(執筆途上)
9月下旬に米国の消費者擁護団体“Center for Responsible Lending:CRL”、ノースカロライナ州司法センター(注1)、米国商事改善協会(BBB)等やノースカロライナ州の司法長官ロイ・クーパー(Roy Cooper)等は、2006年3月に一旦中断したペイディ・ローンが州内の銀行の支店で再浮上したことに対する多くの苦情問題へ対抗策を持ち出した。
すなわち、これら団体等は同州内に6支店を有するアラバマ州を本拠とする「リージョンズ・バンク( Regions Financial Corporation)」(注2)が、ノースカロライナ州が全米で最初の州としてこの10年間ペイディ・ローンを禁止してきたにもかかわらず、2012年6月に、高利貸し禁止法や規制を潜り抜けたローン商品(Regions Ready Advance)を提供し始めたことが大きな社会・経済問題となっている。さらに問題なことは、同州の他の地方銀行が同種の高金利ペイディ・ローンを提供し始めることへの懸念である。
この問題に関し、司法長官は消費者ニーズの弱みを逆手に取るこれらの金融活動を「負債の踏み車( debt treadmil)」として重大な関心を寄せている。
今回のブログは、(1)ノースカロライナ州や他州におけるペイディ・ローン問題に法規制や議会のこれまでの対応、(2)連邦ベースにおける消費者金融保護局(CFPB)等規制機関の対応と限界、(3) リージョンズ・バンクがすすめる“Regions Ready Advance”の正確な商品内容や法解釈問題、(4)消費者保護面から見た具体的な問題点等につき概観するものである。(注3)
1.本問題点の概要の理解
初めに2012年9月20日号のアメリカ銀行協会の機関紙「アメリカン・バンカー」が「Regions to Lower Cost of Payday Loans」(筆者はケイト・ベリー)と題する小レポートを掲載している。本ブログの冒頭に概要を理解すべく仮訳しておく(やや冗長な文章であるが、基本となる関係者はほとんど登場するので参考にされたい)。
○ペイディ・ローン手数料に関し、消費者団体からの厳しい批判に直面して、リージョンズ・フィナンシャル(Regions Financial:RF)は、ローンを消費者により安価に提供すべく手を打ったと説明した。
○リージョンズ銀行のスポークス・ウーマンのイヴリン・ミッチェル(Evelyn Mitchell)は、9月19日にアラバマ州のバーミンガムで同銀行は顧客のためのペイディ・ローンにつき使用し続けてきた手数料引き下げ、また、2011年にサービスを開始した“Ready Advance”ローンの返済期間を伸ばすことを計画していると述べた。この際、ミッチェルは、計画された変化は消費者団体からの批評に対応したものではなく、顧客へのフィードバックに対処したものであると説明した。
「我々は、その顧客について調査するとともに顧客の意見を聞いている。そして、いくつかの策を増進する途上にある」と、ミッチェルは言った。しかし、具体的な手数料の引き下げ額、返済期間の調整方法、さらにこれらの変更がいつ行われる等の詳細内容の説明はなかった。
○1,210億ドル(約9兆4,380億円)の総資産を有するリージョンズ銀行は、ノースカロライナ(本質的にペイディ・ローンを禁止する州)を含む16の州で同ローンを提供する。
○同州のシャーロットのメディア“Charlotte Observer”は、ノースカロライナ司法長官ロイ・クーパーは、まだ何等の具体的行動も取っていないが、今週、同行が州内で新規高金利ローンを販売するのを止めさせる方法を模索していると報じた。
○同州の銀行業コミッショナー(N.C. Office of the Commissioner of Banks (NCCOB))が、主に銀行とペイディ・ローンの貸し手との間のパートナーシップで発売される融資が、ノースカロライナ州の高利貸禁止法に違反したと裁決した後に、急進的ペイディ・ローンの貸し手は、2006年にノースカロライナでの営業を停止した。
「問題は、現在はリージョンズがレートキャップ規制を迂回するのに州認可の回避を使用しているかどうかということである」とクーパーはシャーロット紙に語った。
「我々は、ノースカロライナ州の消費者をペイディ・ローンの主体になって欲しいと思わない。ペイディ・ローンは金敷に投げられる救命具を必要とする消費者に似ている。しばしば負債踏み車にそれらを乗せる」と、クーパーは述べた。
ノエル・タリー(Noelle Talley:ノースカロライナ州司法省のスポークス・ウーマン)は、「政府機関には同金融商品に関する重大な懸念があり、具体的問題が消費者の権利擁護団体および州の銀行委員会コミッショナーによって州司法省に提起された。そして、本省は同銀行からの詳しい情報を求めるつもりである」と述べた。
○リージョンズは、2011年5月“Ready Advance”ローンを提供し始めた。
○消費者は、オンライン・アプリケーションによってのみ、消費者は50ドルから500ドルの信用限度額でアクセスできる。少額の与信限度が小さいドル融資の消費者は、少なくとも9カ月間当座預金口座を持っていたリージョンズの顧客だけが利用可能である。
○融資額100ドルにつき10ドルの手数料を課すリージョンズの手数料について、CRLは、ノンバンクによって融資される100ドルあたり16ドルの料金を平均的に課すペイディ・ローンと比較して、これを「銀行ペイディ・ローン」の標準であると呼ぶ。通常、融資実行後10日以内に全額返済しなければならないので、年率換算すると120%から365%のきわめて高金利のローンであると考える」とCRLの上級代表であるクリス・ククラ(Chris Kukla)は指摘する。
○さらに、消費者には月賦返済方式(monthly installment plan)を通して21%の追加年利率の手数が加算される場合がある。
○これは、債務を有する消費者を埋葬する破壊的な製品であると、ククラは補足した。
○ジョン・オーエン(John Owen:リージョンズの上級役員 (注4))は、2012年6月に銀行業界の会議で“Ready Advance”ローンの製品性に関する問題指摘を防御し、「リージョンズは、それらがクレジットカードを含む他のタイプのノンバンクのペイディ貸し手を利用する例が多いので、ペイディ・ローンを実行するに当たりクレジットへの資格を得るかどうかを確認するために“Ready Advance”ローンで顧客を審査している」と述べた。また、同行のミッチェルは「同行の信用情報機関に対する返済履歴報告により、顧客の半数以上は彼らの信用度スコアを徐々に引き上げ、改良した」と述べている。
さらに、ミッチェルは「リージョンズは、それらがクレジット・カードを含む他のタイプのクレジット与信への資格を得られるかどうかを見るため、“Ready Advance”ローンで顧客を検査しているとも述べた。
○また「リージョンズは、このローン商品は信用を構築するのを潜在的に支援する機能を持ち、他の様式のクレジットサービスを卒業する機会なしに単に1つの製品やサービスを提供するものではない」であると付言している。
2.ノースカロライナ州や他州におけるペイディ・ローン問題にかかる法規制や議会のこれまでの対応
(1)ノースカロライナ州は1997年から2001年の4年間、ペイディ・ローン販売を一時許可したが、議会は小売店頭併設銀行支店(store-front shop)が消費者擁護団体、規制機関や軍からのプレッシャーに基づき期限切れるとする法律を認めた。手数料はきわめて少額であったが、その年利は州の高利貸し禁止法を超えていた。しばしば、すみやかに(まとめて全額)を返済しなければならなかったので、彼らはユーザーが第一にやむを得ず短期貸付けを求めた問題を再現するかも知れない。
「これらローンは非常に議論を呼んだ与信形式である。借り手はすばやい金融支援策として見出すが、期間が数週間の間のローン債務にもかかわらず、消費者はしばしば数ヶ月間返済と取り組むことになる」とフィラデルフィアのNPO団体「ピュー・チャリティ・トラスト(Pew Charitable Trusts)」(注5)のレポート「Payday Lending in America: Who Borrows, Where They Borrow, and Why」は説明している。
いくつかの小売店頭併設銀行支店の中にはノーススカロライナ司法省が停止を訴えた2001年以降も銀行と協調して開設したままのものもあった。そのとき以来、銀行は少なくともノースカロライナ州法とは部分的に異なるペイディ・ローン類似商品の販売を回避していた。
リージョンズ・バンクのスポークスマンであるキャンベル(Mel Cambell)は18ヶ月前に“Ready Advance”商品の提供開始すると述べてた。
これに関し、CLRのククラは同行が慣習で従来禁止されていた規制を撤廃した初めてのケースでこれが最後ではないと述べている。また、同州のローリー(Raleigh)だけでも7支店を持つより大きな銀行である「サン・トラスト(Sun Trust)」が同様の商品を提供するため消費者擁護団体にアプローチをかけていると述べた。
一方、サン・トラストのスポークスマンであるヒュー・ズール(Hugh Suhr)はこの指摘に対し「我々はこのような商品を発表していないし、ただ考えているまたは考えていないことに関してコメントできない」と述べている。
キャンベルは、さらに“payday storefront”と“Ready Advance”の間には重大な相違がある。すなわち、前述したとおり後者は既存の顧客のみが利用できるサービスであり、顧客は少なくとも9ヶ月間当座取引の実績が求められる。また、銀行は連続して6ヶ月間同貸付を求める顧客に対して義務的に課される冷却期間を有する」と指摘した。
(以下、略す)
(2)2010年9月21日、米国内での最大規模(1,875万ドル:約14億6,250万円:原告14万人以上)のペイディ・ローン業者に対するクラスアクションの和解が成立した。被告は米国最大のペイディ融資業者「Advance America」に対する違法な手数料や金利の返還を求め、2004年に訴えを起こしたものである。なお、同社はノースカロライナ司法長官府(長官はロイ・クーパー)および同州銀行コミッショナーの調査の開始を受けて同州内でのペイディ・ローンの取扱いをすでに停止した。同社は本和解に署名した州内の118支店を傘下においていた。(注6)
2.連邦ベースにおける消費者金融保護局(CFPB)等規制機関の対応とその限界
(1)米国全体で見てCFPB等に規制・監督機関はこれらの銀行の取り組み傾向に注意を払った。新しい規制機関であるCFPBは2012年1月にアラバマ州バーミンガムで公聴会を開催した。また、これら監視機関はよりいたいところに取り組み始めた。
(2)CFPBは連邦準備制度理事会の元で州際問題を規制する機関であり、アラバマ州の銀行法で規制されるリージョンズ・バンクに対する直接的な監督権が及ばない点をノースカロライナ州銀行監督委員会委員長代理レイ・グレイス(Ray Grace, Acting North Carolina Commissioner of Banks)は指摘している。
(3)NPOメディア「Center for Public Integrity」のレポートに見るCFPBの規制権限問題
2011年7月16日付けのレポート「New Consumer Financial Protection Bureau has authority to regulate payday industry」の関係箇所を以下、抜粋する。
○連邦消費者金融保護局(CFPB)は2011年7月21日に規制機能を開始するが、小口金融などにつき金利キャップをかぶせることは出来なかったが、ペイディ・ローンに関する検査権限を与えた。
金融専門家は、CFPBが米国の部族内のペイディ・ローンの貸し手に対する規則策定権威を持つという。しかしながら、他方で、CFPBは政府機関による法執行活動を取ることが連邦法や州法から部族を保護する部族居住区の特別法である免疫法(tribal immunity law)の解釈、詳細を調べるような裁判闘争をかきたてるだろうとも述べている。
小売店頭併設銀行支店におけるペイディ・ローンの貸し手の業界代表であるCFSA(Consumer Financial Services Association of America )は一般的なオンライン貸し手と特別な正確を持つ部族内の小口融資とを峻別すべく積極的な活動を始めている。(注7)
3.リージョンズ・バンクが進める“Regions Ready Advance”の正確な商品内容や法解釈問題 略す。
4.消費者保護面から見た具体的な問題点等
(1)消費者保護法との関係
略す。
(2)銀行監督に関する連邦法と州法の切り分け問題や規制の限界(裁判例)
略す。
2001年4月30日 オクラホマ民事控訴裁判所判決: C & L ENTERPRISES, INC. v. CITIZEN BAND POTAWATOMI INDIAN TRIBE OF OKLAHOMA :certiorari to the court of civil appeals of oklahoma
No. 00-292. Argued March 19, 2001--Decided April 30, 2001
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(注1) 「ノースカロライナ司法センター(North Carolina)は、ノースカロライナ州民の繁栄をすべての機会に変換するのに捧げられる州の主な研究と支持を担うNPO組織である。州のあらゆる家庭が経済的安全保障を持つために必要とする、資源、サービスおよび公正な処理に近づく手段を確実にすることにより、本センターの任務はノースカロライナ州の貧困を根絶することである。
http://scholarlycommons.law.wlu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=4279&context=wlulr
(注2)「リージョンズ・バンク」はアラバマ州に本拠を置く全米大手地方銀行持株会社「リージョンズ・ファイナンシャル・コープ(Regions Financial Corp)」の銀行部門である。
主要業務は、「mortgage banking(不動産担保ローン銀行業務)」、「credit life insurance(信用生命保険:貸し金の借り手が完済前に死亡した場合に、残高を返済するように設計された生命保険をいう。この保険には就業不能を対象範囲に含めることができ、またクレジット・カードや自動車ローンとの関連でオプションとして提供することもできる。(損保ジャパン総研「米国保険用語の解説」から抜粋))、「リース」、「売掛け債権ファクタリング(commercial accounts receivable factoring)」、特定不動産担保ファイナンス(specialty mortgage financing)、証券ブローカー・サービス(securities brokerage services.)」である。同会社は米国南部、中西部および東部で営業展開している。
なお、Regions Financial Corpは2008年11月14日「不良資産救済プログラム( Troubled Asset Relief Program:TARP)に基づき35億ドル(約2,730億円)の連邦政府から公的資本注入(21金融機関が対象)を受け、2012年4月4日に全額返済している。
(注3) 米国の消費者や世帯等から見た「ペイディ・ローン」のニーズはいかなるものか、ノースカロライナ大学チャペルヒル校コミュニティ資本研究センター(Center for Community capital):「2007年11月 ノースカロライナ州の消費者から見たペイディ・ローン後に対するニーズ調査(世帯などから見たクレジット選択肢への取組み姿勢と経験)」(全26頁)が簡潔にまとめている。特に“Executive Summary”は参考になる内容である。
(注4) ジョン・オーエンは2012年6月5日、RFの業務ラインの最高責任者に任命されている(BUSINESS WIRE記事)。記事の原文は次の通り。
2012-06-05: BIRMINGHAM, Ala.---Regions Financial Corporation (NYSE:RF) today announced that John Owen has been named the company’s new head of Business Lines, responsible for Consumer Services, Consumer Lending, Wealth Management and Business Services.
(注5) Pew Charitable Trusts(以下、PCT)については、2011年2月12日付け本ブログの(筆者注10)参照。なお、その際に説明したとおり、このNPOの活動時範囲は広い。柱は次の3領域であるが、その中身について補足するとともに、また各取り組みテーマを紹介しておく。わが国の同種のNPOのあり方を考える上で参考となろう。
(1)公共政策の改善(アメリカ市民およびグローバル社会に影響を与える緊急かつ出現する問題につき無党派的立場に立った政策問題解決の研究と推進を行う)
(2)広く国民一般への情報提供(ワシントンに本部を置く子団体である「ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)」において本団体の情報の優先課題の大部分を行う)
(3)市民生活の促進(市民参加プログラムの促進に関する全米規模の活動を支援する。とりわけ本拠地であるフィラデルフィアの町において、地域の貧困者(neediest)が満足するのを強化すべく繁栄する芸術や文化的コミュニティの創造する団体を目指す。
取り組むテーマ例は以下のとおり。
①芸術と文化
②子供や若者
③都市
④コンピュータとインターネット
⑤経済政策
⑥環境・エネルギー問題
⑦家族にとっての金融面の保護策(family financial Security:安全な小口ローンの調査プロジェクト(safe small dollar loans research project:エレクトロニクス時代の安全な小切手決済システム)
⑧健康
⑨アメリカにおけるヒスパニック
⑩メディアとジャーナリズム
⑪全米規模の市民参加プログラム
⑫フィラデルフィアの地域研究
⑬世論
⑭宗教と公共生活
⑮科学
⑯国策とその実施
⑰記録保存(archive)
なお、前記⑦に関して本ブログに関係が深いので補足する。PCTは2012年7月16日「Payday Lending in America: Who Borrows, Where They Borrow, and Why」と題する簡単なレポートを公表している。詳しい内容は省略するが、1,200万人の米国民が毎年ペイディ・ローンを利用し、その平均融資額は年間平均375ドルのローンを8つ組んで、また520ドルを金利返済に充てている。また、ペイディ・ローンを利用する理由は予期しない緊急の支出ではなく、数ヶ月間(年間5ヶ月間が平均)通常の生活費に当てるべく利用している。このように見ると米国は国家レベルでも借金大国であるだけでなく、個人レベルでも借金を好む性向が十分伺える。
さらに、ピュー・リサーチ・センターが最近時公表した前記テーマに関するレポートが2つあるので紹介しておく。いずれも米国市民の平均的な意識を理解する上で具体的で参考になる内容である。
(1) 2012年10月9日 Pew Research Center: Pew Forum on Religion & Public Life 公表「 “Nones” on the Rise: One-in-Five Adults Have No Religious Affiliation」(全80頁) (前記⑭に関連)
(2) Pew Research Center’s Internet & American Life Project 公表
「The State of the 2012 Election — Mobile Politics 」Registered voters on both sides of the political spectrum are using their cell phones to get campaign news, share their views about the candidates and interact with others about political issues」(全8頁) (前記④、⑯に関連)
(注6) 本クラスアクションの和解についての詳しい内容は、ノースカロライナ司法センター(North Carolina)のメディア・リリースを参照されたい。なお、この和解合意に署名するに当たり「Advance America」はノースカロライナ州法に違反したことは認めず、ニューハノーバー郡上級裁判所(New Hanover County Superior court)のジャック・フックスJr.判事は和解を承認するよう求めたと記載されている。
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