけですから、万が一のときは、緊急に病院にかかっていただくことが必要なので、それも理解していただかなければなりません。
副作用を少なくするためには、少なくとも初回は医師の管理下に、つまり投与後しばらく病院にいていただいて、様子を見ることが必要とされます。その後も投与後は、2時間は激しい運動や入浴を避ける、とくに花粉飛散期には、それが大切だそうです。投与直後の食事飲酒も避けるべきとのことです。
以上が、昨日の講習会の内容のポイントです。めったに起きなくても、起きてしまったら大変な、アナフィラキシーについて時間が多く割かれていました。最も知りたいことは、どれぐらい効くかですが、治癒(長期寛解)、有効、無効の率は、昨日は示されませんでした。ただ、今回の舌下免疫療法は従来の注射用エキスを、そのまま使用して行われます。したがって注射による免疫療法の効き目が参考になります。従来の注射による免疫療法では、20-30%で花粉症が治癒し、30%以上で花粉症が軽くなって薬が減り、20-30%で症状はあるが以前よりはましになり、10-20%では全く効果がない、と言われています。舌下の効果は、これらの注射の効果より、多少劣る可能性があります。
舌下免疫療法は、今年中の認可は見送られましたが、早ければ来年の花粉症の季節が終わった頃に、保険収載されます(健康保険で治療が受けられるようになります)。一般に、新しい薬は1年間は2週間分しか処方できない規則なので、その後1年間は、2週間に1回病院で処方箋を出してもらう必要がありますし、残念ながらすべての患者さんに有効なわけではなく、けっこう根気のいる方法です。したがって、絶対治したいという、強い気持ちがないと続けられないでしょう。しかし、この治療法は、薬やレーザーでは得られない根治(長期寛解)の可能性がある方法を、病院で注射をすることなく行えるものです。患者さんにとって、治療の新しい選択肢が増えることになります。毎年苦しんでいる花粉症の症状が、二度と起きなくなる可能性があるとすれば、そこまでいかなくても軽くなる可能性があるならば、この治療を受けたいと思われる方も、多いかも知れません。
もちろんスギ花粉の免疫療法は、スギ花粉症にしか効きません。ハウスダストなど、他のアレルギーに効くわけではありません。免疫療法のエキスをつくっている製薬会社によれば、次はハウスダストの標準化エキス(従来のエキスより、有効で安全なもの)、そしてそれを使ったハウスダストの錠剤(口の中で溶ける錠剤。エキスを口の中に垂らすより、服用し易いと思われます)、最後にスギ花粉の錠剤、という順番で、発売していく予定とのことです。
昨日聞いた話を忘れないようにという備忘録の意味もあったので、今日のブログは、読みにくい内容になってしまいました。