刑事・警察ドラマが一変した意外と知らない契機
東洋経済オンライン 220724 小林 偉:メディア研究家
⚫︎刑事・警察ドラマの変遷を掘り下げます
1999年1月から23年余りにわたって、テレビ朝日系の20時台に放送されてきた「木曜ミステリー」が、放送中の『遺留捜査』(第7シリーズ)をもって廃枠というニュースが話題となりました。
1999年10月にスタートし、今年4月に終了の第21シリーズまで放送された『科捜研の女』をはじめ、2012年に単発スペシャルとして始まり、2016年4月から連続ドラマ化された『警視庁・捜査一課長』(第6シリーズまで)、また故・渡瀬恒彦主演の『おみやさん』(第9シリーズまで)などなど、多くの人気刑事・警察ドラマを生んだ枠……。
以前、筆者が調査したところ、過去25年の全民放連ドラの約19%、実に5本に1本が刑事・警察ドラマで、その中の実に約58%がテレビ朝日系という結果でしたから……まさに刑事ドラマ量産枠の閉鎖ということになりますね。
そこで今回、筆者は改めて刑事・警察ドラマの変遷について掘り下げてみようと思い立った次第です。
⚫︎『踊る大捜査線』の前と後
すでに多くの方が指摘されていることとは思いますが、刑事・警察ドラマの分岐点は『踊る大捜査線』(フジテレビ系/1997年)という点です。この作品が呈示した、様々なファクターが面白すぎたために、これ以前と以後で、ドラマの作りを大きく変えてしまったと言っても過言ではないと思います。さて、どんな影響があったかというと……。
影響① 登場警察官の階級
警察法で定められた警察官の階級は、巡査⇒巡査部長⇒警部補⇒警部⇒警視⇒警視正⇒警視長⇒警視監⇒警視総監の9段階です。
『踊る大捜査線』の青島俊作(織田裕二)の階級は巡査部長、室井慎次(柳葉敏郎)は警視正(番組開始時)でした。ドラマ中で、こうした階級を前面に押し出したのは、おそらくこの作品が初。企画段階では『サラリーマン刑事』という仮タイトルだったそうですから、“出世”というキーワードを際立たせる上でも重要なファクターだったのだと思います。
思い返せば、それ以前の刑事・警察ドラマ、例えば『太陽にほえろ!』(日本テレビ系/1972-86年)の藤堂俊介(石原裕次郎)や、『西部警察』(テレビ朝日系/1979-84年)の大門圭介(渡哲也)などがドラマ中、階級を名乗ることはほとんどありませんでした(ちなみに、藤堂、大門ともに、警部だったと推察されます)。
それが今では、大抵の刑事・警察ドラマで階級を名乗ったり、問われたりするシーンが頻発。各テレビ局によるホームページの番組紹介にも、階級がしっかりと記されたりしています。
影響② 登場警察官の官職
前述の室井慎次(柳葉敏郎)の初登場時の官職は、警視庁刑事部・捜査一課・管理官。管理官とは、警視庁本部の役職で、主に重大事件の捜査本部を指揮・管理する重要なポスト(ちなみに、総勢400人超という警視庁・捜査一課の中で管理官は10数人だとか)。こうした警察内の役職を前面に出したのも『踊る大捜査線』が先駆け。これ以前は、ドラマ中で扱われることもまれでした。
それが現在では、ドラマ中で管理官、監察官などが登場してくるのはもちろん、『管理官・明石美和子』(テレビ朝日系/2018年)、『管理官キング』(テレビ朝日系/2022年)、『嫌われ監察官 音無一六』(テレビ東京系/2013年~)などなど、大々的にタイトルに冠するドラマも多く登場するまでになっています。
影響③ キャリアとノンキャリア
警察官は、国家公務員・総合職として年に30名前後採用される、いわゆる“キャリア”と、地方公務員である、いわゆる“ノンキャリア”と呼ばれる方々に分類されます。ノンキャリアは一部の例外を除いて巡査から階級が始まるのに対して、キャリアの初任階級は警部補。その後も無試験で昇級し、早ければ7年で(要するに20代中)、警視へ昇級するそうです。
ノンキャリアは,一つ一つ昇級試験をパスしていかなければならず、警視になるのは早くて40代半ばというのですから、この差は激しいですよね。
そんな警察官のキャリアとノンキャリアの違いを明確に描いたのも『踊る大捜査線』が最初。刑事・警察ドラマに限らず、この言葉を広く浸透させる一役を担った点も大きいと思います。
⚫︎『踊る大捜査線』は新たな構図を呈示した
影響④ ショカツと本庁
前述の『太陽にほえろ!』は七曲署、『西部警察』は西部署、『踊る大捜査線』は湾岸署という、いずれも警視庁管内の架空の警察署が舞台。いわゆる“所轄署”です。
かつての刑事・警察ドラマは、こうしたショカツ署の刑事たちの活躍のみでほとんどの事件を解決へと導いていたワケですが、『踊る大捜査線』は、ショカツ署の活躍に加え、それに良くも悪くも対峙する本庁(警視庁本部。このドラマ中では“本店”)という、新たな構図を呈示したのが斬新でした。「ショカツは引っ込んでろ」などと本庁の警察官が恫喝したり、逆に「ショカツの意地、見せてやりましょう」なんて所轄署員たちのセリフなど、今では刑事・警察ドラマの定番となっていますよね。
こうして『踊る大捜査線』が呈示したファクターが、刑事・警察ドラマの作り方を大きく変えたのは、間違いないことと思いますが、筆者はもう一つ、流れを変えた作品があると思います。
⚫︎それが……『ケイゾク』(TBS系/1999年)です。
中谷美紀、渡部篤郎主演で、迷宮入り事件を専門に扱う、警視庁刑事部・捜査第一課弐係という架空の部署が舞台の作品。後の『TRICK』シリーズ(テレビ朝日系/2000年~)に繋がる、演出家・堤幸彦による脱力系演出も話題となりましたが、この作品のユニークさは、迷宮入り事件に特化した部署という設定でした。
そんな警察官のキャリアとノンキャリアの違いを明確に描いたのも『踊る大捜査線』が最初。刑事・警察ドラマに限らず、この言葉を広く浸透させる一役を担った点も大きいと思います。
⚫︎『踊る大捜査線』は新たな構図を呈示した
影響④ ショカツと本庁
前述の『太陽にほえろ!』は七曲署、『西部警察』は西部署、『踊る大捜査線』は湾岸署という、いずれも警視庁管内の架空の警察署が舞台。いわゆる“所轄署”です。
かつての刑事・警察ドラマは、こうしたショカツ署の刑事たちの活躍のみでほとんどの事件を解決へと導いていたワケですが、『踊る大捜査線』は、ショカツ署の活躍に加え、それに良くも悪くも対峙する本庁(警視庁本部。このドラマ中では“本店”)という、新たな構図を呈示したのが斬新でした。「ショカツは引っ込んでろ」などと本庁の警察官が恫喝したり、逆に「ショカツの意地、見せてやりましょう」なんて所轄署員たちのセリフなど、今では刑事・警察ドラマの定番となっていますよね。
こうして『踊る大捜査線』が呈示したファクターが、刑事・警察ドラマの作り方を大きく変えたのは、間違いないことと思いますが、筆者はもう一つ、流れを変えた作品があると思います。
⚫︎それが……『ケイゾク』(TBS系/1999年)です。
中谷美紀、渡部篤郎主演で、迷宮入り事件を専門に扱う、警視庁刑事部・捜査第一課弐係という架空の部署が舞台の作品。後の『TRICK』シリーズ(テレビ朝日系/2000年~)に繋がる、演出家・堤幸彦による脱力系演出も話題となりましたが、この作品のユニークさは、迷宮入り事件に特化した部署という設定でした。
ここから発想が広がっていき、海外ドラマの影響なども相まって、“刑事・警察ドラマの部署・細分化時代”が始まったのではと筆者はにらんでおります。
⚫︎特殊な部署に所属する刑事(警察官)だらけ
例えば、神奈川県警の広報課に所属し、写真的記憶力と画才による“似顔絵捜査”を展開する平野瑞穂(仲間由紀恵)が活躍する『顔』(フジテレビ系/2003年)、
⚫︎特殊な部署に所属する刑事(警察官)だらけ
例えば、神奈川県警の広報課に所属し、写真的記憶力と画才による“似顔絵捜査”を展開する平野瑞穂(仲間由紀恵)が活躍する『顔』(フジテレビ系/2003年)、
警視庁捜査一課・強行犯係所属ながら、“ベッパン(別班)”と呼ばれる部署にいてたぐいまれな記憶力を活かす春瀬キイナ(菅野美穂)が活躍する『キイナ~不可能犯罪捜査官~』(日本テレビ系/2009年)。
通常では手に負えない超能力などが駆使された犯罪を追う当麻紗綾(戸田恵梨香)が主人公の『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿』(TBS系/2010年)、
通常では手に負えない超能力などが駆使された犯罪を追う当麻紗綾(戸田恵梨香)が主人公の『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿』(TBS系/2010年)、
警視庁捜査一課・緊急事案対応取調班に配属された真壁有希子(天海祐希)たちの活躍を描く『緊急取調室』(テレビ朝日系/2014年~)。
警視庁捜査一課・科学捜査係文書解読班に配属された矢代朋(波瑠)の活躍を描いた『未解決の女 警視庁文書捜査官』(テレビ朝日系/2018年~)、
警視庁捜査一課・科学捜査係文書解読班に配属された矢代朋(波瑠)の活躍を描いた『未解決の女 警視庁文書捜査官』(テレビ朝日系/2018年~)、
SNSへの悪質な書き込みによる様々な事件を扱う、通称“指殺人対策室”所属の万丞渉(香取慎吾)が主役の『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(テレビ東京系/2021年)。
警視庁捜査一課・科学犯罪対策室・室長の小比類巻祐一(ディーン・フジオカ)たちが、最先端科学が絡んでいると思われる難事件に挑む『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系/2022年)、
警視庁捜査一課・科学犯罪対策室・室長の小比類巻祐一(ディーン・フジオカ)たちが、最先端科学が絡んでいると思われる難事件に挑む『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系/2022年)、
被疑者の感情が色になって見える、神奈川県警東神奈川署刑事1課強行犯1係巡査部長・心野朱梨(飯豊まりえ)の活躍を描く『オクトー~感情捜査官・心野朱梨~』(日本テレビ系/2022年)などなど、
警視庁内にはどれだけ部署があるんだ……と思うほど、特殊な部署に所属する刑事(警察官)だらけとなっているのが現状です。
冒頭の「木曜ミステリー」廃枠に象徴されるように、旧来の、叩き上げの、人情派の刑事(デカ)が事件を解決する刑事・警察ドラマは、少々残念ながらもはや、風前の灯。
冒頭の「木曜ミステリー」廃枠に象徴されるように、旧来の、叩き上げの、人情派の刑事(デカ)が事件を解決する刑事・警察ドラマは、少々残念ながらもはや、風前の灯。
組織の中で柔軟に立ち回りながら、時に特殊な犯罪を、特殊な捜査方法を駆使して解決する……それが『踊る大捜査線』『ケイゾク』を経た、現代の刑事・警察ドラマとなっているのではないでしょうか。
(文中敬称略)
(文中敬称略)