1年遅れの将来推計人口がいまだ公表されない謎
東洋経済Online より 230320 土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授
⚫︎人口はどこまで減るのか
2023年初にも公表されると見込まれていた、わが国の将来の人口見通しが、3月に入ってもまだ公表されていない。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が5年に1度作成する「将来推計人口」である。
前回の「将来推計人口」は、6年前の2017年4月に公表された。その時にも同じような出来事があったことを、東洋経済オンラインでの拙稿「将来推計人口の怪、甘い出生率予測は禁物だ」でも記したところである。本来公表されるべき時期になぜか公表されず、遅れて公表されたのだ。
5年に1度公表される「将来推計人口」は、1997年1月、2002年1月、2006年12月、2012年1月と、かなり定期的に公表されてきた。それが、前回の2017年4月は3カ月ほど遅れての公表となった。
⚫︎「コロナで調査遅れ」だけではない事情
2017年の次は2022年だが、もう2023年になり、今回は既に1年遅れとなっている。
その理由は明らかにされている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、厚生労働省が実施する予定だった「2020年国民生活基礎調査」が中止となり、同時に実施される予定だった「出生動向基本調査」の実施が1年延期されたためである。
それでも、2023年の早い時点をメドに取りまとめることとしていた。しかし、本稿執筆時点では依然として公表する日時すら明らかにされていない。その背景には何があるのか。
1つの衝撃的な出来事は、2022年の出生数である。79万9728人と80万人を割った。
前回2017年4月の「将来推計人口」では、出生数が80万人を割るのは2030年(出生中位の推計)だったから、出生数の減少が8年ほど早まったことになる。
それでも、2023年の早い時点をメドに取りまとめることとしていた。しかし、本稿執筆時点では依然として公表する日時すら明らかにされていない。その背景には何があるのか。
1つの衝撃的な出来事は、2022年の出生数である。79万9728人と80万人を割った。
前回2017年4月の「将来推計人口」では、出生数が80万人を割るのは2030年(出生中位の推計)だったから、出生数の減少が8年ほど早まったことになる。
ただ、「将来推計人口」の出生低位の推計と比べると6.7万人ほど多いので、この実績の出生数は、中位推計と低位推計の間の値となっている。
2022年の出生数の実績値は何を物語るか。2つの含意がある。
1つは、コロナ禍での出生数の大幅な減少は、一時的なものか継続的なものかを見極めなければならないという点である。
出生数が、前回の「将来推計人口」の出生中位推計より乖離が顕著になったのは、コロナ前の2019年からである。
2022年の出生数の実績値は何を物語るか。2つの含意がある。
1つは、コロナ禍での出生数の大幅な減少は、一時的なものか継続的なものかを見極めなければならないという点である。
出生数が、前回の「将来推計人口」の出生中位推計より乖離が顕著になったのは、コロナ前の2019年からである。
だから、この出生数の大幅な減少は、コロナ禍だけが原因とは直ちに断定できない。
しかも、今後の出生数の見極めに重要な資料となる「出生動向基本調査」は2021年に実施されているのだが、2022年の出生数のさらなる減少は、その調査の後で起きている。したがって、今後の出生数の動向は、これも含めて丁寧に見極める必要がある。
⚫︎初年の数字は推計を左右する
もう一つは、推計の発射台をどう置くかに関わる点である。
そもそも「将来推計人口」は、観測された人口学的データの過去から現在に至る傾向・趨勢を、将来に投影したものと位置付けられている。
しかも、今後の出生数の見極めに重要な資料となる「出生動向基本調査」は2021年に実施されているのだが、2022年の出生数のさらなる減少は、その調査の後で起きている。したがって、今後の出生数の動向は、これも含めて丁寧に見極める必要がある。
⚫︎初年の数字は推計を左右する
もう一つは、推計の発射台をどう置くかに関わる点である。
そもそも「将来推計人口」は、観測された人口学的データの過去から現在に至る傾向・趨勢を、将来に投影したものと位置付けられている。
したがって、推計を行う初年の値をどう設定するか次第で、その後の出生数の値も異なってくる。
同じ傾向・趨勢を踏まえるとしても、推計の初年の出生数が多ければ、将来の出生数もより多くなるし、初年の出生数が少なければ、将来の出生数もより少なくなる。
こうした意味で、2022年の出生数のさらなる減少は、人口推計にインパクトを与えることとなるだろう。
加えて、「将来推計人口」の公表時期をめぐっては、もう1つ無視できない影響が作用していると考えられる。それは、公的年金の財政見通しとの関係である。
そもそも「将来推計人口」を作成する主たる目的は、公的年金の財政見通し(年金の財政検証)を計算する際に用いることである。
同じ傾向・趨勢を踏まえるとしても、推計の初年の出生数が多ければ、将来の出生数もより多くなるし、初年の出生数が少なければ、将来の出生数もより少なくなる。
こうした意味で、2022年の出生数のさらなる減少は、人口推計にインパクトを与えることとなるだろう。
加えて、「将来推計人口」の公表時期をめぐっては、もう1つ無視できない影響が作用していると考えられる。それは、公的年金の財政見通しとの関係である。
そもそも「将来推計人口」を作成する主たる目的は、公的年金の財政見通し(年金の財政検証)を計算する際に用いることである。
公的年金の給付を将来どれだけ出せるかは、その原資となる年金保険料を払う将来の就業者人口にも大きく依存する。
だから、公的年金の財政見通しを示すうえでも、この「将来推計人口」は重要なデータとなる。
しかし、足元の出生数の減少は、将来の年金財政に暗い影を落とす。
今のわが国の公的年金制度は、実質的には賦課方式である。
しかし、足元の出生数の減少は、将来の年金財政に暗い影を落とす。
今のわが国の公的年金制度は、実質的には賦課方式である。
つまり、今ある公的年金積立金を取り崩して将来の給付の足しにはするものの、実質的には高齢世代への年金給付は、その時の若年世代の年金保険料で賄われる仕組みである。
⚫︎少子化の加速で将来の年金給付が減る
そうなると、将来の年金給付は、将来の若年世代の人口にも大いに依存する。
⚫︎少子化の加速で将来の年金給付が減る
そうなると、将来の年金給付は、将来の若年世代の人口にも大いに依存する。
足元で出生数が減ると、20~60年後の就業者人口がその分減ることとなり、それだけ年金保険料収入が減ることになる。すると、それだけ年金給付はより少なくしか出せなくなる。
もちろん、厳密な計算は、今回の「将来推計人口」が出されてからでないとできないのだが、論理的に考えれば、前述のようなことは想像できる。
端的にいえば、今回の「将来推計人口」で、前回よりもさらに少子化が進んで将来の就業者人口の減少が顕著になれば、将来の年金給付が以前と比べて少なくなるかもしれないという連想が働く。しかも、今回の「将来推計人口」が公表されることでそれが鮮明となる。
そう考えれば、今直ちに新しい「将来推計人口」を出してよいか、というタイミングの見計らいが起きる。
そういえば、4月には統一地方選挙がある。もちろん、公的年金は国政の案件であって、地方行財政の案件ではない。
もちろん、厳密な計算は、今回の「将来推計人口」が出されてからでないとできないのだが、論理的に考えれば、前述のようなことは想像できる。
端的にいえば、今回の「将来推計人口」で、前回よりもさらに少子化が進んで将来の就業者人口の減少が顕著になれば、将来の年金給付が以前と比べて少なくなるかもしれないという連想が働く。しかも、今回の「将来推計人口」が公表されることでそれが鮮明となる。
そう考えれば、今直ちに新しい「将来推計人口」を出してよいか、というタイミングの見計らいが起きる。
そういえば、4月には統一地方選挙がある。もちろん、公的年金は国政の案件であって、地方行財政の案件ではない。
しかし、国政の政権与党にとって不利になるような情報は、地方選挙にも不利に働くことはあっても有利に作用することはない。
事務方では既に公表の準備ができているが、今出すのは得策ではない……ということになっていないことを願う。
「将来推計人口」は、社人研が作成するのだが、お披露目となる舞台は、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会人口部会である。
事務方では既に公表の準備ができているが、今出すのは得策ではない……ということになっていないことを願う。
「将来推計人口」は、社人研が作成するのだが、お披露目となる舞台は、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会人口部会である。
この部会の会合の開催は事前に案内が出るのだが、本稿執筆時点ではその開催案内は出されていない。今回の「将来推計人口」の公表はいつになるのだろうか。