白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

紀尾井町こども囲碁道場

2017年12月26日 19時07分33秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は紀尾井町こども囲碁道場で講師を務めました。
私の担当は30級~26級クラスです。
参加者の年齢層は、4歳~13歳ぐらいだったと思います。

囲碁には「線の交わる所に交互に打つ」「相手の石を囲むと取れる」といった基本ルールがありますが、とりあえずそれらは覚えたという子供たちが対象ですね。
ただ、覚えたと言っても、大半の子供はいきなり実戦を打って完璧にこなすことはできません。
その最たるものが終局でしょう。

囲碁が難しく感じる点としてよく言われるのは、どうすればゲームが終わるかということですね。
例えば、将棋なら王様を取られたら負け、と言えば誰にでも簡単に理解できますが、囲碁では少し難しいです。
ただ、概念を説明するだけなら非常にシンプルです。
自分の番で、着手すると自分が損をすると感じた場合はパス(手番を相手に譲る)できますが、2人が続けてパスをすると終局になるのです。
終局の概念は決して難しくないことだけは、理解しておいて頂きたいところですね。

難しいのは、入門者・初心者同士が実戦で終局することです。
打つと損になるからパスする、ということは簡単な理屈ですが、これが最初はなかなかできないものです。
敵陣の中に打てる場所を探したり、自陣を埋めてしまったり・・・。
これを乗り越えるための何より大事なことは、とにかく数を打つことです。
終局間際の局面を何度も経験することで、自然と流れが掴めてきます。
ただ、完全に独力では練習すら難しいので、そこは指導者の手助けが必要ですね。

今回の教室では、保護者の方の中で希望者された方は子供に混じって参加することができます。
そこで、大人の対局も見て回りましたが、やはりそちらのほうが自然に終局の形ができていましたね。
理屈を考えたり数字を意識することには、ある程度年齢が上の方が有利です。
その代わり、直感に従って打つということは苦手な傾向があり、あれこれ考え過ぎて失敗することが多いように思います。

完璧な形で終局するためには、生き石と死に石の判定が必要です。
特に難しいのが中手(ナカデ)であり、有段者ですら時々間違えることがありますね・・・。
ですが、最初の内は中手まで気にしなくても大丈夫です。
とりあえず自然にパス2回で終わることができれば立派な終局です。
そこまでできれば、囲碁を覚えたと言って良いでしょう。


ところで、今回ちょっと驚いたことがあり、参加者の子から「どうしたらプロになれますか?」と聞かれました。
まだ覚えたてのはずですが、そこまで囲碁が好きになってくれたことは嬉しいですね。
本当にプロを目指すにしろ、趣味として楽しんでいくにしろ、きっと良い出会いをしたのでしょう。

なお、明日と明後日も続けて講師を務めます。
明日の講座のメインは眼と欠け眼の概念です。
これが分かれば、自然な終局にぐっと近づくでしょう。

AlphaGo Lee対Zero 第11局

2017年12月25日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
実は書いているのは翌日の朝ですが・・・。
普段は宵っ張りなのですが、昨日はかなり早い時間に猛烈な睡魔が襲ってきました。
寝不足だったのでしょう、睡眠は大事ですね。

さて、本日はAlphaGo Lee対Zero、第11局です。
第10局までは全てLeeの黒番でしたが、本局から手番が変わっています。



1図(テーマ図)
Zeroが黒△と覗いた場面に注目しました。
白Aと空き三角の愚形につながせようというもので、そうなれば利かし(黒の打ち得)となります。
白としては反発を考えたいところですが・・・。





2図(変化図1)
黒がA方面に打ち込みにくくなるように受けることが考えられます。
そこで、普通の棋士なら白1が最初に浮かぶ手ではないでしょうか?
何故かと言えば・・・。





3図(変化図2)
後に黒1と切った時、白2を利かせば先手でAの傷を守れるからです(黒Aには白B、黒C、白Dで大丈夫)。
白4などと、先に黒に攻めかかることができます。





4図(実戦)
ところが、Leeは白1と離して受けました。
私は指導の際、よく布石の1路の差は気にしなくても良いと言っています。
ですが、石がぶつかった場面では話が別で、1路の違いで状況が大きく変わることがあります。

この白1は、地味ながら私にとっては驚きの一手でした。
何故なら、黒Aと切られた時、次に黒Bの分断が厳しいので白は左辺を1手かけて受けなければいけません。
すると、黒Cなどと打って先制攻撃するのは黒の側となります。
左下方面に関しては、明らかにマイナスの手なのです。

ではなぜ白1と打ったかと言えば、白△との間合いなどを意識したと考えられます。
そちらの方面でのプラス面を重視したということですね。
しかし、左下でのマイナスは目に見えますが、左上方面でどれだけプラスになるのかは人間にははっきりとは見えません。
李世ドル九段と対局したバージョンは、総合力においては人間トップとそれほど大きな差は無いのかもしれませんが、やはり感覚的にはかなり違っているように思えます。

指導碁の珍事

2017年12月24日 22時14分56秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は五反田の教室で指導碁を打ちましたが、妙なことが起こりました。

子供相手の2面打ちだったので、序盤の進行のペースが速く、のんびり記録している暇がありません。
落ち着いた時にまとめて記録することにしましたが、いざ手数が進んだ段階で記録しようとすると、片方の碁が途中でどうしても思い出せなくなってしまいました。
「おかしい・・・この場面で私が思い出せないような的外れな所に打つ子ではないはずだ・・・」

しかし、盤面を凝視しても、どうしてもそれらしき手が見付かりません。
その間にもそれぞれの対局は進むので、半ばパニック状態です。
普段私の手が滞るようなことはほとんどないので、子供たちも訝しんだのではないでしょうか。

そして、ある可能性に思い当たり、双方の石数を数えてみると・・・。
なんと黒石が1個足りないではありませんか!
つまり、どういうわけかもう黒が打ったものと思い込み、私が2手打ちしてしまったのですね。

指導碁ではした手の考える時間を減らさないよう、なるべく早く打つことにしているのですが、多面打ちでは時々2手打ちしそうになることがあります。
当然相手に指摘されますが、今回はそのまま進行してしまったのです。

本人は、集中して読んでいるうちに打たれ、本当の手番が分からなくなったようです。
また、観戦者もいたのですが、違和感を覚えつつも「まさかプロが2手打ちするわけがないだろう」と思い、勘違いしたのかと思ったそうです。
まさかの事件が起こってしまいましたね・・・。
野球の試合では稀に4ボール後に打席が続いてしまうことがありますが、似たようなものかもしれません。

私は年に500回は忘れ物をするうっかり体質ですが、碁を打っていてもよくうっかりするのです。
今回は笑い話になりましたが、プロの対局ではうっかりのために悲しい結末になることもしばしばです・・・。
ですが、そんな私でもプロをやっていられるということは、碁の懐の広さを示しているとも言えるかもしれませんね。

本日の問題

2017年12月23日 23時57分55秒 | 問題集
皆様こんばんは。
昨日、指導碁はネタになるとお話ししましたが・・・。
本日の指導碁から、早速問題ができました(笑)。



1図(問題図)
白△とツケてきました。
黒はどう対応すれば良いでしょうか?





2図(失敗1)
黒1のつなぎは、白2と渡られてしまいます。
2眼できず、黒全滅です。





3図(失敗2)
かと言って黒1と遮るのは、白2と切られて黒△が取られてしまいます。





4図(失敗3-1)
では、黒1と打つのはどうでしょうか?
一見すると切りと渡りを両方防げているようですが、白6という手があり・・・。





5図(失敗3-2)
黒1の取りに、白2と切られて取られてしまいます。
「石の下」の手筋ですね。





6図(正解)
黒1のコスミが正解です!
これで白はどうにもなりません。

ちなみに、問題図の初手(1図白△)は実際には打っていません。
成立しない手を、相手のミスを期待して打つのは良くないことですからね。
ただ、もし打ったら、間違える方はかなり多いのではないかと思いました。
問題図は実戦によく現れる形ですが、実はこんな変化が潜んでいるのです。

ちなみに、問題図には白からのヨセの手筋も潜んでいるのですが・・・。
ちょっとマニアックな話になりますね(笑)。
皆様には、碁は狭い所にも手筋が隠れているということだけご理解頂ければ十分でしょう。

棋譜取り

2017年12月22日 23時19分01秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は棋譜取りについてのお話をしたいと思います。

皆さんは、ご自身の棋譜を取ることはありますか?
全くやらない、という方がかなり多いかと思います。
難しそう、面倒くさそう、というイメージが強いのでしょうか。
ですが、自分の打った碁というのは素晴らしい教材です。
本気で上達を目指すなら、ぜひとも棋譜取りの習慣を付けて頂きたいですね。

それはそうとして、実は今回お話ししたいことは「指導者の棋譜取り」です。
指導においても、棋譜を取ることは様々なメリットがあるのです。

私が意識して指導碁の棋譜を残すようになったのは昨年あたりからです。
五反田の教室など、その場でお客様に棋譜をお渡しする場合はもちろん、そうでないケースでも可能であれば棋譜を取るようにしています。
今年取った棋譜は654局に達します。

と言うと膨大な時間がかかっているように思われるかもしれませんが、そうでもありません。
最近はタブレットPCという便利なものがありますからね。
最後の半コウ争いまで記録するならともかく、ざっと記録するだけなら1局数分程度でしょう。
ただし、多面打ちで指導碁の質を落とさずに記録しようと思ったら、ある程度の棋力と慣れは必要でしょうが・・・。

さて、では棋譜を残したことでどんなメリットがあるか、列挙していきましょう。

〇お客さんに棋譜を渡すことも可能
前述したように、自分で棋譜を取っている方は少数派です。
お客さんの満足感アップにつながるでしょう。

〇局後検討に役立つ
お客さんは当然として、指導者自身が手順を思い出せなくなってしまうことがあります。
もちろん大体は覚えているでしょうが、序盤のちょっとした手を忘れただけでも、後が続かなくなってしまうのです。
特に初心者、初級者の指導でありがちですね。
ですが、棋譜を取っていれば全く問題ありません。

〇お客さんの変化を感じられる
継続して指導している方の場合、自分の指導が相手にどう影響を与えているか、棋譜を比べることで確認できます。
棋譜を取らなくても大体のイメージは残っているかもしれませんが、やはり具体的なものを見た方が間違い無いでしょう。

〇自分の打ち方を客観的に見られる
指導が目的とはいえ、やはり碁を打っている以上は自分の棋力にも何らかの影響を及ぼします。
指導碁を打つにあたって怖いのは、指導のためという免罪符で悪い打ち方をする習慣を付けてしまうことです。
いつの間にか「手が荒れている」ということにならないよう、チェックしておかなければいけません。
しっかりとした打ち方をしていれば、自分の棋力にプラスにすることも可能です。

〇ネタが生まれる
結果的には、私にとって一番プラスになっている要素かもしれません。
講座の題材になったり、問題を思い付いたりすることがよくあります。
棋譜を取っていなければ、著書の出版も無かったでしょう。

〇名前を覚えられる
恥ずかしいのであまり言いたくないのですが、私は人の名前を覚えることが苦手です。
昔からこうだったので、改善は難しそうです・・・。
ところが、その人との対局の棋譜を付ける事によって、格段に覚えやすくなることに気が付きました。
目立ちませんが大きな効能です。


他にも色々とありますが、長くなる一方なのでこのぐらいにしておきましょう。
棋譜取りはあらゆる人におすすめです!