貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

アラゴナイト

2021-12-18 20:53:51 | 単品

一番単純な鉱物は何か。(意外なところから来たね)
まあ元素鉱物という「王族」がいますね。金だけ、銀だけ、硫黄だけ。単純だけど、それを一箇所に集めるというのはけっこう手間な(誰の手間だよ)ことのようで、元素鉱物というのは案外レア。
それを別にすれば、やっぱり二酸化珪素。水晶・カルセドニー(アゲート)・オパール。何せ二つ合わせると地殻構成元素の七割以上(酸素47%、珪素28%)。水晶やアゲートが世に溢れているのも無理はない。
単純さという点では、もう一つ、巨大勢力がある。CaCO3。炭酸カルシウム。珪素を含まない「野党」の最大勢力。
カルシウムは地殻中にも上部マントルにもたくさんある(ともに第5位)。ところが炭素は地殻中では第15位と少ない。しかもその大半は石炭石油など。鉱物の成分としてはきわめて稀少。地上にはたくさんあるのにね。
炭酸塩鉱物というのは、少しばかり地上的な鉱物なのかもしれない。(何だいそりゃ)

CaCO3 の鉱物は主に二種。カルサイト(方解石)とアラゴナイト(霰石)。もう1個バ(ヴァ)テライト(ファーテル石)というのがあるけど、きわめて特殊なので無視。(乱暴w)
神様は単純な CaCO3 の石を、一つじゃ詰まらんと思われたのか、わざわざ2種類お作りになったようで。
で、奇妙なことに、一部の貝は、貝殻を作る際にこの2種を使い分ける。外側はカルサイトで内側はアラゴナイト、とか。なんでそうなるのかはわかっていない。神様の真似をしたのか、命じられているのか。(おいおい)

で、このカルサイト vs. アラゴナイト問題というのは、地球物理学上の大問題にさえなる、とても面白い問題となっている。これについはめんどくさい記述が多いので別項。
まあ、一般的にはカルサイトが多い。アラゴナイトは少ない。けど、こやつ、結構面白い。

アラゴナイトで一番身近なものと言えば、真珠。
真珠はアラゴナイトとタンパク質が薄い層をなして重なっていることで、あの不思議な光沢が生まれるのだそうで。
けど、いわゆる天然石業界では、真珠はあまり扱わないような感じ。たまに「淡水パール」(淡水環境で生育する貝から採れるもの)がブレスレットになっているけれど。まあ「宝石」の範疇だからかな。奇妙な形や色の真珠なんかは出てもいいような気がするけど。

鉱物標本として売られているアラゴナイトには、奇妙な形をしたものが多い。

 ・丸っこいクラスターで、六角柱があちこちに向かって伸びているもの。「スプートニク」という愛称がある。
 ・珊瑚樹のような形をしたもの。
 ・くねくねとした管のようなもの。
 ・ウニのようなトゲトゲをまとったもの。

カルサイトにも時々奇妙な形の結晶とかはあるけれど、多彩さ、奇抜さではアラゴナイトの勝ちじゃないかな。なんでそうなのかは知らない。
こういうものはマグマの中でできるはずもないから、熱水によって晶洞中にできるか、空気中でできるか、なのだろう。カルサイトでなくアラゴナイトになるのは、高温高圧であるか、水の中にマグネシウムが多いか。
まあアラゴナイトというのは面白い石です。

と言いつつ、アラゴナイトは2つしか持っていない。
珊瑚樹のようなものや、トゲトゲのウニのようなものは、面白いな、欲しいな、と思っているのだけれど、何となく後回しになっている。
オーケン石なんかと同じで、細やかでないあちきには、扱いが難しそう。落っことして欠くに違いない。なでなでできないし。(少し気持ち悪いぞ)
色がないから、というのもあるかもしれない。それとも、炭酸カルシウムじゃ面白くないという感じもあるのか。

このブルーアラゴナイトは、「もっと光を」のところで出したけど、確かに透過光はびっくりするほど美しいのだけれど、普通の光でもとても美しい。クリームソーダのようで。なでなでじゃなくてなめなめしたい。(気持ち悪っ)

こちらは「異形・同形・固溶体」のところで出した「スプートニク」型のクラスター。少し色は濁っているけど、チビ六角柱があちやこちゃへ向かって生えていて、かわいい。
スプートニクはこんな形はしてないけど。


まあ珊瑚やウニはそのうち。かな。


カルサイト・アラゴナイト問題[おべんきょノート]

2021-12-18 20:42:10 | おべんきょノート

今さら言うまでもなく、炭酸カルシウム鉱物には主にカルサイトとアラゴナイトの2種がある。この違いが面白い。

まずは元となるカルシウム。これがめんどくさい。

・地殻には3.6%ほどのカルシウムが含まれており、これは構成成分比で第5位である。
・海水中には硫酸カルシウム3.60%、炭酸カルシウムが0.34%が含まれており、これはナトリウム、マグネシウムに次ぎ第3位。
・海水中の炭酸カルシウムは自然沈殿と貝・サンゴなどの遺骸によって地殻中に戻る。
・カルシウムを含む鉱物は多い。ウィキペディアの「カルシウム鉱物」で71種が挙げられている。蛍石(フローライト、CaF)、石膏(ジプサム、CaSO4、セレナイトやアラバスター)、燐灰石(アパタイト、Ca5(PO4)3(F,Cl,OH)1)はカルシウムを単独塩基とする著名な鉱物。

まあ要するに、すごく多いんですわ。(めんどい割りにそれが結論かい?)

で、さらにめんどいカルサイト・アラゴナイト問題。
・カルサイト(方解石)は六方晶系、アラゴナイトは直方晶系(旧称斜方晶系)。
・一般的にアラゴナイトは高温高圧、カルサイトは低温低圧で形成される。通常環境ではアラゴナイトは徐々にカルサイトに変化していく。
・海水の炭酸カルシウムが自然沈殿や貝など海洋生物の遺骸として地殻に取り込まれる際には、カルサイト・アラゴナイトの両方の形を取る。
・貝は、どちらか一方だけで骨格を形成するものもあれば、両方を部分的に使い分けるものもある。なぜそんなふうになっているのかは不明。何じゃこりゃ。
・海洋沈殿性の炭酸カルシウムは、海水温が高く、マグネシウム濃度が高いほど、アラゴナイトに傾く。この「カルサイト・アラゴナイト」の比は、地球史上で周期的に変動しており、現在は「アラゴナイト海」である。この理由も不明。
*このあたりのことは、東京大学 大気海洋研究所参照。

日本のある海岸には、波打ち際の岩の隙間にアラゴナイトの結晶が形成されている場所がある。海水揮発性ということになるけれども、能登半島の恋路海岸では、波打ち際に散らばる玄武岩を割ると、中にアラゴナイトが出ることがある。なぜアラゴナイトなのか、そこだけなのかは不明。
・生物由来である一般的な堆積性石灰岩にはカルサイト・アラゴナイト両方が含まれる。
・堆積性石灰岩がマグマによって熱変成して結晶を含む岩石になったものが「大理石」。これがどちらも含むのかどうかは不明。
・地殻中のカルシウムが雨水・温泉水などで溶出し、地上条件下で再結晶したものが、鍾乳石、石灰華など。トルコのパムッカレは温泉水の沈殿で有名。これは現在でも人間が観察可能な速度で進行している。これも両方なのか、不明。鍾乳石はアラゴナイトだという人もいれば、カルサイトだという人もいる。
・なお、「山サンゴ」と呼ばれるものには2種類あって、
①宝石市場で売られているものは、トクサヤギというサンゴを着色したもの。こちら参照。
②鉱物標本としての山サンゴは、大きく分けて2つある。1つは海のサンゴ状に結晶が発達したアラゴナイト。晶洞内、あるいは鍾乳洞などで形成されたものか。もう1つはくねくねとした管状のアラゴナイトで、生成過程は不明。「裂罅空洞内の減圧のため、ゲル状の炭酸カルシウムが、小孔から引っ張り出された結果」という仮説がある。。

なんかいろいろはっきりしない。まあ、いちいちカルサイトかアラゴナイトかを弁別したところで何か利益があるわけでもないから、誰もやらないのでしょうね。