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大西洋の大きい海流が止まってしまうと、世界規模の大災害が始まる  202206

2022-06-19 20:56:09 | ¿ はて?さて?びっくり!

大西洋の大きい海流が止まってしまうと、世界規模の大災害が始まる
  Gizmodo より 220619   Kenji P. Miyajima


⚫︎『デイ・アフター・トゥモロー 』の世界が現実になるのを想像する日がくるとは…。
 もしもメキシコ湾から北大西洋へ向かう海流が停止するようなことになれば、地球全体の風や気温、降雨パターンを急変させるかもしれないことが新たな研究で明らかになりました。
 この大西洋南北熱塩循環(AMOC: Atlantic Meridional Overturning Circulation)と呼ばれる海流は、人為的気候変動によってすでに減速しているのですが、AMOCがもしも完全に崩壊してしまった場合、これまで予測もしなかったような影響があるそうです。

 AMOCが止まってしまえば、熱帯太平洋の気温は低下し、貿易風は強くなって南下するそうです。その結果、ラニーニャ発生時のような気候になって、南太平洋で壊滅的なモンスーンと洪水を引き起こし、北米の一部では干ばつと暑さが激しくなる可能性があるとのこと。
 言い換えると、もしもこのまま世界が気候変動対策をしないでAMOCを暴走させてしまったら、いまでもカオスな気候は、想像を超えてひどくなるってことです。

⚫︎AMOCってなに?
 AMOCは、暖かい海水を北大西洋に運ぶすっごく重要な海流です。ヨーロッパがあんなに北にあるのに穏やかで温暖な気候を保っていたり、漁業が盛んだったりするのは、この海洋循環が炭素や栄養素、熱を運んでくれるから。
 ロンドンなんて、カナダのニューファンドランド・ラブラドール州のルンズ=オー=ループと緯度が同じくらいなのに、AMOCのおかげで1月の平均気温は21.7度も高いんです。北海道や東北地方と緯度が同じ地域でも、ヨーロッパは暖かいですもんね。

 AMOCのコンベヤーベルト(海洋循環)は、海水の「熱と塩分の密度」の違いが駆動力になっています。密度の差によって、海水が押されて進むという感じです。氷が解けたり海が凍ったりして海水温と塩分濃度が相対的に変化することで、海流にも変化が生じます。 
 AMOCの動きは地球の歴史を通して変化していますし、遠い過去には止まったこともあるんですよ。

 AMOCが最後にほぼ停止したのは、「ヤンガードリアス期」と呼ばれる約1万4500年前のこと。最終氷期から間氷期に入って温暖化がはじまった状態から、また急激に気温が低下しました。この寒冷化はその後3,000年続いたそうです。
 原因は諸説ありますが、ハッキリしたことはまだわかっていません。これが『デイ・アフター・トゥモロー』に最も近い現象ですね。

⚫︎AMOCになにが起こっているの?
 ある研究結果によると、AMOCは1950年代から15%減速しているそうです。原因の一端は、人間活動による気候変動で海洋と大気の状態が変わったからとのこと。AMOCは気候の安定にすごく重要なため、この海流が崩壊する可能性を、気候科学者らは「ティッピングポイント(不可逆的で懸念すべき大きな転換点)」と呼んでいます。

 AMOCの減速が、崩壊間近を意味しているわけではありません。4月に発表された研究結果は、AMOCはこれまで考えられていた以上に、氷の融解や淡水の流入への反応が小さいと結論づけています。
 2014年のIPCC第5次報告書は、最悪のシナリオでもAMOCは3分の1減速するだけで停止はしないと予測しています。アマゾンの熱帯雨林における生態系崩壊などのほうが、AMOCよりも先に気候の転換点を迎えると科学者は強調しています。

 なんの慰めにもならないかもしれませんが、突然『デイ・アフター・トゥモロー』のような世界になるんじゃないかと不安マックスになる前に、もっと差し迫った終末論的な問題があることを頭に入れておいたほうがいいと思います。

⚫︎でもしかし、もしもAMOCが本当に崩壊したら?
 それでも、万が一のことが起こったらどうなっちゃうのか、気になるものは気になりますよね。新たな研究は、あり得なそうな未来を詳しく伝えています。

 AMOCがなければ、北半球と大西洋の大部分が大幅に寒冷化して海氷が拡大することは、過去の研究で明らかになっています。今回の研究はそれを裏付けるもので、北大西洋とヨーロッパの一部地域では、AMOCが止まって数十年で平均気温が15度以上も下がるそうですよ。

 でも、気候モデルは、AMOC崩壊の影響は大西洋海盆や北半球にとどまらず、地球規模で急激な気候の変化を引き起こすことを示しています。研究論文の著者のひとりである 
 Matthew England氏は、以下の連ツイでどんなことが起こるかについて、地図を用いて説明しています。

 北半球の太平洋では海水温が低下します。北半球は乾燥して、南半球では雨が多くなります。ユーラシア大陸やその他の北半球の地域では、いまよりも高気圧に覆われるようになります。貿易風は南下して強くなり、他の地域でも風は強まるそうです。残念なことに、南極の氷床融解は加速するでしょう。

 要するに、わたしたちが慣れ親しんできたこの星の気候がなにもかも狂っちゃうんです。今回の研究によれば、AMOC崩壊の影響を受けない場所は、地球上どこにもないのだとか。

 オーストラリアのニューサウスウェールズ大学で海洋学博士課程に在籍するByram Orihuela-Pinto氏は、メールで米Gizmodoにこう話してくれました。

 AMOCの崩壊は、地球規模で気候に影響を与え、熱帯太平洋の海流と風は平均的なラニーニャ時のような状態になるでしょう。

 エルニーニョと真逆の気象現象がラニーニャです。どちらも海面水温の変動によって気圧の変化が起こり、地球規模で気候に影響を及ぼします。
 一般的に2~7年ごとに発生するラニーニャによって、南太平洋の一部や中国南部、インドでは気温が低下し、降水量が増加します。アメリカ南部は、広い範囲で気温が高くなり、乾燥します。2年目に入ったラニーニャの影響が直撃している米南部から南西部が、いままさにその状態です。しかも歴史的なエグさです。

 ラニーニャは、オーストラリアで起こった史上最悪の洪水や、カリフォルニアの壊滅的な干ばつにも影響を与えています。以下の図は、ラニーニャ発生時の夏(上)と冬(下)の気候をまとめています。

⚫︎ラニーニャ発生時における冬の気候の特徴
 過去から学べば未来を変えられる
もう一度言います。パニックを起こさないようにしてください。研究者も,「この研究は予測ではなく,万が一のシナリオです。すでに減速しているAMOCはさらに遅くなるでしょう。
 この研究は,万が一この循環が完全に崩壊してしまったら,地球の気候がどうなってしまうのかを示しているに過ぎません」と述べています。ちゃんと気候変動緩和策を実行すれば,このシナリオは現実味を失っていきます。

 この「万が一」のシナリオは、コンピュータモデルに依存しており、実際のデータによって検証されたわけじゃないことも重要です。モデルはしっかりしていて、過去の研究に沿った結果になっているものの、やはりデータ不足が論文の説得力を下げているようです。

 AMOCの速度がもっと遅かった過去の気候を再現するための指標があるにもかかわらず、今回の研究はモデルが示す未来と過去の記録を比較していないのだとか。その部分を検証した研究が発表されるのを、パニックを起こさずに待ちましょう。

 これから起こることのヒントは、過去にあります。未来の気候に備えるために、もっと過去に目を向けるべきなんですよね。どこまでさかのぼらなきゃいけないかは、わたしたちが気候変動対策をどれだけほったらかしにするかによります。想像するのも恐ろしくなるくらい暑かった過去までさかのぼりたくないものです。

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