65歳・75歳・85歳 どうすれば年齢の壁を越えられるか 長寿を左右するのは「実年齢」より「主観年齢」 老化のスピードは45歳で個人差が生じる
ZakZak より 230222
⚫︎積み重なる実年齢と主観年齢は違う
健康長寿のハードルとされる年齢壁、つまり「65歳」「75歳」「85歳」を乗り越えるため、何をすべきかを述べてきました。
そうした「実年齢」の壁とともに大事なのが、「主観年齢」です。
いまの自分自身が感じている年齢が主観年齢で、これが若ければ実際の老化の進行が遅くなるという調査研究があるのです。つまり、生まれてから何年経ったかよりも、自分はいま何歳を生きているのかという感じ方の方が大事だというわけです。
例えば、人の年齢を聞いて驚くことがあると思います。年を取っても若く見える人、それ相応に見える人、より老けて見える人がいますが、このうちもっとも健康で長く生きるのは年を取っても若く見える人です。
それはその人が若い気持ちで生きているからです。
日米の老化に関する調査研究が教えてくれるのは、「自分は年寄りだと思った人が年寄りなのだ」ということです。
例えば、米モンペリエ大学のヤニック・ステファン博士が1万7000人以上の中年・高齢者を追跡調査した研究によると、参加者のうち実年齢より年を取ったと感じている人の結果は散々なものでした。
教育や人種、結婚歴といった要素を除いたうえで、主観年齢が実年齢より8~13歳上の人を見ると、対象期間中の死亡リスクや病気による負荷が、通常の18~35%も高かったのです。
このほかの米国の調査研究でも、主観年齢が実年齢より若いと思っている人は、うつ病の発症リスクが低いとか、認知症のリスクが軽減されるという結果が出ています。
バージニア大学のブライアン・ノセク氏とニコール・リンドナー氏は、人生における実年齢と主観年齢の違いの変化を追跡調査しました。それによると、ほとんどの子供や若者は実年齢よりも主観年齢の方が高くなっています。
この傾向は25歳前後で逆転します。そうして、主観年齢が実年齢よりも低くなっていきます。30歳になるまでに全体の7割が実年齢よりも若いと感じるようになり、それ以降、その違いはどんどん広がります。
つまり,人間は「いつまでも若くありたい」と願い,その願望が強いほど長生きするのです。
ただし、ともかく若いと思い込み、主観年齢を若くすればいいのかというと、そうでもないようです。
老化スピードの個人差がどうして生じるかを調査した最近の論文によると、老化のスピードには45歳の時点で大きな個人差が生じると言います。
これはニュージーランドで同年齢の住民を20年間追跡調査した結果ですが、高齢になってからの老化のペースが速い人では、45歳時点ですでに頭部MRI画像に、大脳皮質が薄い、海馬の体積が小さいなどの変化(認知機能の低下)が生じているというのです。
他の身体的機能の低下も45歳時点で生じていました。つまり、45歳がターニングポイントなのです。
つまり、老化を実年齢だけで判断するのは間違いだということです。今後、研究はさらに進むでしょうが、いま言えることは、中年期からアンチエイジング対策は必要ということ。そして、そのためには主観年齢を常に若く保つ努力が必要ということでしょう。
現時点で老化のメカニズムは完全に解明されておらず、老化のスピードを遅らせる方法もわかっていません。
ただ、老化に関する遺伝子の寄与率は25~30%とされ、残りの70~75%は、環境(食生活、生活習慣)と精神的なものとされます。
長寿を願うなら、「自分は年を取った」などと、けっして思わないことです。 =おわり
■富家孝(ふけ・たかし)医師、ジャーナリスト。1947年大阪府生まれ。72年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。