白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

杉内寿子八段

2017年12月21日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、日本棋院で今年最後の対局が行われました。
棋戦は祝日や国民の休日には関係無く年中行われますが、唯一年末年始の僅かな期間だけがオフシーズンとなります。

本日の注目の対局は、何と言っても一力遼八段と志田達哉七段の対局でしょうか。
十段戦挑戦者決定戦進出をかけた大一番は、じっくりとした勝負になりましたね。
最近の一力八段の碁はかなり激しくなった印象ですが、志田七段はじっくりタイプの代表。
今回はどちらかと言えば志田七段の土俵での戦いになったでしょうか?
なお、棋譜は幽玄の間で中継されました。


そして、注目の対局はもう1局あり、それが扇興杯予選、杉内寿子八段と青葉かおり五段の対局です。
寿子八段が落ち込まれていないか心配でしたが、少なくとも盤上では絶好調のようでした。
なんと、50歳以上離れた相手に見事勝利!
何というか・・・観戦していて、寿子八段が強過ぎて笑ってしまいました。
元気いっぱいに戦われることはよく知られていますが、実はヨセもかなり正確であることを知りました。

通常、ヨセはプロが年齢を重ねていく中で最も衰えやすい分野の1つです(もう1つは計算ですね)。
何しろヨセは対局の後半ですから、そこに辿り着いた段階で疲れてしまうのですね。
持ち時間3時間の対局なら大体夕方頃ですから、それも当然というものでしょう。
しかし、寿子八段は平然と乗り切ってみせました。
90歳にして、信じられないような集中力です。

もっとも、最後の方にうっかりミスが出て3目ぐらい損したように見えましたが、それは愛嬌ということで(笑)。
私は思わず悲鳴を上げましたが・・・。
3目半勝てそうな碁が半目勝ちになりましたが、負けにならないあたりは寿子八段も「持っている」棋士なのかもしれませんね。

今後も寿子八段の対局に注目していきたいと思います。

幽玄の間アップデート

2017年12月20日 22時57分28秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は竜星戦で私の対局が放映されました。
これで今年の全対局が終了したことになります。
・・・という表現は、実は正しくないのですが・・・。

生放送ではないので、実際の対局はかなり前に行われています。
「今度の対局、頑張ってください!」と応援の声を頂くも、実際の対局は既に終わっている・・・。
棋士あるあるですね。
もちろん嬉しいので、「ありがとうございます!頑張ります!」とお答えさせて頂きますが(笑)。

ちなみに、竜星戦に限らず、私は自分の対局中の映像を見たことはほとんどありません。
恥ずかしいですから・・・。
対局中に変な癖が出ていたら嫌ですし、自分が悪手を打つ瞬間などは目を背けたくなるでしょう(笑)。
でも、私が変なことをしていたとしたら、皆様はどうぞ笑ってやってください。


さて、昨日幽玄の間アップデートされました。
色々変更点はありますが、最も注目すべきは「解説入り中継を複数同時可能に」という点でしょう。
幽玄の間では、サーバー上で行われる対局とは別に、プロなどの対局の手順を中継しています。



例えば、このように「中継」と書いてある対局ですね。
本日は入れ替わりのタイミングなので日本の碁がありませんが、明日になればここにずらっと並ぶことになります。
「中継」は手順のみですが、「生中継」というものもありまして、そちらは有料会員になると解説のコメントや参考図付きでご覧頂けます。

この生中継、以前はサーバー上で1局しかできませんでした。
ですから、タイトル戦などの注目の対局が同時に複数行われたとしても、その中の1局にしか解説が付けられなかったのです。
なんともったいない、と思っていたのですが、ようやくその問題が解消されたということですね。

複数ということは3つ以上も可能というわけで、色々と可能性が広がりますね。
例えば、毎週木曜日には日本の対局が10局前後中継されますが、その多く、あるいは全ての対局に解説を付けるということも考えられますね。
タイトル戦の生中継のように詳細に解説することは難しくても、簡単な解説ならば1人で多くの対局を担当することも可能です(リアルタイムでは難しいでしょうが・・・)。
当然ながらそれなりに費用はかかりますが、もしこれによって有料会員が100人、200人増えるのであれば悪くありませんね。

実際にそういったことが可能なのか、本当に採算が合うかどうかは私にはよく分かりません。
ただ、どんな形であれ、解説付きの対局が増える=プロの碁の注目度が上がることには期待しています。
AIの台頭以降、プロの棋譜そのものの商品価値は全体的にはいくらか下がったと言わざるを得ないと思います。
新聞やテレビなどで解説される碁はこれからも注目されていくと思いますが、それらは全体の中のごく一部であり、埋もれていく碁が沢山あります。
そういった碁にも光が当たり、価値が認められるようになれば嬉しいです。

AlphaGo Lee対Zero 第10局

2017年12月19日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日は久しぶりのAlphaGo Lee対Zeroシリーズです。
前回から1か月近く経ちましたが・・・。



1図(実戦)
Leeが黒△と伸びた場面です。
ここで、双方の力関係を確認してみましょう。
白△は生きている石であり、そこにくっついている黒〇はカス石です。
一方黒×は孤立している石で、それを切り離している白×は要石です。
そう考えれば、次の白の一手は容易に思い浮かびます。





2図(参考図)
それが白1です。
要石の白×を助け、黒×と黒△を狙います。
棋士なら誰しも、この手を真っ先に考えるのではないでしょうか?





3図(実戦)
ところが、実戦は白1以下、カス石のはずの左下黒を取りに行きました!
その結果、黒8と打たれて要石の白△が弱体化しています。
この白の打ち方は、私の感覚からすれば非常に大きな違和感を覚えます。





4図(実戦)
しかし、実戦はこの後白7、9とおもむろに要石を動き出しました。
カス石の黒△をむしり取って、その上中央も頑張るとは・・・。
しかも、この後中央で先手を取って白Aにまで回っています。
史上最強の呼び声高い本因坊道策でさえ、ここまであくどいことはしなかったでしょう・・・。
この腕力こそが、Zeroの本領と言う気がします。

記念対局

2017年12月18日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
昨日の日記ですが、急いで書いたところ、酷い間違いをしてしまいました。
正しくは「低学年の部と高学年の部」ですが、「小学生の部と中学生の部」と書いてしまいました。
お詫びして訂正いたします。

さて、本日はこども棋聖戦高学年の部の優勝者と井山裕太七冠の記念対局をご紹介しましょう。
なお、棋譜は幽玄の間で中継されました。



1図(実戦)
3子局です。
黒△の挟みに対して、白△をどうするか?
白AやBから捨て気味に打つなどが常套手段ですし、あるいは白Cとぼんやり打って様子を見るなども、3子の碁としては考えられる作戦です。





2図(実戦)
しかし、井山七冠は正面から戦う図を選びました。

3子置かれている以上、時にはかわしたりぼかしたりすることも有効なテクニックです。
井山七冠クラスになると、した手ごなしのアイデアはいくらでも浮かんでくるでしょう。
ですが、井山七冠はこうした記念対局では必ずと言って良いほど、正面からの力勝負を望みます。
第一人者の迫力を、将来ある子供たちに肌で感じさせたいのでしょう。





3図(実戦)
左下白△までの打ち方で白×が孤立しますが、攻めてくればまた戦いになります。
さあぶつかってこい、と胸を貸す気分でしょうか。





4図(実戦)
というところで、黒△とは面白い一手が出ました。
黒AやBを狙って積極的です。
井山七冠も、これには内心ニッコリしたでしょうね。
最後4目残したのも見事でした。

こども棋聖戦

2017年12月17日 23時59分08秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日はこども棋聖戦が行われました。
最近は団体戦も含めて子供の大きな大会が増えましたね。
勉強のし甲斐もあるというものでしょう。

それでは軽く感想を述べたいと思います。
なお、対局の棋譜は幽玄の間で中継されました。



1図(低学年の部)
こちらは低学年の部決勝です。
ここまでお互いに多少の問題点はあるものの、見当違いの手は全くありません。
大会がある度に言っていますが、今の小学生のレベルは本当に高いですね。

この後ほとんど戦いが起きず、ヨセ勝負になったのはお互いの波長が合ったのでしょうか?
小学生の碁には珍しい展開となりましたね。





2図(高学年の部)
こちらは高学年の部決勝です。
右上ではZENが多用する打ち回しをしていますね。
この世代では、AIの打ち方への抵抗感などはあまり無いでしょう。
AIを見て育った世代は、将来どんな打ち方をするのでしょうか?


低学年の部・高学年の部共に隙を見せない打ち回しが印象的でした。
当時の私とはレベルが違いますね。
ただ、1つ指摘するならば、ややまとまり過ぎている印象もあります。
これからまだまだ強くなるのですから、もっと積極的にいった方が伸びるように思います。

と言っても、1局見ただけですべてが分かるわけもありません。
実は普段とんでもなく荒々しい碁を打っているとしてもおかしくないでしょう(笑)。
子供は棋風が固まっていないので、様々な面があるのです。